八十八日目、訓練はやるからこそ訓練だと思う。
「突然だが防災訓練をするぞ!!」
『はぁ?』
それは、会長のいつもの思いつきの一言から始まった。
…つか…。
「ンな事考えるくらいだったら生徒会室に暖房器具を入れてくださいよ…こたつとかこたつとかこたつとか」
「ハルさん…言うなればそれはこたつがほしいって事ですか? …にしても本当に寒いですね…」
季節は冬。まっただ中。たとえ読者の皆さんが残暑を迎えていようがあっつい中運動会をしていようともこちらでは冬なんです…ふぇくちょい!! …あーさぶっ。
「バカ野郎。このくらいの寒さはな、湯たんぽとカイロだけで十分なんだよ。ほら」
「といっても、会長の場合はカイロ(使い回し)を体にべたべた張ってるだけですけどね」
「余計なことは言うな萩!!」
「そうかしら? 私はむしろこのくらいがちょうどいいんだけど?」
「そりゃぁ…柊先輩はそんな風に暖かいですからね…井宮さんのおかげもあって」
そういう柊先輩は暖房(簡易)ヒーター(簡易)毛皮のコート、手袋をはめていて…まさしく防寒性抜群だった。
…一応、私たちだって冬服にジャージを着ているんだけど…それでも寒い。
「んで? 防災訓練ってどういう事ですか?」
「うん。それはな…」
そう言ったとき、急に部屋の明りが消えた。
…停電?
「これからこんな感じに停電になるんだ」
「早く言ってくださいよ!! 早く!!」
停電になったもんだからいきなりパニックに!!
「停電ですね~」
「軍曹さんカイロとってください」
「紫苑、そっちに懐中電灯無かったっけ?」
「あ、あった。ほら」
「は、はるっち! 早く蝋燭とか!! 用意して!!」
ほとんどの人が落ち着いてる!? …落ち着いてないのは私と春樹だけじゃん…。
なんかそう考えたら馬鹿らしくなってきた…。
「はぁ…んで? どうするんですか?」
「ん。これから電気の供給とかがストップするから」
「な」
そうなったら…柊先輩はホントに寒くなるのでは!?
そんな感じに心配していると…。
「…大丈夫です。そうなったらお嬢様を私が体で暖めますから」
「って井宮さん!? なんか布がこすれる音がするんだけど!? もしかして脱いでない!?」
「…心配ご無用です。少しふらっとするだけですから」
「おおぉぉぉおおおおい!! どこの何奴だ!? どこの何奴が風邪引きの住人を引き入れた!?」
「お、落ち着いてください!! こんなに暗くてはどこに誰がいるのかさっぱりわかりません!!」
「あ、そう言えば懐中電灯は?」
そうだった。懐中電灯懐中電灯…。
あった。足下にあった。
そう思ってつけてみると…。
「「わぁ~…キレイだぁ~…」」
「ってプラネタリウムぅぅぅぅぅぅうううううう!!!」
天の川がキレイだなぁ~なんて思ってる場合じゃないよ!? これ!!
確かにこれはキレイだけど! あ、ペガサス座見つけた。
じゃなくって!! 懐中電灯…。
あ、あった。
今度こそあった。
「ふぅ~…」
そうやって安堵していたら…。消えた。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえぇえええええええええ!?」
「あ、懐中電灯の電池変えるの忘れてた」
「あほぉぉおおおおおおおお!! 会長のあほぉぉぉおおおおお!!! バ会長!!!」
「バカと会長を併せるな!! バカ!!」
「バカって言った方がバカなんですよ!! バーカ!!」
「うっせ!! バーカ!! ばかばーか!!」
「ばかばかばーか!!」
「ばかばかー!!」
「ばかあぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」
「ヴァァァァァァァァァカ!!」
「ばかばか!!」
「ばーかー!!」
「バカばかばか!! ばかばか!!」
「ばかばー!!」
「ばかばか?」
「ばかばかー」
「ばかばか!!」
「ばっかぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
「――――ばかばかうっさいんだよ、このバカ共がぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
どごぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!(ドアが蹴破られた音)
「「う゛かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」」
「最終的にはバカじゃなくなった!!」
「乍乃さん。そこは律儀につっこまなくてもいいんだよ? バカが遷るから」
ドアの下敷きになりながらも私は聞いていた…そうやってつっこんだ雫ちゃんをたしなめていた萩先輩の言葉を…。ううぅ…ひどい…ひどいです…萩先輩…。
「てか昌介…バカって言っていいの…? 一応…上級生だし」
「いいんじゃない? 会長だし」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああん!! またバカって言ったぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
「よしよし。竜介。そんなに泣くな」
「お前ら、差し入れだ。桔梗、あれ」
「わかっている。…お前ら、差し入れだ」
やってきたのはコガセンだけではないようで。どうやら声の感じから雁岨さんに桔梗まで来ているらしい。そしてなにやら重い物が机に置かれたような気がした。
置かれたのは…鍋?
しかもなんか…獣くさい…。
試しに…ちょっと指ですくってなめてみた…。
…口の中になんか入ってる…これは…
毛?
「あれ? コガセン。猫鍋は?」
「どっかのこたつで丸くなってるだろ」
…いや、確かにこれ、こたつっぽいけど…。
「きっとどこかで暖かい思いでもしてるんだろぉねぇ…」
「いったいどこに行ったんだか…」
…いや、確かにこれ、暖かい思いをしているけど…。
「コガセン。いっそのことあんなどら猫、こたつで丸焼きにでもなってしまえばいい」
「ほう…? 桔梗。その言葉は本気かい?」
「すまない。軽口が過ぎた」
…いや、確かにこれ、丸焼きっぽい感じにはなってるけど…。
…てかこれ…死んでない?
私は目の前にある肉塊と化した猫鍋と思われる物が…。
暖かく浮かんでいます…。
はい…。これ確実に…猫鍋が…。
「なぁ~ご」
「って生きてるンかい!!」
私は心配させた猫鍋に向かってつっこんだ。ッつーか生きてたんだったら生きてるという意思表示をしようよ!
「なぁーご(甘いな小娘。私はそのような安っぽい猫ではないのだよ…格が違うのだよ!! 格が!!)」
…あれ? なんか今、猫鍋の言葉が聞こえたような…。
そんなわけ無いもんね。これはそんなファンタジーな、SFチックな物語でもないもんね。
うん。私疲れてるんだ。後で休もう。うん。
「なぁ、今思ったんだがこうやってみるとみんなの顔がわかってないか?」
そう言えば。何でだろう?
「それはほら。あそこに明りがあるからでは?」
「あ、ホントだぁ~。わぁ~ちろちろと燃えてますねぇ」
「これ置いたの誰かな? といっても会長なんでしょうけど?」
そう言った萩先輩の言葉に会長は意外な返答を示した。
「へ? いやおれ、こんな物は用意してねぇし。つーか誰だ? こんなところに鬼火なんて用意したのは」
鬼火?
鬼火…鬼火とは、日本各地に伝わる怪火(空中を浮遊する正体不明の火の玉)のことである。伝承上では一般に、人間や動物の死体から生じた霊、もしくは人間の怨念が火となって現れた姿と言われている(By、ウィキペディア)
つまりは…。
お化け?
「いえす。うぃーきゃん」
そう言ったと同時に私たちは上への下へのとにかくパニック状態。
ほとんどの人たちは下の階へ行ったり屋上に避難したりしていた。
え? 私はどうしたのかって?
…一心不乱でわかりませんでした。
ただ、
「…へぇ~…お化けさんですかぁ~…すごいですねぇ…」
「私も若干そんな物には憑かれてはいるが…ここまでの奴は初めて見たな…」
『いやあの…そんな風に落ち着かれても困るんですけど…』
…なんか雁岨さんと雫ちゃんがお化けと話していたことはうっすらと覚えています。
ってあれ? 防災訓練は?
「これも立派な防災訓練!! いついかなる時も平常心でいることが訓練をすることの大切さなのだ!」
威張って言うな。バ会長。