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桜ヶ丘高校生徒会役員  作者: 嫁葉羽華流
春の章 ~そしてまわりだす~
135/151

百二十二日目、音楽とは、すばらしいものだ。

この回を見ている最中、ピアノを弾いている描写がありますが、その際にはショパンの別れの曲を是非聴いてください。良い曲ですから。

「え? 音楽室、ですか?」


不意に柊先輩から「音楽室に行かないか」と誘われた。


「そう。音楽室よ。行かない?」

「いや、別にいいですけど……何しに行くんですか?」

「それはね……」


なんかこっちを見ながら妖艶に舌なめずりしないでください。怖いです。

柊先輩は「冗談よ」と言った。ホントに冗談だったのかな……。


「気分転換に楽器でも演奏できないかしら、と思って」

「え? 柊先輩って、楽器演奏できるんですか?」

「ええ。言ってなかったかしら?」


初耳です。


「お嬢様に手ほどきしたのは私です。お嬢様は筋がいい。聞き惚れることは間違いないですね」


井宮さんもいつの間にやら柊先輩の後ろで控えていた。どっから出てきた。

そして音楽室に行くことになった。

……なにこのギャルゲー的な展開は。私女だけど。


※――――


よくよく考えてみれば、生徒会室棟には音楽室がない。

なぜだか生徒の個室(共同で使ってるところがほとんど。かなり広い)があったり、保健室があったり、食堂(こちらも無駄に広い)があったりするんだけど、やっぱり音楽室はない。

では、どこにあるのか。


「もちろん、第一棟にあるのよ」

「一体うちの学校はどれだけの金持ち校なんですか……」


生徒会室棟があったり校舎が三つほどあったり、中庭がバカみたいに広かったりと、よくよく考えてみればこの学校。かなり広い。


「まぁ、ここまでやったのは前会長のおかげらしいけどね」


前会長……。一体どんな人だったんだろうか……。

そんなことを考えつつ、私たちは第一棟についた。

途中、生徒からは挨拶をされたり、尊敬のまなざしで見られていた。

……みんな、実態を知らないからそんなことが出来るんじゃないのかと思う。

あれ? でも実態は知っているような気が……。


「情報隠蔽、ってしってる? ハルちゃん?」

「ってまさか……」


そこまで言ったとき、柊先輩はにこやかにウインクした。ごまかしたよこの人。

さてさて。そんなことをやりつつ音楽室にたどり着いた。

中にはティンパニ(打楽器)やドラム(打楽器)、ギロ(打楽器)、シンバル(打楽器)等が置かれていた。というか……。


「何故に打楽器ばっかり!?」

「こっちの方にはちゃんと他の楽器も置かれてるわよ」


柊先輩が指さした方にはギターや電子ピアノが置かれていた。普通の学校だったよ。良かった。

ほっとしたとき、窓際に一つのピアノが置かれていることに気付いた。

グランドピアノ、というんだろうか。結構おっきいピアノだった。中の様子まで見える。よく整備がされているんだろうか。

柊先輩はその前に座り、おもむろに弾き始めた。

…………。

読者の方々には分からないと思うが、とてもいい音色である。

ただ……。


(もの悲しいな……)


なんというか、弾いているのはとてもいい。音色も最高だ。曲自体は聞いたことがあるので、CDのそれをナマで聞いているような感じだった。

ただ、曲のチョイス。

ちょっと私にはもの悲しく聞こえた。

だが、それでも、心に染み渡っていくような感じ。乾いたスポンジに水が染みこんでいくような……そんな感じだった。

そして演奏が終わる。

私は思わず拍手をしていた。井宮さんも。

柊先輩は少し照れながら、その拍手を受けていた。


「良い曲でしたね」


これは嘘偽り無い言葉だ。ホントに良い曲だった。


「いつもながら良い曲でした。お嬢様」

「ありがとう。井宮さん。ハルちゃんも」

「しかしながらお嬢様。何故にこの曲を選択したのですか? もっと他に良い曲があるというのに」


井宮さんは柊先輩に不思議そうに言った。

柊先輩は少し笑って、


「そろそろ、会長が卒業するから……その練習、と言った感じかしら」

「……あ」


そうだった。

よくよく考えたら会長は三年生だ。

受験とかはしなくていいのかとか、そんなことを考えたが、卒業するんだ。


「ええ。だから、会長に心ばかりのプレゼントを、と思ってね」

「あー……」


もう二月。

そろそろ会長も卒業をするかもしれない時期だった。

だったら。


「……先輩」

「ん?」

「だったらもっと派手な感じで送ってあげましょうよ」

「え?」


柊先輩は意外そうに目を開いた。


「会長には、こんなしんみりしたのなんて、合わないと思います。別に、柊先輩の演奏がだめだったとか、そんなのじゃないです。ただ、会長にはもっと、ふさわしいお別れの曲があるんじゃないのかなーって思っただけで……」


最後になるにつれて言葉が尻すぼみになっていく。

何を言っているんだ、そんな気分になる。

だけど、言っておきたい。今井って置かなきゃ、気が済まなかった。

柊先輩は少し考えたように、


「……そうね」


うなずいた。


「確かに、あの人にはこんな曲は合わないと思う。だったら、もっと明るい曲……派手な奴で送り届けてあげましょう」

「はいっ!」

「よしっ! そうと決まれば、抄華ちゃんと雫ちゃんを呼んできて、井宮さん! 早速練習よ!」


そんなわけで。

みんなで集まって「会長を送るバンド」を結成した。

ちなみに、作詞作曲、全部自分たちでやることに。

集まった人みんな楽器が弾けた。柊先輩はキーボード。抄華ちゃんはドラム、雫ちゃんはギターと、みんなバラバラに分かれていた。

かくいう私は……。


※――――


「軍曹さん、ここはこう押さえて……」

「こ、こう?」


みょ~ん


「違いますよ、もっと強く押さえて」

「こんな感じ?」


みょぉ~ん


「もうちょっと強めで。あとギターの弦はもうちょっと強く弾いてみてください」

「こうかな?」


ぽろん


「エレキギターでどうしてハープの音色が出てくるんですか!?」

「えぇっ!?」


こんな感じであんまり進んでいない。

足を引っ張っているのは私だけだったので、結構肩身の狭い思いをしていた。

そんな中でも頑張って練習をしていた。

正直言って、まだまだ練習は激化しそうだ……。

憎め、憎め、憎め。

自らを「不要」と切り捨てた、あの女を憎め。

心の底から憎悪しろ。腹の底から恨め。

慕え、慕え、慕え。

自らを愛してくれる、彼を慕え。

全身で慕え。全てを彼に捧げろ。

この身体は彼を慕い、

この身体は彼女を憎む。

相容れない矛盾である。

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