五十日目、血祭りじゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!
「ほんま、騒がせてしまって、えろうすいまへんなぁ」
そういって嵐子さんは手を二回打ったらどこからともなく忍者が現れた。って忍者!?
そして忍者は素早くお茶とお菓子をおいてまたどこかに消えていった。
「…え〜っと…今のは…?」
「うちの使用人ですえ。最近はいろいろと物騒ですきに、ああやっていつもいろんな所に待機してるんですえ」
「は、はあ…」
雫ちゃん、おどおどしているよ…あ、このお茶おいしい。
「この羊羹、砂糖菓子…もしや…」
「気づかはりましたか? それは和菓子屋『水月』から取り寄せた上物の水ようかん、砂糖菓子ですえ。遠慮せんで、たーんと食べておくんなし」
「母さん…そんなに気遣わなくても…こほっ」
「昌介。あんたは体を治すことを考えときぃ。ほら、医者に作らせた…もとい、作ってもらった漢方薬…のみぃ」
や、柔らかに言われて取り出されたのはパラフィン紙に入ったなにやら茶色い色をした粉末…と、水。
なぜか嵐子さんが出すと絶対に治りそうなきがする。
「ごめん…家が大変な時だってのに…」
「気にせんときぃ。お前がこの家業を嫌っとるのは、うちがよう知っとるきに…」
「そういえば萩先輩、どうしてこの家業のことを言ってくれなかったんですか?」
不意に春樹がそういったとき、萩先輩の顔が少し曇ったような感じがした。
「…そのことには…できれば…」
「いいんだ。母さん…どうせいつか話しておかなくちゃとも思ってたし…」
そして先輩は一呼吸置いて話し始めた。
先輩がどうして自分の家のことを話さなかったのか。
その理由を。
僕の家は結構古い血筋でね。この家業が今の今まで僕の誇りであり、そして大好きだったんだ。
僕はこんな人たちの周りで育ったからちょっとヤンキーに育っていたんだ。
非行、暴力、とにかく悪と名のつくモノにはあらかた染めてきた。
そんな僕にも好きな人ができたんだ。
その人には僕が「普通の」人に見えてもらいたい…。
そうおもってね。ここまで自分が培ってきた『不良』っていうレッテルを覆すべき、必死に勉強したんだ。
僕のことも彼女にもばれずに普通に過ごしていたとき、彼女がちょっと誘拐事件にあってね。
僕は必死に探したんだ。彼女の居場所をね。もちろん警察にも相談したけどまるで相手にもしてもらえなかった。まぁ、僕はそこの警察署には結構お世話になってたし、信じてもらえなかったんだろうね。
どうせこいつのやったことだろう。
こいつのためにまた働かなくちゃいけないのか。
そんな目が受付をした人にありありと浮かんでいたさ。
やっと動いてくれたとき、僕はその犯人のアジトに乗り込んでいたんだ。
でもその犯人にぼこぼこにされていたときみんな…つまり、
僕が隠していた事実の人たちが来ていたんだ。
おかげで犯人を全部鎮圧して、彼女も助けられたけど、僕は彼女ともう会えなかった。
いや、会うことができなくなったんだ。
大事な人を失う。
この事実を隠しておけば、みんなといつまでも一緒にいられる。
そう思ってこの事実を隠していたんだ。
「え〜っと…?」
な、なんだ…このシリアスな空気…。
なんか、いたたまれないって言うか…なんかつっこみもできなければボケる事も許されないこの空気は…。
「…って言うのは全部嘘なんだけどね」
「「嘘かィィィィィィいいいいいいい!!!」」
もはやここまでシリアスな空気にしときながらこの大どんでん返しはなんだ!!
読んでいる読者さんにも失礼だろーがぁぁぁぁぁぁああああああ!!!
「野郎ども! 処刑だ! もはやどうなろうとかまわん! とにかくここまできて読者様に失礼な事をしたこいつを処刑だぁぁぁぁあ!!」
「「おおおおぉぉぉぉぉぉおおお!!」」
「…あら、紫苑ちゃん」
「嵐子さん…」
「行かなくてもいいのかえ? ほんま苦しそうに、顔をゆがめてましたぇ?」
「…あんな話、久々に聞きましたからね…」
「ああ…」
そう。
私と昌介は以前…誘拐事件の時…いや、それ以前に会ったことがある。
もちろん、その時には今のような関係ではなかったけれども。
「…あのときのこと、まだ話さないつもりですかぇ?」
「…はい。昌介には…しょうちゃんには、自分の力で記憶を取り戻して欲しいから…」
あのとき、誘拐されたとき、犯人に頭を強打されて記憶の一部…自分の過去のことをすっかり忘れていた。
それからの昌介は全部が変わっていた。
言葉使いも柔和になり、何もかもが新しくなっていた。
そして私のことも、いつのまにやら柊さんと呼ぶようになっていた。
しかし、ハルちゃん達が来るようになってからか、私のことをちょっとずつ…ちょっとずつだけど、
紫苑と呼んでくれた。
それだけでもとてもとても嬉しかった。
でも、そんなことをしたら昌介に不審がられてしまう。
昌介には嫌われたくはない。だから…。
いつもと同じように、何も変わらない私を演じ続けた。
「…つらかってしょう?」
「…はい…」
「今だけで…今だけでええ…思い切り泣いた方が、辛いことを、流せるきになぁ…
もちろん、ながしちゃぁ、いけないこともありんしょ。
しかし、人間ゆうんは忘れるモノでもあるし、涙を流すモンでもある。
紫苑ちゃんが泣きたいときになったら、いつでも泣いたらええ」
でも、と言って嵐子さんは私を抱きしめた。
「辛くなったら、私ん所にきぃ。いつでも紫苑ちゃんの濡れ枕になってあげるさかい」
そして私は泣いた。
声を出さずに、今までの悲しみを全て流すように泣いた。
数分後。
病室に戻ったとき、なぜだかげっそりしていた会長達と、生き生きしていた昌介を見た。
…したの畳に焦げ目がついていたり、なんか障子が鞭で叩かれたかのような破れ目があったり、畳に白い蝋が落ちていたりしていたけど、気にはしなかった。