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覚醒した幼馴染から迫られる俺  作者: 鶴沢仁
第2章 奪われた幼馴染
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権力者

「は? お、おいアーク。もっかい言ってくれねぇか?」

「今回の依頼は、この町に住む貴族からのものだ。だからエリス、ドレスを着る準備をしてくれ」


 あー貴族からなら仕方ねぇな……って、なるわけねーだろ!?

 1泊野宿をした俺達が港町へと着くなり、アークは突然こんなやばい要求をしてきやがった。


 ドレスなんて着たことねーよ! いや、最悪ドレスの方はまだいい。

 村に居た頃もたまにスカートとか穿いてたくらいだから、今更女物に怖気づくような情けない男になったつもりはねぇ。


 問題は貴族って方だ。貴族……つまり、俺らより遥か格上の身分を持っている存在だ。

 もちろんこの世界に転生してからそんな奴らとは関わった事すらない。いや! 関わりたくもねぇ!!


 よく見ていた映画の貴族ってのは、言葉遣いがちょっと気に入らないだけでその場で斬り殺されたり、玩具で遊ぶような感覚で拷問をしてくる異常者の集まりだ。

 考えすぎ? いや違うな。権力者ってのは、大体がどこかしら頭のおかしい人間ってのは往々にしてあり得る事なんだよ。


 そんな奴らと交流をするなんて冗談じゃねぇ!

 まして、俺なんて言葉遣いがこんなんだぞ!? やべぇって。


 つかアークの野郎……なんでおれに断りもなく、こんな依頼を受けた?

 今までは魔物退治とかそんなんばっかりだったじゃねぇか。


 いきなりブルジョワな依頼受けないで欲しいわ、その所為で俺が死ぬかもしれねぇとか考えないのかよ! この薄情者! イケメン!

 相棒じゃなかったのか俺達は。


 とにかく、断固回避する案件には違いねぇ! 逝くなら1人で逝きやがれ!


「あたた……ちょっと腹がいてぇわ。アーク悪いけどさ、今回の依頼……」

「君は嘘を付くのが下手すぎる。あまり我儘を言わないでくれ」

「はぁ!? マジで腹いてぇんだよ!! お前に腹痛の何が分かるってんだ! 腹痛はそんな軽いモンじゃねぇんだぞ! 腹痛を馬鹿にすんな! おうおう、イケメンは腹も痛くならねぇんだな! こりゃ羨ましいこって」

「そんなに元気なら大丈夫そうだな」

「……あっ」


 完璧な仮病で上手く誤魔化そうとしたが、逃げられず。

 俺はただ生贄のように用意されていた白のロングドレスを着て……というか着せてもらい、奴に付いて行くしかなかった。ちくしょう、このドレスが真っ赤にならない事を祈るしかない。

 あとアークなんて嫌いだ、バカ……!





 ***





「ほえー……でけぇ」


 目の前には、クソデカ屋敷がそびえたっている。

 港町の少し外れにこんな豪邸持ってるとか、貴族ってやっぱすげーな。


「行こうか、エリス」

「ちょ、ちょっとタイム! なあアーク……貴族って、やっぱり言葉遣いとかうるさかったりするよな?」

「ん? ああ、確かにその言葉遣いは少し控えた方が良いかも知れない」

「だよな……」


 いや、俺だって社会人だった頃は丁寧な言葉遣いを心掛けていたんだぜ?

 でも、今の世界に来てからは同じ村人とか、後は大衆酒場だったり同業者の冒険者との交流とかさ、とにかくあんまりこう言う事を気にしなくても良かったんだ。

 しかし、貴族……言うなれば会社の社長みたいな連中相手ではそうもいかねぇ。


 ため口厳禁、とにかく波風立たねぇような言動を心掛けて行く事が大事だ。

 君子危うきに近寄らずとかよく言うだろ? 俺みたいに立派な社会人なら、誰でも持っているまっとうな意識だ。


 不自然にならないように、自然な感じで……。


「い、行きましょうアーク。あたくし達が遅れては示しがつきませんぞよ」

「……不自然すぎる」

「悪かったな!? 敬語なんて久しぶりなんだから、ちょっとずつ修正して行けばいいんだよ!」

「普通で良いと思うぞ」

「難しい事言うなよ」


 普通なんて、人によって違うんだから出来るわけねーだろ。

 とにかく本番までにアークで練習しとかないとな。社会人としての勘を取り戻し、立派に乗り切ってみせるぜっ!!







「お待ちしておりました、アーク様とエリス様でいらっしゃいますね?」

「はい、依頼を受けたアークです。本日はお招きいただきありがとうございます」

「あっ、あの……ありがとうございましゅ!」


 うわっ、噛んだわクソかよ。つか無理だったわ。

 あの短時間じゃどうやってもボロが出ちまう事が分かったから、とりあえずアークの言葉に続くような形でやり過ごす事にした。

 いや、本気になれば敬語くらい余裕なんだぜ? でも久しぶりだから意識しても素が出ちまう事ってあるだろ? いわばこれは俺の所為ではなく人間の習性が悪いと言える。


 中に入ると内部が結構広かったので、今回会う貴族はどれくらい偉い奴なのか聞こうと思いアークの裾をクイクイと引っ張ると、何を勘違いしたのかアークは俺の手を握りそのまま歩き出した。


 別に心細くなったわけじゃねーよ!?

 なんでこういう時には意図が通じないんだ。


 そのまま進むと、大広間みたいな場所に着いた。そこでは沢山の偉そうな奴らがパーティを楽しんでいるようだった。パーティとか聞いてねーよ……緊張して吐きそうなんだが。


「マルゼル様、アーク様達を連れてきました」

「ごくろう、下がって良い」

「はい、失礼します」


 俺らを出迎えてくれた執事はそう言って大広場から下がっていく。

 そしてマルゼルとか言われていた貴族がこちらを値踏みするような眼で見てくる。


 なんて冷徹な目だ……きっと30人くらい殺してるに違いねぇ。

 やっぱり俺の思った通り、拷問大好きそうなクソ野郎じゃねぇか。


「ほう、貴殿がかの有名な『十字の破滅』か。お会いできて光栄だ」

「恐縮です」

「そう畏まらなくてもいい。今日はこちらが頼みを聞いてもらう立場なのだからな」


 傲慢そうな見た目に反し、アークに対して敬意を表したような言葉を掛けていた。

 つーか十字の破滅ってなんだ? 聞いたことねぇんだけど。

 俺に分からない話で盛り上がるなよ!!


「そして……貴女は?」

「……えっ?」


 アークと盛り上がっていると油断していた俺は、いきなり話を振られて頭が真っ白になった。やべ、なに言おうとしてたのか忘れちまった。

 こんな時のために挨拶の練習してたってのに、言葉が全く出てこなかった。


「名を聞いているのだが?」

「お、おれの名前はエリスで……あっ! ごめっ、ごめんなさっ……」

「泣くほど、怖い事を聞いたつもりはないのだがな」


 拷問貴族から尋問されパニックとなった俺は気づかない内に泣きながら謝っていた。このままではダメだと頭をフル回転させてどうしようか考える。

 こんな醜態を見せては、気分を害したこいつから殺されてしまうかも知れないからだ。

 しかしそう思うと、余計に涙が止まらなくなってしまう。


「アーク殿、これは一体……」

「申し訳ありませんマルゼル様。彼女は少し人見知りで、驚いてしまったのだと思います。けして悪気があるわけではないので、どうかお許しを」

「別に怒ってはいないが、このような繊細な女性が貴殿と共に旅をしてよく無事でいられたものだ」

「…………」


 うぅ、ちくしょう。だから俺は行きたくなかったのに、こんなのひでぇよ。

 しかも2人して何やら俺の事馬鹿にしてるし、最悪だ。


 やっぱりアークなんか嫌いだ! バカ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだ確定していない?のに拷問貴族と決め付けていて草。
[良い点] マルゼル様視点で見ると、エリスはアークの恋人なのかな、やっぱ。
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