百三十五日目、画竜点睛
今回のサブタイ解説は後書きで。ではどうぞ。
「だらぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
気合いと共に日本刀と西洋剣がぶつかる。
と、同時に辺りに風が巻き起こり、埃を舞い上がらせる。
余裕の顔で一撃を受け止め、顔を近づける。
「どうしたんだい、竜介クン。君の力はそれほどではないだろう?」
「――――っ!」
いったん離れ、そのまま一撃、二撃と刀を振るう。
しかし、そのどれもが西洋剣で受け止め、受け流され、肝心の基に当たらない。
「やれやれ。ここに来るまでに少しは戻ってきたのかと思ったんだけどね。――あまり僕を落胆させないでくれ」
横なぎに一閃。
もちろんそれは離れたところでの一閃だから俺のところに届くはずがない。無いのだが、
「ふっ――――っ!」
刀で受け止める。
刀で受け止めたところには刃があった。
その刃の元には基の鍔がある。
「忘れてはいないみたいだね。僕の空即是色の力」
「ったりめぇだ。ウメさんところから持ち出した一本だしなぁ……っ!」
「まあ、黙って持ち出したのは悪いと思うけどね。そこは謝ったよ? 心の中で」
「ちゃんと口で言った方がいいだろぉがっ!」
押し戻し、そのまま一気に距離を詰め、突きを放つ。
鋭い突きはそのまま基の肩に吸い込まれるように向かう。
「――甘い」
「がっ!?」
腹に強烈なボディーブロー。
思わずのけぞった時、そのまま基から剣劇が飛んでくる。
「僕はね、強さに憧れているんだよ。竜介クン」
攻撃をしつつ基は話してきた。
「それも生半端な強さじゃない。何者をも寄せ付けない、文字通りの『最強』さ。それを手に入れるため、僕は師匠のところに弟子入りをした。しかし師匠は僕にその強さの秘訣を教えてくれなかったんだ。何度聞いても師匠は口を閉ざすばかり。だから僕は簡単に強くなるためにこれを持ち出し、わざわざ死にかけるような思いまでした。それでも、僕は強さというものが分からない」
剣劇が終わった後に、蹴り。
思わず体勢を崩し、そのまま床に倒れ込む。
基は首元に西洋剣を突き立て馬乗りになり、こちらの瞳を見つめる。
「ねぇ、竜介クン。――――強さ、って何なんだい?」
刀を奪い取ると、今度は西洋剣とは逆の方に突き立てる。
「単純な腕力? 人望? 人を扱う狡猾な知恵なのか? ……全て僕が手に入れたモノばかりじゃないか」
そのまま西洋剣と刀を交差させていく。
徐々に二つの刃は俺に「早く答えろ」と言わんばかりに白刃を俺の首に近づける。
「ねぇ……答えてよ、竜介クン」
「……ああ」
そう答えたとき、二つの刃はぴたりと止まった。
「……てめぇには、守るモンが何もねぇんだよ」
「守る、もの?」
「ああ。帰る場所、守るモノがあれば人ってのは何倍も強くなるんだよ」
「……なんだ、それ」
「お前には、わからねぇだろうな――――っ!」
俺は腕を基の腹に回し、そのまま掌を放った。
とりあえず刀と剣を床から抜き、刀を構える。
基は倒れたまま、動かない。
「……え?」
まさかこれ、やっちゃった?
……いや、まさか。
これ一応シナリオのラスボスみたいなモンだろ? そんな後頭部打って死亡って……おじいちゃんじゃないんだから。
「……おーい?」
一応頭を蹴ってみる。反応無し。
……おい。
「これ、おわり?」
「そんなわけ無いだろ」
「ですよねー……ってどぅわ!」
いきなり目を開いて突きを放つ。
これを避けたんだけれどもいかんせん突きはいくつも放たれる。
「守るもの?」
放ちながら基は話す。
「そんなモノ、僕には必要がない。余計な重りになるだけじゃないか。だから僕は雁且クンも置いていった」
「好きだったんだぞ、あいつは」
「そんなの、関係ない」
「……てめぇはっ!」
放つ突きを腕で封じる。そのままギリリと締めながらにらみつける。
「あいつが、どんだけお前のことを好きだったのか、わからねぇだろうな」
「二番目に振った人が何を……」
「それとこれとは……」
気合いと共に腕を持ち上げる。
と、同時に基の体も浮き上がる。
「話は別だぁぁぁ――――っ!」
基の体は床にたたきつけられ、一度小さくバウンドする。
そのまま目を開こうともしない。今度こそ……。
「勝った……?」
剣で勝てなかったが……体術で勝てた、か。
「さて、と……うわ、キザ仮面がぶっ倒れてら」
後で持ち帰るとするか。いや、別に大丈夫か? 警察に引き渡しても問題なさそうだしな。
「さて、と……桜田を連れ戻してこれで終わり、っと」
こうして、これで一応基との決着をつけたことになる。
よって、もう終わりだろう。後味悪いけど。
ほんとに、終わりだ。
「終わった……のか」
ホントウニ?
画竜点睛……最後の仕上げ。物事を完成するための最も大切な部分。または、その一事で一気に全体がひきたつような効果の事をいう。
画竜は「がりゅう」とも読み、絵にかいた竜のこと、点睛はひとみを入れることの意。
中国梁の時代、張僧ヨウという画僧が、
金陵(南京のこと)の安楽寺の壁に二匹の竜の絵を書き、このうち一匹の竜に瞳を入れるとたちまち本物となり、天に昇ったという故事から。
「竜を画いて睛を点ず」とも読み
「画竜点睛を欠く」とは、最後の仕上げが不十分であることをいう。
本当に、終わりなんでしょうか?
グランドフィナーレは、すぐそこです。