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47 無限転生VS不老不死 II

ヴァルマルスは全てを話した。

いくつもの世界を渡ってきた事・・・そして自分の身にかかった呪いのような力の事を。


フェンデルはそれに熱心に耳を傾けた。

何でも、彼もまた転生により不死の力を得たという。


「私の場合は君の逆です。私は生きる事を強く望んだ結果、この能力を得た。」




最初の人生において。

彼は幼くして不治の病にかかり、その一生の殆どをベットで過ごした。

絶望と苦しみの中願ったのは・・・『まだ生きていたい』それだけだった。


故に、彼は転生の際神に長く生きる事を願った。

結果不死の力を得て・・・彼は思う存分人生を楽しんだ。

世界を救い、国の大臣となって。沢山の友や恋人も出来た。


「最初の百年・・・という所でしょうか、楽しかったのはね。だが次第に気付いたのです・・・己の犯した罪に。いつまでも老いぬのは私だけ。友も妻も、私をおいて逝ってしまった。・・・最も応えたのは、子に先立たれた時だったか。」


程なくして彼は自身の死を望むようになる。

しかしその体はどうやっても朽ちる事は無かった。

煮ようが焼こうが・・・粉々になるほど砕いても、ものの数秒で復活してしまう。

そうこうしている間に、大切な者はまた一人と先立ってしまう。


幸いこの世界の住民は彼を異端として扱う事は無く、国の大臣の地位として何かに不自由する事は無かったが・・・彼自身は絶望の淵にいた。


そんな時だ。今から25代前の王は死の際にフェンデルに言った。

彼が、羨ましいと。


王にとってはこの国の皆が家族の様なもの。当然先立たれる別れの悲しみは嫌というほど知っていた。

だが同様に、新たな命と出会い・・・それが成長していく喜びも知っていた。

そしてそれを育むには国が平和でなければならないのだ。

王は国を守る事に誇りを持っていた。


だから彼は出会いや別れ・・・そんな感動を何度でも味わい、自らの手で守り続けられる事、それが羨ましいと言うのだ。出来ることならいつまでもこの国と共に有りたいと・・・。


『忘れてはならん、何かを失う悲しみと同じ位何かを得る喜びがある事を。それに寂しい事は無い。人や物は移り変わろうとも国は必ずおぬしの傍に有り続けるのだからな・・・。頼むぞフェンデルよ。おぬしのその力は悲しみに暮れるためのものでは無い。この国を、我が子達を見守り続けてくれ。』


王はそう言い残し、息を引き取っていった。




「そんなものは所詮生き続ける苦しみを知らぬ戯言・・・確かに私も最初はそう思いました。しかしそう言って切り捨てるには、私もまた余りにも人というものに触れ過ぎてしまった。これから生まれゆく新たな子の成長を見たいと思ってしまった。・・・するといつの間にか私は死ねなくなった。死にたいとは・・・思えなくなったのです。」


照れた様に笑うフェンデルの顔は、今までで一番心から笑っている様に見えた。


「最近私の42代後の子供が生まれたのですが、これがまた可愛くて・・・人というのはどれほどの歳を経ようとも胸を熱くさせるものなのですね。今では生きれば生きる程に、私はもっと生きたいと思ってしまうのですよ。そう考えたら私がこの力を得られた事は、とても幸せな事なのかもしれません。」

「・・・。」


ヴァルマルスは何も言わず、ただじっと話を聞いていた。

与えられた力など彼にとっては呪いでしかない、フェンデルの気持ちを理解できようはずもない。

理解は出来ないが・・・納得はしていた。





「・・・行くのですか?」

「ああ。」


ヴァルマルスはフェンデルにうなづくと、背を向けたまま支度を整えた。


「そうですか。すみません、余り力にはなれませんでしたね。・・・でもヴァルマルス君、私は君に与えられたその力もまた、きっと素敵な能力なのではないかと思いますよ。」

「・・・。」


その言葉にぴたりと動きを止めると、ヴァルマルスはフェンデルの方を向いた。

彼はやはり微笑んだままだった。


「何十個か、それ以上か・・・君の話を聞いていると、この世には果てしない数の世界が広がっているように思えます。・・・ですが恐らくそれも、無限ではないでしょう。だからあらゆる世界を渡った後・・・君は一度訪れた世界を再び訪れる事になるのではないでしょうか?」

「一度訪れた世界に、再び・・・。」

「ええ。懐かしい人、場所・・・様々な物に再び出会えるはずです。勿論、時が経てば変わる物も消える物もある・・・ですが世界は変わらず必ずそこにあります。そういった再会、別れ・・・そして新たな出会いを経験する事。それはきっととても素敵な事でしょう。今なら私には、そう言えます。」

「・・・。」


この能力が、素敵なものである。

想像もつかない話にヴァルマルスは言葉を失った。

するとフェンデルは・・・再び口を開いた。


「少なくとも私は、君のその能力のおかげでこうして同じ気持ちを共有できる友人と出会えた事をとても幸せに思います。そして・・・いつの日かまた再会できるという事を。」

「・・・!」


「これ程嬉しいことはありません、また長く生きる楽しみが出来たのですからね。・・・千年でも二千年でも、私はここで待っています。その時はまたこうしてお話しましょう。・・・いつか君がその能力に幸福を感じる日が来る事を、祈っていますよ。」





奇妙な転生の道すがら出会った・・・一人の友人はそう言ってにっこりと笑っていた。


この能力に幸福を感じる事・・・。

ヴァルマルスもまた、いつかそう思える日が来たらいいかもしれないと・・・僅かに思いを馳せながら新たな世界へと旅立っていった。


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