またイケメンかよ!?
ホモ幼馴染を追い出してから、数日が経った。
男から愛を囁かれる日々で弱っていた精神も大分回復したぜ。
カイトの事は嫌いじゃねーんだけど、あれだけは本当に勘弁して欲しかったからなぁ。悪いが、ホモの道へ一緒に進むことは出来ねぇんだ。
とはいえ、カイトの奴が居なくなってから毎日が益々平凡すぎてつまらなくなってきたんだよな。
ああ、冒険がしてぇ。血が疼いてくるわ。
だってここは、剣と魔法のファンタジー世界なんだぜ? 村の生活ばっかりで、剣も魔法も殆ど見た事ねぇけどよ。男なら一度は夢見るだろ‼ 映画で見たような壮大な冒険って奴を。
だから村を出ようかな……なんて考えてる。
カイトの奴にはここで待ってるなんて言ったが、どうせあいつはハーレム作って二度とこんなモブ村に寄るはずないからな。反故にしたって良いだろ。
「おいおい、変人エリスじゃん。カイトの野郎が居なくなってとうとう独りぼっちになっちまったなぁ?」
「へへ、男言葉をしゃべるイカれ女に近寄りたい奴なんていないもんな!」
「今日もチャンバラごっこでもやるのか? マジで女捨ててんな」
む、せっかくいい気分に浸っていたのに、嫌な奴らに会っちまった。
真ん中にいるキモい笑みを浮かべた老け顔少年はダールっつー奴なんだが、俺とカイトをやたらと目の敵にして色々と嫌味を言ってくる糞野郎だ。
隣にいつも取り巻きの野郎2人を連れてイキってる小物オブ小物‼
なんだけど、あんなんでも村長の息子だから、この狭い社会では結構上位の存在だったりする。
「うるせぇよ。またぶちのめしてやろうか?」
くっくっく、だがこいつは俺には逆らえない。もうかれこれ10年くらい前の話になるが俺とカイトを虐めてやるとか言って来たこいつをぶちのめしてやったのさ。
こ の 俺 が !
ここ非常に大事なところだぞ。
当時から既に大人の知性と、身体の使い方を知っていた俺だからこそ出来た偉業と言えるだろう。それ以来、表立った虐めは消えたのだ。この俺のおかげでな。
昔のカイトはまさに気弱な少年って感じで良かったのになー。
俺としか話さないし、俺だけを頼りにしてくる弱者って感じでもう最高だったのになんであんな変わり果てたイメチェンをしてしまったんだ……一生、俺の引き立て役に甘んじていれば、もっと一緒に居てやったものを。
「ちっ」
あの時の事を思い出したのか、ダールの奴は舌打ちし地面に唾を吐くと面白くなさそうな様子で立ち去って行った。はっはーん、さては怖くなったんだな?
ざまぁみろ‼ 俺は最強なんだよボケ。
***
最強伝説から次の日、1人の冒険者が村に来た。
この前、カイトが勇者になった日に現れた魔物の事を聞いた村長のおっさんが村を案じて手配してくれたみてぇだ。
頼みの綱のカイトは早々に国から連れていかれるし、村にいる冒険者のおっさんは腰痛で戦えねーとか言い出したからな。当然っちゃ当然の判断だわな。
「冒険者組合から来ました。アークと言います。私が来たからには、誰も魔物の被害には合わせない事をお約束します。ですから、どうかご安心ください」
冒険者とは思えない物腰の柔らかな対応。
サラッサラで清潔感のある短髪のプラチナブロンドに爽やかなルックス。
当然、村中の女はハートマーク。
俺は嫉妬でミドルフィンガーを向ける。
早速アリンちゃん(村一番の美少女)からアーク様とか呼ばれてチヤホヤされやがってェ‼ ああ、むかつくぜ、クソイケメン!!
俺だってチヤホヤされてぇよ……‼
「ん?」
「どうしたんですか、アーク様」
「なんか、あそこの少女から睨まれているような……」
「ああ、あの子はエリスっていうんですけど、みんなからも避けられてるような変人なんです。アーク様もあんなのに構わない方がいいですよ。目を合わせるといきなり木の枝で襲い掛かって来ますから」
ガーン! アリンちゃんからめっちゃ蔑まれてるじゃねぇか俺。いや、アリンちゃんだけじゃねぇ‼ 何気に女の子の視線が軒並み冷たい。
誤解だっつーの! 木の枝で襲い掛かったのなんてカイトくらいなのに。いや、あながち誤解でもねぇか、へへっ。
「ねぇ、君」
「……あ?」
1人突っ込みでニヤニヤしてると、クソイケメン様がこっちに来て話しかけて来やがった。なんだ、てめぇ? 俺はお前に対して友好的なNPCじゃねぇぞごらぁ!
「えーと、エリスちゃんでいいのかな?」
「"ちゃん"とかやめろ! ……何の用だよ」
「いや、何か怒ってるように見えたから。私が何か気に障ることをしてしまったのではないかと、気になってしまってね」
なんで無駄に聖人なんだよ!
これじゃ、俺がまるで器の小さな嫉妬深いおっさんみてぇじゃねぇか。
落ち着け、見たところ20歳くらいの若造だ。人生経験豊富なアドバンテージを今こそ生かすべき時だろ。
「ベ、別に怒ってねーし……」
「……ぷっ、ははっ、面白い子だ」
「ああ、そうか喧嘩売ってんだなお前。よし、いつでも買うぞ!?」
「ごめんごめん。エリスちゃんの反応が面白くて、つい」
「つい、じゃねーよ!? これが素なんだよ。面白くて悪かったなっ!」
「あっ、待って」
誰が待つかボケ‼ 今後はシカト決定だからなお前。
神速のダッシュで俺はアークの野郎から逃げた。
……ああ、ダメだった。大人の包容力を持つ寛容さMAXの俺でも今の無礼な物言いには耐えられなかった。
ああ、クソが! 年上をもっと敬えよ!
俺よりも10歳も年下の新入社員から馬鹿にされた前世の嫌な思い出がよみがえってきたじゃねぇか。仕事能率が俺より高い年下は死ね!!
しかし、俺の想いとは裏腹にあの日以来……アークとバッタリ会う事が増えた。
「やあ、エリスちゃん。今日も魔物は出なかったよ」
「なんで俺に言うんだよ! 依頼主の村長に言えよ‼」
「いや、あの人は何だか態度が固すぎてね。疲れるんだ」
「それこそ知らねぇよ! 俺はお前と会うと疲れるわ!」
「今日も元気が良いね!」
「頼むから、話を聞けよ!?」
何を言っても笑顔で流されちまう。
俺の方が年上なんだぞ……年上なんだぞ。
魔物が出ずに2ヵ月も経つと、こいつと話すのにも大分慣れてきている自分が居た。どうして、こんな事に……俺はイケメンと甘口のカレーライスが大嫌いだったはずなのに。
しかもアークもアークで他のちやほやしてくる女の子達を差し置いて、何故かこっちに来るしよ。馬鹿じゃねぇのか。マジで意味わかんねぇ。
「なあ、アーク……どうして毎日、俺なんかに構ってくるんだよ?」
「ん? いきなりどうしたんだ?」
「いや、だってよ。結構、今まで酷い事言って来たっつーか……好かれる要素がねーだろ」
「そんな事はないよ。確かに最初は面白い子だと思ったけど、しばらく君と話をして分かったことがあるんだ」
「んだよ、どーせ言葉遣いが男で変だとかそんなところだろ?」
「ううん。態度とは裏腹に、エリスちゃんはとても優しい子だって事さ」
唐突に、あまりにも予想も付かないような事を言い出したから、言葉に詰まった。いや、言葉だけじゃなく思考も詰まっちまった。
「ばっ――バカ、野郎……俺が良い奴なわけねーだろ」
「ほら、そういうところとかね。本質が分かるとさ、そういう歯に衣着せぬ物言いも心地よくなってくるんだ。君と居ると、不思議と疲れない」
「なんだよそれ……。どういう反応を返せばいいのかわかんねーよ」
「ようするに、畏まらない態度でいてくれるエリスちゃんの事が気に入ったってことかな」
「へいへい、そーっすか。どうでもいい――って、頭撫でんじゃねぇ!」
「撫で心地が良いね」
クソが、馬鹿にしやがって‼ 転生者の俺がこんな若造に。
でも、なんでだろうか……爽やかそうな笑顔とか、イケメンなところとか、最初はすげー嫌いだったのに。
今は、あんまり嫌いになれなくなっていた。
幼馴染寝取られフラグ(なお、対象は……)