六十一日目、生徒会、ピンチ
「…あっぶねぇぇ〜…」
危機一髪。まさに紙一重。ぎりぎりで内緒にスポンジ刀に仕込んでた鉄パイプが歯と歯にかみ合って歯を止めた。機械が立てる不協和音が俺の耳をつんざく。
「くくっ…どこまで持つかな?」
「じゃかまし。今からてめーを叩きだしてやっからな」
そして右手を背中に回してどこからともなく…
む?
どこから出しているのかって?
そ、それを言ったらものがたりのバランスが崩壊する!!
と、ともかく…どこからともなく俺は秘刀孫の手を取りだして、
「開放、護り刀色即是空っ…!」
素早くスポンジ刀とチェンジ! そしてそのまま雁岨の体を押し返す!
雁岨はくるくると回ってその場に降り立ち、キッ、と俺を睨んだ。
「…ついに本気を出したか? 夏樹」
「あぁ…ま、たたき出すにはお前をこいつで追い払うしかないからな…。覚悟しろよ」
「くくっ…私を追い払う、だと…粋がるのも大概にしろ、小僧」
そう…前回から分かるとは思うが…こいつは正確には秋原雁岨ではない。
こいつの名前は、冬山是一。
ずいぶん前に死んだ、男だ。
「是一ぉ…お前、まだあきらめてないのか? 天下統一…っつったっけ?」
「あぁ…小僧にはまだ分からんかもしれんが、私は強大な力を手に入れる。もっと、もっと、もっと!! 私は強くなって、行く行くは…天下をも支配する」
「そのためには、ウメさんが残した秘伝書、っつーのがいるわけだ」
「あぁ…あれには死者を蘇らせる方法があると聞くからな…みすみす逃すわけにはいかない…こうして、地獄から舞い戻ってきたのさ」
「…雁岨の体を借りてか」
「あぁ」
「これまでのも。お前の仕業か」
「あぁ」
「桜山祭が、こんな風になって、めちゃくちゃになったのも」
「あぁ」
「はた迷惑な組織を作り上げて、行事がある度にめちゃくちゃに壊そうとしたのも」
「あぁ。しかし、それらは全てお前率いる生徒会につぶされたがな」
「…そうか…」
ここまで聞いて確信。
「お前…やっぱバカだろ」
「バカはどっちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああああ!!!!???」
そこまで言ったとき、雁岨は俺に凄まじいスピードで突っ込んできた。
だけどな…。
学校の行事をことごとくつぶされて、被害者も少しは出る。そんでもって唯一こいつを許せない行為と言ったら…!
「…女の体に居座ってるお前が、うらやましいわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!」
「とりゃっ!」
「でぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」
ばーんばーん。ぼこーん。ぼこーん。
あー疲れる…。
一体何人いるんですか? まぁ全校生徒ですから数が多いのは分かりますけど…。
そろそろまずいんですよねぇ…銃弾の弾数が…。
「雫ちゃん。弾は確か…」
「本部においてあったはずです」
「…遠いね…」
ここからここまで十キロメートル。走ればたぶん訳ないけど、周りにはざっと見て四、五十人。雫ちゃんを無理させるわけにはいかない。もはや雫ちゃんは肩で息をしている状態。そんな状態の人を走らせるわけにはいかない。
「…万事、休す?」
「…終わりました、か…?」
そうして武器をおろそうと思ったとき。
彼はやって来た。
「…せいっ」
どむっ。
鈍い音が生徒のハラから聞こえてきた。どうやら井宮さんがボディーブローを決めたらしい。
が。
「…何人いるんでしょうか?」
「さぁ? 何せうちは結構人がいるからね…」
周りには…何人いるんだろ? 多すぎてわかんないや。あぁ…まずいなぁ…。
…最後くらい、昌介の顔くらいは拝んでおきたかったなぁ…。
「…お嬢様?」
「井宮さん…ここから、あなただけでも逃げて」
「!? 何を…」
「…主たるもの、下の人の心配をするのも、重要なんじゃない?」
「…しかし…」
やっぱり井宮さんは困ってる。仕方ないなぁ…。
「じゃー井宮さん。今から暇を出す。だからあなたは逃げなさい」
「…残念ながら、それはできません」
え?
井宮さんはここから逃げて欲しい…そんな私の気持ちを見事に裏切ってくれた。
「主がここで果てるというならば、私もここで共にします。主をおいて自分だけ逃げるなどという行為は、柊家専属お手伝いの一生の恥。ならば」
そして私の方向を一別して、しずかに相手に歩いていった。
そしてちょうどいい具合に風が。
井宮さんの黒スカートを揺らした。
「ここで私は、お嬢様を守るために…果てます」
それにですね、と言って井宮さんは続けた。
「お嬢様の初めても、寝顔も、花嫁姿も全部私は見てから死にたいんです。こんなところではまだ、死ぬわけにはいきません」
「井宮さん…」
一部問題発言があったような気がしたけど、そんなことは気にせずに…。
「いざ…参るっ!」
そうして。
一人のお手伝いさんが向かっていった。
その手には何も持たずに、ただ、大きながま口ポシェットを揺らして。
眼前の敵に突っ込んでいった。
そんなとき、
彼女はやって来た。
「くくくっ…やってるやってる…」
「ちょ、春樹!? これどういう意味!?」
「どういう意味も何も…こういう意味さ」
「いや…それがどういう意味かわかんないんだけど…」
て、いうか。
何で私縛られてるわけ?
もはやこれ、拮抗縛りとかそんなモンじゃないよ? これ。
なんか肉に食い込んでるし…。
あと、結構汗もかいてるから、なんか…こう…む、胸の部分が…。
「まぁ…君にはちょっと一仕事をしてもらうけどね? ハルっち君?」
「…? だれだ? あんた」
思わす自分の性別を疑いたくなるような感じで聞いてしまった。というより。ホントに誰だ?
春樹はこんな感じで聞いてくるわけはないし。
なんか、こう…なんかが違う…。
「ホントにだれ?」
「まぁ…僕の名前は…空峰吾妻。我が主、冬山是一に仕える伊賀忍なり」
「今の今まで入ってたんだ…」
そのことに私はまず驚愕。だって今の今までそっくりだったんだもの…春樹に。
「つか幽霊?」
「あぁ。そうさ。地獄の底から、是一様と一緒に来たのさ…」
そんなことより、と言ってそいつは近付いてきた。普通だったらここでドキドキするんだろうけど、今の春樹には少なくとも、ドキドキはしない。
「さぁ…言ってみろ…鋼流拳法の奥義書はどこにある?」
「…はぁ?」
奥義書? そんな物はどこにもないんですけど…。
「とぼけるな。僕は全部…」
「そこまでだよ。エセ忍者」
そう言って扉を蹴飛ばして便所サンダルをならしながらやって来たのは…。おばぁちゃん!?
あの…ご自分の体型と体を見てくださいね…。その体で便所サンダルはダメだから。ミスマッチだから。
「なぁ〜にいらんことを言ってるのさ? えっと…吾妻? っつったっけ?」
「…僕をなめるなよ? 師範」
「それはどうかねぇ? あんた一人なら、あたしでも片付けることができるよ?」
「誰が僕一人だと言った?」
そして春樹は指ぱっちんをして天井から…って。でかっ!!
な、なんか真っ黒ででっかい人が来たんだけど?
「くくく…これで、二対一、だ」
「二対二、の間違いじゃないのか?」
そして蹴飛ばした扉から来たのは…白ポロシャツに赤のジャージ。いつものように髪をまとめ上げたコガセンだった。
「って、コガセンも!?」
「さぁ…これで互角だよ? どうするんだい?」
「…女子供に、僕と服部を倒すことができるのか?」
…これって、結構ピンチじゃ…。
あぁくそっ!! なんでこんな時に縄が外れてくれるとか、そんな予想外の嬉しいアクシデントがないくらいきつく縛られてるのさ!?
そしてそんなとき。
派手な効果音と共に。
変なやつがやってきた。
本部から十キロ離れたところに、
「どけっ!!」
カッターナイフ(もちろん切れないようにしてある物)を携えた少年が。
一人のメイドが今まさに敵に突っ込もうとしたその時、
「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
見えない斬撃を放った少女が。
そして。
「…光があるから、闇がある。また、闇があるから、光がある。
しかし、地味の存在意義は!? 否、かっこよくて、ド派手なやつの存在意義は!?
そう、まさにここにある!!
少女達が困っている所に、すかさず、華麗に、そして優雅に!! …見参。(すたっ)
…………そう…俺こそが…。
噂のスーパーヒーロー…。
キザ仮面だっ!!!!」
長い長いスカーフを巻いた謎の覆面野郎が、かっこいいポーズ(と本人は思っている)を取って放送室にやって来た。
「「「誰だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」
そしてそこには。
一人の教師と、一人の生徒、一人の学食のおばちゃんが今まさにトリプル突っ込んだ。
キザ仮面とは誰なのか!?
その正体とは!?
…そこ、笑わない。