百三十四日目、人面獣心
人面獣心……恩義や羞恥心・思いやりのない人。
人でなし。
顔は人間だが心はけだもののようであるという意から。
人間らしい心を持たない人のこと。
人面は「にんめん」とも読む。
……なぁ、これで合ってるのか? なぁ?
「さて……早速始めようか? ミスター? じゃなかったシスター?」
「……汝、動く事なかれっ!」
うぉっふぅ!? すさまじい勢いでなんか飛んできた? しかし私の動体視力をもってすればこんなもの避けることなど容易い……!
「って、連続かぁぁぁぁぁぁい!?」
さすがに何発もやってくるときっついこれ! だめ、激しすぎ! キザ仮面はそんなに何発も避けられない!
「汝、動くこと、なかれ」
「うごくわぁぁぁぁぁぁい!! こんなん当たったらひとたまりもないわぁぁぁぁぁぁい!!」
なんか着弾点ものすごい音がしてるもん! あれなんかもう大砲の域じゃん! いくらキザ仮面が超特殊装甲ザ☆パワードスーツで身を固めているとは言ってもこんなんだめだって! 死ぬ! 死んじゃう!!
ならばっ。
「にげ「汝、逃がさないっ」うわっふぅ!?」
逃げ道にいきなりぼーん!? え、何これ? 逃げれば当たるの?
「ちょいかんべんしてよ妃ちゃん! ワタシ タダノ イッパンジンダヨー?」
「汝、逃がさない」
「頭の硬いお人ですねっ!?」
間髪入れずにそのまままたぼーんとやってきてる! もう何これ、いやなんですけど!? もうマントびりびりじゃない! オニューなのに! おろしたてなのに!
「てかマジこれ勘弁! 死んじゃう! 僕死んじゃう!」
「汝、逃がすこと――っ!?」
このまま最初に続くと思いきやなにやら妃ちゃん屈んだ。なに? どゆこと?
「でもチャーンス!」
そのまま一気に急接近! ふっふっふ、このまま浴びせ蹴りをカマしてやりますヨ。
そんなことを思いつつ床を蹴る。なんかめきゃっって音がしたけどキニシナーイ。
風切り音の中、あっという間に距離を詰める。そして、
「もぉらったぁぁぁぁぁぁ!!」
思いっきりシュート
「故に汝、動く事なかれと言わなんだ」
「あるぇ?」
屈んだ姿勢からいつのまにやら復活。そのままなんか腹にめり込んだ。
そのまま宙高くぽぉんとはね飛ばされちゃいました。僕。
「ぐぉえっふ」
ゴムまりのように面白いように跳ねてだえる。やべぇ、マジいてぇ。なんか肋骨一本もってかれてね?
なんで? さっきの一撃は確実に腹にめり込んでいたわけで。
だから肋骨が折れる、なんてことはありえんのですが。
……まさか。
しゅたんと起き上がって見ると。
「汝、動くこと、な、かれ」
「…………」
やっぱし。口から血ィダラダラ出してるよ。いや、まぁダラダラ、っていうほどじゃないんだけど。それでもだらだら出てることには変わりなし。
前回会ったときにいよーに動きが速かった。ましてやこのキザ仮面が七割の力で脚を使わないといけない時がくるとは思いもしなかった。
そんだけのスピードを持ってるんだったら今回もスピード戦に持ち込まれると思ったのだが……なぜか遠距離からの攻撃。
ならば、なぜ妃ちゃんは動かないのか。
否、なぜ妃ちゃんは動けないのか。
嫌な考えくらいしか頭に浮かばない。まさか……。
「なんてこったい……俺様ちゃんの他にも過ぎた力の持ち主がいるたぁね」
過ぎた力。
まぁ、今回の発端はおそらくはあの女の子なんだけど|(あの娘の場合はそんなモノではないらしいのだが)、人間が持つには過ぎた力がある。俺のこの脚力がそれにあるんだけど……まぁ、そんな力が人間誰しもあるんだけどね。それは俗に潜在能力って呼ばれるモンだ。それがあまりにもでかすぎるのが過ぎた力ってモノ。
なら、妃ちゃんはどこに働いているのか。
それか、元から働いていないのか。
元から働いていない、ということは無理矢理に目覚めさせられた、ってこと。
人為的に目覚めさせればもうそりゃあ本物にはかなわないだろうけど、それくらいの力は手に入れられる。
もちろん、それの対価はかなりでかい、つーかむしろ憤死モノ。
それを何でこの子が手に入れたのかは今は知らないけど……。とにかく。
「そんな危ないモノを持ってるのは、危険よ、あんた。今すぐてばなさなかなり危険よ?」
「……汝に、何が」
「分からんよ。でもね。人間あまりにも強すぎる力を持つと今に身を滅ぼすよ?」
「かまわない」
「あっそ。なら――加減はいらないな」
おちゃらけモード、OFF。
本気モード、スウィッチ、オォォォンヌ。
このすちゃらかおもしろシスターには一度きっついお灸を据えねばならんようだ。
そのままつかつか歩く。
妃ちゃんはそのまま腕をふるう。もちろんそれらは急所を狙ってくるんだけど……。
「こんなおもちゃで止められるか」
一蹴。
やってきたモノを蹴り殺す。
驚く妃ちゃんの顔が目に映る。そりゃあそうだろう。これだけ強い力を持ってるのになんで、なんて思うのはたぶん二度目。一度目は俺っちが逃げ切ったとき。
ちなみにやってきたのは拳圧。
よーするに拳を振ったらぶぉんって風切り音が鳴るあれ。それを空気砲状態にしたものだろう。
なら話は簡単。それよりか強い圧力でそれを消せばいい。
「…………あ、」
「過ぎたな、幼女。このモードになったうぉれを止めるのはかなりむずいぞ?」
「……ああ、ご」
「――――今更になって、謝るな」
軸足に全体重を乗せる。けり足にこれまた全体重。
蹴り飛ばす。
脇に側面蹴りをかまし、はね飛ばす。
さらに宙にあがったシスターを地面に墜とす。
シスターはかろうじて息をしている。死なない程度に痛めつけたので、まあ死んではいない。
「……化け物になるのは一人で十分じゃ、こォんのアホンダラ」
そう言って俺も倒れる。やべまず。足に体重乗っけたから急性筋肉痛で動けない。
こりゃあ……加勢に行けないな。
「……ぱっぱっぱー ぱっぱぱらぱ~」
どこかで聞いた唄を口ずさむ。
「さぁ どこにも行けないな」
まさしく、自分。
やれやれ。力加減を失敗するとは……。まだまだだね。私も。
さぁ、強引に終わらせちまったよ。
今度はみんなお待ちかね、夏木戦だよ。
ヒーローは 後から戦う ものなのさ。