百二十五日目、隠忍自重
隠忍自重とは。
ひたすら我慢して軽はずみな行動はつつしむ事。
隠忍はじっと耐え忍ぶ、自重は自分を大切にすることで、ここでは自分の行動をつつしむ事の意。
……今回のサブタイは、合ってるよね? たぶん。
「どういう……事だ? コガセン」
俺は保健室のベットで右肩を固定された状態で他の役員がそろっているときに聞いた。
※――――
今日の夕方。
桧木たんが桜田がおかしいと言ってきたので急いで駆け寄ってみると白学ランが桜田をさらっていて、その中には基がいた。
春山基。
かつては俺と一緒にウメさんの元で修行をしていた仲。その中には雁岨も是一もいた。
ただ……是一は不幸なことに山で取ってきたベニテングダケ(猛毒)に自分一人だけ当たるというかなり不幸なのか幸運なのか分からない事象で死亡。
そして基は……。
「ほぉ~ら、夏樹くん。お薬の軟膏ですよぉ。というか、災難でしたねぇ」
「すみません、清水先生……ったたたっ! な、なんかこれ、すごくしみるんですけど!?」
「とやまの薬売りから買いましたぁ。手頃なお値段即効性」
「かなり怪しいのですがっ!?」
「まぁ……それに、今はあちらの方の方が大変ですしねぇ」
そう言って清水先生が見やった方向を見る。
そこにはうなだれたまま微動だにしない桧木たんがいた。
他の役員達が側にいるが、微動だにしない。まるでそれはきれいな人形のようだったが、そんなことに感嘆している暇は無いだろう。
『竜介』
「おう、雁岨」
いつのまにやら立っていた雁岨がこちらに来た。やはりみんなの前では筆談にならざるを得ないらしい。
『竜介、基がいたと聞いたんだが』
「ああ。いた」
そう言うと雁岨はそうか、と言わんばかりの顔で近くにあったいすに腰掛けた。
「じゃあ、先生は少し席を外しますねぇ」
そう言って先生はどこかに行った。気を使ってくれた……と考えてもいいのだろうか。
「……竜介」
「おう」
「……基は、生きていたのか?」
「ああ。らしいな。てっきり山で行方不明になったって聞いたからそのまま死んだとばかり思っていたが……生きてたな。あいつ」
「元気だったか?」
「ああ」
「そうか」
こいつ、どうしてこんなに基のことを……。
あ。
そういえば……。
「基はお前の初恋の人だったもんなぁ」
そうちゃかして言うと無言で右肩にグーパンチ。
「もぎゃぁぁぁぁぁあぁぁああ!!」
悶えていると雁岨は顔を赤くして何か呟いていた。
……なんか呪詛に聞こえるんだが。気にしたら負けだ。
「おう、起きてるか」
そんな感じで保健室に入ってきたのは我らが顧問、作者も名前を忘れかけていたコガセンだ。
「そんなことはない。そして作者、後で体育館裏に来い」
(いやです。by作者)
「さて……夏樹。桜田のことなんだが」
来た。
うちはどのような対応をするのか。それを聞かなくてはならない。
全員が耳を澄ます。
「桜田のことに関しては警察に任せることにした。お前らは手出しをするな」
※――――
そして冒頭へと移る訳である。
「桜田は……桜田は大丈夫なのかよ? ドラマとかで見てたけど、警察とか、あてになるのかよ……!?」
「まんまドラマのようなセリフを吐くが夏樹。安心しろ。桜ヶ丘の警察は優秀だ。お前ら……一生徒が手出しをするような件ではない」
冷たく。
冷たく言われた。
確かに俺たちはただの生徒だ。
だけどな……。
「桜田は、俺が助けに行く。何より相手は俺がよく知ってる奴だ。その気になれば――」
「そうか。夏樹。相手を知っているのか。ならば好都合。そのまま警察に出頭してきてくれると助かる」
「やらねぇってんだろ!」
俺はいきり立ってベットから出ようとしたが肩が痛くて無理だった。くそう。
「桜田は……俺が助ける。文句は言わせねぇ」
「俺たち? 何を寝言言ってるんですか? 会長?」
そう言って萩はこちらにやってくる。
「一人で何でも解決しようとしないでください。最終章だからって気合い入ってるんですか? アホですか?」
なにやら変な琴線に触れたが、まあそこはいいとして。
「どういう事だ?」
「私たちも一緒に行く、ってことですよ。会長さん」
乍乃が言う。
他のみんなもこちらにやってくる。
「ただの一生徒なんて言わせません。コガセン。私たちは、生徒会なんですよ」
「まぁ、いざとなったらこっちには最強のお方もいますしね。ロリですけど」
「ええ。見てておもしろいロリはなにげに強いわね」
「そう言うわけで、会長。僕らも行きます」
「お前ら……」
なにげに変な言い方をされたが最終章と言うことで我慢しておこう。
コガセンははぁ、とため息をついて。
「そう言うと思ったよ……だがな、こればっかりは、だめだ。たいていのことには目を瞑ってきた私だが、今回ばかりはだめなんだよ……」
コガセンが何かあきらめたような口調で言う。
「……いや、私から最初から言っておいた方がいいな。今回桜田が誘拐された件については忘れろ。この件に関しては生徒会が関与することは学校側から堅く禁ずる。もしそれを破ろうものなら学校は生徒会役員全員に停学、又は退学処分を下す。……とのお達しが来てるんだよ。学校長から、ね」
俺たちが動けば。
俺たちは、停学、もしくは、退学?
そして冒頭である。
「……なんで生徒会が関与するなと……?」
「あたしだって知らないよ。萩。こんな事を言ってきたのは生徒会が発足されてから今回が初めてだからね」
といっても、日は浅いけど。と付け足し、肩をすくめる。
「……冗談じゃねぇぞ」
俺はコガセンに掴みかかり、
「なんで! あいつを助けに言っちゃいけねぇんだよ!?」
あらん限りの声で叫んだ。
「これ以上のことはやるなってか!? 生徒だからか!? ガキだからか!? ざけんな! 今回は人命がかかってんだぞ! それなのに、何も動くなだぁ!? 大事な仲間の為に、何も出来ないっていうのかよ!」
「……夏樹。お前は一番最初に止めておく必要があるみたいだな」
「なに、」
そこまで言ったとき、俺は急に目の前が暗くなった。
※――――
「会長!?」
コガセンに掴みかかり、首に手刀で殴りつけられて気絶させられた会長は、ぐったりとしていた。
「萩、部屋に入れとけ。こいつの部屋は頑丈に鎖や有刺鉄線、赤外線にレーザー光をつけて厳重にしておく」
「念入りですね」
「当然だ。こいつが出たときにはまさしく大惨事だからな」
「……分かりました」
僕はそう言って会長を担ごうとした。が、いかんせんからだが大きい。
「紫苑」
「何」
「……手伝って」
「分かったわ」
紫苑にも協力をしてもらい、会長を部屋まで連れて行った。
その様子を見ながら後輩達は僕らのことをどう思っただろうか。
だけど。
僕らはまだ、あきらめてはいない。