百二十八日目、実事求是
実事求是……事実に基づいて、物事の真実を追求していくこと。実事は本当のことで、事実の意。
なんかぐちゃぐちゃです。あっはっは。まあ、やれた感はあるぜ。後悔はしていない。とりあえずまあ、伏線は回収できたかと。
「うぉらららららららららどけどけどけどけどけぇぇぇ――――!」
俺は地図とか内部構造とか把握していないのでそのまま道なりにどかどかと進むしかない。なので手当たり次第に出てきた警備員をばったばったとなぎ倒していった。
が、次第にきりがなくなってきた。
ので、桜田のいる場所を聞いたのだが、誰もうんともすんとも答えない。
くそっ、と思いつつテンションを最高にハイっ!! って感じに道なりに進んでいくと。
「あ、お兄ちゃん!」
「? エルちゃん!?」
そこには我らがマイスウィ~トエンジェル、黒目エルといつぞやの変態、麻上輝がいた。テンションダウン。
「こんなところで何してるの~?」
「あ、ああ。ちょっと大事なものをとられたんで、な……」
ちょっと視線を外しつつ答えると、麻上が、
「黒目。今はそんなことを言っている場合ではないだろう。早く避難を」
「あ、そ~だったね」
「避難?」
麻上は「ああ」と言って続ける。
「なにやらこのビルに侵入者が現れたらしくてな。それで我々は避難している、というわけだ」
「ほ、ほぉ~……」
「……まぁ、すぐに収まるとは思うがな」
麻上はどこか視線を外した俺を見て何かを思い立ったかのようにエルちゃんを見つめる。
「黒目。おまえは先に避難しておけ」
「え? でも……」
「看板であるおまえがこの事態に巻き込まれてはいいスキャンダルのネタだ。早いところ避難をするんだ」
「う、うん……」
ただならぬ麻上の様子を見て、エルちゃんは他の人と一緒に避難をすべく、避難経路にまで逃げていった。
「さて……おまえか? 侵入者、というものは」
「……だとしたらどうするんだよ?」
俺は孫の手に手をかける。この場で戦闘になったとしても麻上くらいならば軽く倒せるはずだ。
そう思って身構えていると麻上は懐からカードを取り出した。
「? これは……?」
俺はそのカードを取ってみてみた。すると……。
「知らないのか? おまえが欲しがっていた封印されし者の右手、右足、左手、左足、エグ○デ○アだぞ」
「しらねぇよ!!」
よくそんな骨董品が持ち出せたな! おい! 遊戯さんに返してきなさい!!
「冗談だ。本当はこっちだ」
そういって改めて麻上はカードを取り出した。銀色で端に黒いラインが入っている。これは……。
「板チョコ?」
「どこをどう見れば板チョコになるんだ。これは最下層へのカードキーだ」
「……端に「シルフカンパニー」って書かれてるんだが?」
「気のせいだ」
俺はそれをポケットに入れ、改めて麻上に向かい合う。
「なんで……」
「私はぶっちゃけ、この会社の事なんてどうでもいい」
なにやら語り出した。
「私の目的とする世界は十歳以上十三歳未満の世界。しかしてこの会社がそれを作ってくれるとは思えない。いや、私の目標とする世界を、この会社が作ってくれること自体、おかしかったものだ。なにぶん、この会社は正しいように見えて実に正しくない。いやはや、まったく。私とて、並の者ではないさ。少しばかりの違和感には敏感な方だ。もちろん、黒目もだ。まぁ、あやつはあやつで異様な才能を持っている。どこの事務所に行っても優遇はされるだろう。私にはそれを見守る義務と、権利がある。彼女を利用することを良しとするのはまぁ、致し方あるまい。おまえにもわかるだろう? ――っていない!」
話が長かったのでさっさと行くことにした。
突き当たりのエレベーターを見つけ、そこに乗り込む。エレベーターのボタンを調べてみると、なにやらカード差し込み口みたいなものがある。それにカードをつっこんでみると天国か地獄かの選択肢が出てきた。
「……んじゃ、地獄で」
なぜに地獄を選ぶか。
「死ぬ前に一度行ってみたかったんだよなぁ。地獄」
のんびりとしたことをいいながら急降下しているエレベーターでのんびりとしていた。
が、それもすぐに終わった。
何せすごいスピードで降りていっているのだ。なにやら髪の毛が浮いているような気がしないでもないが、まあ、それはそれで待っているとエレベーターが止まった。
自動的にぷしゅーとエレベーターのドアが開く。
「…………」
先程までの喧噪はどこへやら。とても静かで、真っ暗な空間に来ていた。
動きやすいようにとおろしたてのスニーカーがきゅっきゅと床をならす。ある程度まで歩いてみると急に明るくなった。
「……っ!?」
一瞬、目がくらむ。しかしすぐになれて周りを見てみると全て鉄板張りの無機質な部屋の中にいることがわかった。
とてもじゃないが、おしゃれ、とはいえない。思い描くイメージは立体の長方形か。
「ようこそ、夏木竜介くん。社会科見学ですか? それとも入社面接ですか?」
そんな声が聞こえてきたので前を見てみるとそこには白衣を着た人が立っていた。
ただ……。
「なんで紙袋かぶってるんだ?」
よく見ればどこか甚平らしきものを着ている感じでもある。雪駄も履いているし。
声を響かせながら俺は白衣の紙袋に質問した。
「ん? ああ。これは私の趣味だ。気にしないでくれたまえ」
ハスキーな声が響く。こいつ、男か女かがわからない。
「で? 誰だおまえ」
「ああ。自己紹介が遅れてすみません。私はここでは『博士』と呼ばれていたり『ドクター』と呼ばれていたり『マッド』とよばれていたり『ジキル』と呼ばれていたりするんですが……まったく。私の名前は御名。御名暁。面接試験では重要なことですね。よく言えました。十点プラス」
「別に面接を受けに来た訳じゃ――」
「口答えをしない。二十点マイナス」
ひどい。
「ちなみに、君の持ち点は百点だ。いま九十点、と言うことになる」
しかもいちいち口調を変えるな。何者なんだ。こいつは。
「ああ、それは私の個性でしてね。すみません。私の癖です」
「癖も個性も同じだろ」
微妙に違うか。
「んで? 桜田はどこなんだ?」
「桜田? ああ、アレか」
「……最近の企業は人を物扱いするのか」
「いえいえ。すみません。しかし、人の名前とはとかく覚えにくい。君の名前も、覚えるのに三時間かかりましたよ」
物覚えがわるいのか、この御名、ってやつは。
「いえいえ。ただ、人の名前を覚えるのが苦手なだけです」
「さいで」
俺はそのまままっすぐ進もうとすると、御名が道をふさぐ。
「どこへ行く気だ? 面接は始まったばっかりだぞ?」
「うるせ、そこをどけ。桜田を取り返しに来た。面接を受けに来たわけじゃねぇ」
「なんと。では我が社の説明代わりに、なぜ我等がアレを誘拐したのか、その説明をするとしましょう」
「おい無視か。言葉のキャッチボールとか、全然人の話聞く気ねぇだろ。むしろどけ」
それでもどかない。どうやら話を聞くまでどかさない気みたいだ。
「……少しだけだぞ」
御名は嬉々として(かどうかはわからんが)話し始めた。
※――――
ウメさんは、語る。
「そもそもはね。鋼流動物拳法に奥義書なんて存在はしないんだよ。書物媒体でも、口伝でもない。
ただ、格闘拳法をやってる人間の中にある一つのとんでもない可能性の芽が出てくる。普通ならばそれを書物に書き記したものが奥義書、なんて呼ばれるんだけど、鋼流動物拳法は違った。何が違うのかって、書物で見て覚えるよりかは身体に覚えさせる方が早いからね。よそのやつに見られて、それをまねされる訳じゃない。まさに秘匿性が高められる、ということかもしれないね」
※――――
御名は話した。
「鋼流動物拳法……ああ、これは今の呼び方だな。昔は想身拳……ああ、想う身体の拳、と書くんだが……まあ、それはいいか。これの詳しい説明だが、元は覚えさせるんじゃないんだ。反復練習で身につくような代物じゃない。汗水垂らして誰もが必死こいて習得するような拳法とは一線を引く。身体に覚えさせるのではなく、身体から思い出させるんだ。意味がわからない、といった顔をしているな。それもそうだろう。今のこの流派は奥義を最大の禁忌としているからな」
※――――
ウメさんは話す。
「まあ、あたしだけだろうね。誰かに教える、っていう考えを起こしたのは。でもそんなことをする理由は最大の禁忌……『獣化』にある。あんたたち、たまにハルがなんか猫の物まねみたいなことをやってた次期があったろ? あれさ。あれを極めればとんでもない物になるんだけど、それを極めると人として終わる。かつてあたしの師匠がそうだったように、ね。師匠の場合はまあ、最終的に狂って泡吹いて死んじまったんだけどね。あたしはそれが怖かったんだよ」
※――――
御名は語る。
「まあ、彼女がどう思ったのかは知りませんが。とにかく自分も狂うことを恐れたんでしょう。まあ、そのときには秘術を駆使して自分の身体を若返らせてはいますが。そんな彼女の娘……ああ、一応結婚してたんですね。彼女……に、子宝ができました。その子達はとてもかわいらしく、愛らしかった。しかし、母は死別。夫は行方不明、となって、一人の女の子が彼女の元に残されました。まだ彼女は赤ん坊。仕方がないので彼女は娘が残した子を育てることにしたんです」
※――――
ウメさんは語る。
「あの子を育てていると、本当に玲衣に似てきて、まるであの子が生まれ変わったかのようだったんだよ。でも、育てているうちに妙なことに気づいたんだ。ある時、あの子が体調を悪くしてね。とりあえずその日は学校を休ませたんだ。ここまではよくある話だよ。けど、その体調が悪くなる日がいっつもおなじ曜日だったんだよ。何でだろうと不思議に思ったもんさ。そしてあたしは、一つの考えに至った」
※――――
御名は喋る。
「『その子は自分の身体を、思い通りに操作することができるんじゃないのか?』……それは想身拳の極意、すなわち、『自己の操作』を会得していた。これについて詳しく説明をするとだな。まあ、対象を『殴り飛ばしたい』と思った瞬間、爆発的なパワーが生まれてその対象を殴り飛ばすことができる、ってことだ。自己の体調を思い通りに変えることだって、できたんだろうよ。しかしそれは、生まれたときからか、それとも急に出てきたのかはわからん。ただ、そいつは文字通り、生まれながらにして想身拳の奥義を極めたってことだ」
※――――
ウメさんは喋る。
「私はがそれを知ったときには、もう遅かった。あの子は私から鋼流動物拳法を学んでいて、それを極めるまでにはいかなかったが、それでも並の男には負けない位の強さを身につけていたんだ。本気を出せば、あたしのでしよりか強く、ね。あたしはどうすればいいのかわからなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。でも、どうすればいいのかわからない。自分の手では負えない、文字通りの『化け物』をあたしは育ててしまった、って訳さね。ぶっちゃけ言って、あたしは今、ほっとしてるんだよ。あの子がどうなるのか、あたしは知らない。ただ、あの子がいなくなってしまう事に、ほっとしている自分がいるのさ」
※――――
御名は締めくくる。
「そしてそれに気づいた一人の男がいました……まあ、当時はまだ少年だったんですが……その男はあの子の力を手に入れたい、と思ったのです。そのためには、どうなろうと知った事じゃない。だから彼はその子を奪うために、あらゆる手を使いました。しかし、ことごとく失敗に終わり、今に至るわけです。ああ、ちなみにその手段を講じたのは彼女を育てた人からです。ご理解いただけましたか?」
「…………」
俺はしばらく黙っていた。
知らなかった。
そんなことがあったなんて。
「…………。」
「ん? なんて言ったんだ? 聞こえないぞ?」
ならば、聞こえるように大きな声で言ってやる。
※――――
「なんで……だったらなんでここまで来たんですか? わざわざ高校まできて、それで、なんで……」
私が質問したとき、ウメさんはふっと笑って、
「ああ、心配だったんだろうね。あの子が。やっぱりどう怖がっていても、あたしはあの子の親代わりなんだから」
……その言葉を聞いたとき。
※――――
「「っざっけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!」」
二つの異なる場所で、同じ事を叫んだ奴らがいた。
彼らの叫びは、
相手を思う気持ちであふれていた。
わからない点がございましたら、速攻で水月にメールをば。
では。