冒険が始まる!?
よぉ~し‼ アークの相棒となり、やがては冒険者として名を馳せる俺の計画は順調に進んでいるぜ。しっかし、あいつも大げさだよな。
俺が相棒になってやっただけで、どんだけ喜んでんだよ!
まあ、ただのいけ好かないイケメンと違って、可愛げのある奴だ。所詮は20歳の子供って事か。まさか土下座までしてくるなんて思いもしなかった。
それだけ俺の隠された能力が強力って事なんだろうけどよ。確かに、居るだけで何倍も強くなるスキル持ちを手放す理由がないわな。
なんだか嫌にスキンシップが多い気もするが、冒険者なんだからこんなもんなのかも知れん。男同士なんだからいちいち気にする事でもないよな……いや、今は女だけどよ。
大体アークの奴は見るからに女に困ってなさそうだし、きっと健全な相棒同士になれるはずだ。
お前の人脈にも期待してんだから、マジで頼むぜ。
意気揚々と村を出ようとした俺だったが、ヤバい事に気付いてすぐにアークを呼び止めた。
「あああ!?」
「どうしたんだ、エリス?」
「母さんに、旅に出るって言ってねぇ……」
何だかんだ、今の俺をここまで育ててくれたお袋だ。
無断で冒険なんか出たら心配させちまうからな。
「そうか……確かに、君のお母さんにも挨拶をしないといけなかったね」
「お、おう……でも、母さんって外出に厳しいからなぁ」
小さな頃から遠くに行こうとすると、「エリス‼ あなたはか弱いんだから無理しちゃダメよ」なんてことを口が酸っぱくなるほど言ってきやがるんだ。
心配して言ってくれてるのが分かってるから性質が悪いんだよ!
「……うーん、母さんになんと言えば良いのか」
冒険者への道は、転生者の俺にしてみればようやく見つけた輝かしい天職なんだ。何とか納得させて、外へと出て行きたいんだが……俺って、お袋と口論して勝てたこと無いんだよな。
「大丈夫だ。エリスのお母さんには、私から話をしておく」
自信満々で隣のイケメンがニコリと笑う。
すっげームカつくんだが、任せることにした。
***
「エリスはここで待っていてくれ」
自分家に着いた俺を玄関前で待たせたアークはさっさと家の中へと入って行く。
やがて、お袋とアークが何やら口論する声が聞えてきた。
『そんな――!! あの娘にはっ……――――』
『すでに………です。エリスは……――――!』
うん、何を話してるのかサッパリ分からん。
とりあえず口論戦は互角っぽいな、がんばれよアーク!
立ったまま寝ていると、玄関の扉が勢いよく開き、中からお袋とアークの奴が出て来た。おっ、話がついたのか! やるじゃねぇか!
「おーい、母さん! アークから聞いてると思うが、おれ――」
「エリスッ!! アーク様から聞いた話は、ホントなの? あなたが、アーク様のパートナーになる事に同意したって……」
鬼気迫るお袋の形相を見て、つい漏らしそうになった。
なっただけで、漏らしてないからな……?
けど、なんだよいきなり。
せっかくの門出なんだからカリカリしないで貰いたいもんだぜ。
「お、おう! そうだぜ母さん。俺は、アークの奴とパートナーになるんだ」
「エリス……あなた、カイト君の事はどうするつもりなの?」
ん? ああ、なんだそういうことか。
そういや、村に戻るまで待ってるとか言う話をお袋も聞いてたんだっけか。それでこんなに怒ってんのかよ。
「カイトの奴は……いいんだよ」
勇者なんだから、美女軍団とPT組んでたりするだろう。聖女とかエロい服着た武闘家とか……おまえ、そんなのに囲まれたら我慢できるわけねぇべ。
だから律儀に村で待っている必要など無し!
「いいって……エリス! あなた、自分がやってる事が分かってるの? あなたはカイト君じゃなく、アーク様に乗り換え――」
「その辺にしてくれませんか? 私のパートナーを侮辱するような発言は、いくら彼女の母親と言えど許容できません」
「……っ」
あん? 一体何の話してんだこいつら。
「どういう意味だよ?」
「……いいえ、なんでもないわ。確かに少し言い過ぎだったわね。それがあなたの決めた道ならば、責任を持って歩みなさい」
「お、おう……? 正直、そんな素直に応援して貰えるとは思わなかったぜ」
「もしカイト君が帰ってきたら、私の方から言っておくわ……」
「えっ、いやそしたら俺から会いに行ってもいいんだが」
「そんなの、ダメに決まってるじゃないッ! それがどれだけカイト君を傷つける行為なのか分かっているの!?」
「えぇ……?」
待ってろって言ったり、会うなと言ったり訳分かんねぇな。
まあ、お袋が伝えてくれるっつーならお言葉に甘えるとするか。
「んじゃ、カイトの奴が帰ってきたら頼むぜ!」
「それじゃ、行こうかエリス」
「……どうして、こんなことに。エリス……あんなにもカイト君想いだったあなたに、何があったというの?」
なんか心配そうな目で俺の事を見ていたので、ニカッとお袋に笑いかけた俺は、アークと共に村を出発した。
何か知らんが、終わり良ければすべてよし!!
俺の冒険が――遂に始まるぜ!
エリスの家での会話
「失礼します。冒険者のアークと申します」
「あらっ! アーク様じゃありませんか。村長さんから聞きましたよ、魔物の巣を駆除して下さったとか! ホントにありがとうございます~!」
「いえいえ、皆さんに被害が出る前に駆除できてよかったです」
「色男な上に、人格まで立派だなんて……アーク様とご結婚なさる方は幸せですね~!」
「……実は、その事についてお話したいことがあります」
「そんな改まって、どうしたんですか?」
「娘さんを……エリスさんを、私の伴侶とすることをお許し願いたいのです」
「……えっ? ちょ、ちょっと待ってください! 何を仰ってるのか」
「エリスさんを、私の妻にしたいと言っているのです」
「そんな――! あの娘にはっ、カイト君という彼氏が居て!」
「すでに、エリスさんは私の伴侶なんです。エリスは……私を選んでくれた」
「う、うそよ。カイト君を捨てて、他の男をウチの娘が選ぶなんて……!」
「だったら、本人に聞いてみれば済む話です。行きましょうか」
「エリス……嘘よね? あなたには、大好きな幼馴染がいるでしょう?」