ヒロイン回避!?
九死に一生を得た俺は、再び苦境に立たされていた。
先日の一件から、カイトが明らかに変わってしまったのだ。
ぼけっとしてた顔は、何かに覚醒したようにキリっとしたものへと変わり、それにより元々素材が良かった顔に磨きが掛かっていた。簡単に言えば、イケメンだ。
俺の大嫌いなイケメンだよッ! ざっけんじゃねーぞカイトの癖に生意気だ!! 村の女の子からもキャーキャー言われ始めて、モテ期到来である。
な、の、に! こいつは他の女に目もくれずひたすら俺にばかり迫って来やがる。慈しむような目でこちらをじっと見られると発狂しちまいそうになる。
やめろ! そんな目で俺を見るな! 野郎の好意ほど気持ち悪いモノはない。
「な、なあ? 最近モテてるみてぇじゃんお前」
「そうかな」
「ほら、この前なんか村にいるカノンちゃんから告白されてたじゃねぇか。結構可愛いよなぁあの子! 羨ましいぜ、このこのっ!」
「エリスの方が可愛いよ」
「――――……ぇ」
こんな感じで俺がドン引きして最近は会話も終わっちまう。
俺が可愛い? ふざけんなよ。
男に可愛いとか言われても嬉しくねぇんだよ!
そもそも、俺は精神的には生粋の漢だから誰に言われても可愛いなんて褒め言葉ではなく侮辱に等しいがな‼ ホントだぞ!?
しかも事あるごとに手を握ろうとして来たり、耳元で「愛してるよ」と強力な呪詛を呟いてくるから油断ならねぇ。
確かに、あの時助けてくれたのは嬉しかったぜ? 俺自身訳分からないくらい取り乱して喚いて死を覚悟するくらいには怖かったからな。
でも、それとこれとは話が別だ。俺が好きなのは普通に女性なんだよ。
だから俺にそう言う事を求められても、絶対に無理なんだ。
頼むから本物の女の子に恋をしてくれ少年よ。こんなんじゃ双方救われないぜ。
「そういえば、最近は剣術稽古に付き合ってとか言わなくなったね」
悩める詩人のポーズを取りながら俺が色々考えていると、隣にいるカイトがどことなく寂しそうな声でそんな事を言って来た。
そう言われてもよ……あんなの見せられた後に、どんな顔して俺のクソザコチャンバラ剣術を披露しろっていうんだよ。
恥ずかしすぎて精神的に即死するっつーの。
とはいえ、そんな哀しそうな顔で言われると正直に言うのも憚られちまう。
「お、おう。今はちっと休業中なだけだ。その内またやるから覚悟しとけよ」
「うん、楽しみにしてる」
良い笑顔で返事してくれてアレだが、二度とお前とチャンバラをすることはないだろう。
許せカイト。恥をかくのが分かってまで付き合う義理はねぇんだ。
大人にはな、メンツってものがあるんだよッ‼
確かに強さはお前の方が上かも知れん。
それは認めよう。だがな、俺には前世で生きてきた30年と今の時代で生きた15年の知識――つまり45年の英知が宿ってるんだ。様々な分野に精通した知識人とでもいうべきか。
高度成長期時代に常に突入してると言っても過言ではない俺と、強さだけのカイト。どちらが上かは火を見るよりも明らかだよな?
所詮、15歳のガキとはレベルが違うんだよ!
立場的には、まだ俺の方が上の筈なんだ……!
転生人を舐めんじゃねぇぞ‼
***
「勇者カイト様!! あなたの存在は世界の希望そのものです!」
おっ、一気に立場抜かれたな。もう勝てる要素がなんもねぇや。
考えてみたら俺の30年とか、プレミアムモ〇ツ飲みながら柿ピー喰ってた事ぐらいしか思い出もないし転生特典ないに等しいな。寂しすぎる。
それはそうと、勇者だよ勇者!
目の前でカイトに片膝を付いて褒め称えてる騎士のおっさんが言うには、覚醒したときの光柱を見て、カイトの奴が伝説に合った勇者だと分かったらしい。王都からも見えるほどって、どんだけだよ。
「……僕が、勇者?」
「はい。貴方が出した光こそ、古より伝わる勇者の証なのです! 魔王を倒し、世界を救済するであろう輝きを王都中の者が見ました」
どうあがいても主人公じゃねぇかこいつ。ふざけんなよ。
いや、でもなんか今になって思うと普段やる気がない癖にたまに動きのキレが良かったり、どことなく掴めない奴だとは思ってたんだよな。
え、てかマジで勇者なのかよ。てことは、勇者の幼馴染だったのか俺。
思いっきり序盤で別れるタイプのクソモブやんけ。死ねよ。
なんかつまんねーな。
自分より下だと思ってた奴が急に追い越していくの見るとムカつかね? 優越感に浸ってた過去の自分を馬鹿にされたみたいで遣る瀬ねぇんだよ。
「ささ、馬車を用意しましたのでお乗りください。国王陛下が貴方が来るのをお待ちになっております」
「でも、僕は……」
あ? なに駄々こねてんだよ。
勇者ムーブで最高のサクセスストーリー開始じゃねぇか。男なら、最高のシチュエーションだろ‼
……なんか縋るような目でカイトがこっち見やがる。
すげぇ嫌な予感がする。
「やっぱり、僕は行かない。エリスと離れ離れになるなんて、嫌だ」
「ゆ、勇者様‼ なにを仰っているのですか!」
ホントだよ、頭おかしいんじゃねぇのかこいつ。
英雄になれば女なんて喰い放題だろ。俺に拘るんじゃねぇよホモ野郎。
「僕にとって一番大事なのは、エリスだ。勇者にも魔王にも興味なんてない」
「その少女に、そこまでの価値があると……?」
騎士のおっさんがギロリと、俺を睨みつけてくる。
なんでだよ! 俺なんも悪くないだろ!?
このままだと、世界を犠牲にさせた女として歴史に名前が残っちまう。
そんなん御免被りたい。あークソッタレ!!
「……行ってこいよ、カイト」
「エリス……?」
「初めて会った時から、お前は特別な奴だって思ってたんだ。こんな所で終わるような奴じゃない。何か大事な使命を成せる奴なんだって、さ」
「でもっ、君を置いて行くなんて!」
「……待ってるから」
「えっ?」
「カイトが戻って来るのを、ずっと待ってるから。だからさ、世界を救って来いよ。そして……必ず俺の元へ帰って来てくれ。そしたら、あの時された告白の返事を返そうと思う」
若干面白くない気持ちを抱きつつも、幼馴染を良い笑顔で送ることに注力する。
今の俺は、カイトを心から心配し見送るとってもいい幼馴染だ……良い幼馴染だ。そう思い込め。
でもよ、考えてみたら良い判断じゃねこれ。ホモエンドになりかねないカイトを遠ざけられる上に、奴が見事魔王を倒せば、俺は魔王を倒した英雄の幼馴染という箔が付く。
ああ、告白の返事? 「ごめん、無理」でいいだろ。
マジで無理だしな。ガハハッ!
「エリス……」
「勇者がそんな顔したらダメだろ。せっかくの男前が台無しだ」
「約束する。必ず……必ず、戻ってくるよ。君の元へ」
「ああ、約束だ。ここで、お前を待ってるから……」
ニコリと、会心の笑顔をカイトへ向けおまけに抱き締めてやる。
末期の抱擁だ。ありがたく受け取っとけ。
まあ、旅の最中に色んな良い女にも会うだろうし……きっと帰って来る事は無いだろうな。ハーレム王でも目指しとけよ。
さらばだ! なんだかんだ、お前と遊んだ日々は楽しかったぜ。
グッバイ、カイト。
「僕の心は、君だけのためにある。どんな時も、いつまでも、永遠に」
「カイト……」
いやいや、マジで重いんだよ馬鹿。
ホモで勇者で幼馴染の愛とか鳥肌が立つからやめてくれよ。
「っ……行ってらっしゃい、カイト」
鳥肌が立った所為で、声が震えてしまったが何とか笑顔で別れの言葉も出せた。
これにて、一件落着って奴だな。何だかんだ上手くいって良かったわ。
ところで、俺を睨んでたはずの騎士のおっさんがすげぇ涙ぐんでるんだが。
――お前に何があった?