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桜ヶ丘高校生徒会役員  作者: 嫁葉羽華流
冬の章 ~ソノオモヒハ ソラニイク~
128/151

百十六日目、神様の妻でもあり、娘でもあり

更新が遅れてすんません……。

十万をきったからと言って、調子に乗るつもりはありません!!

これからも頑張っていきますので、どうかよろしく!!

では。本編をどうぞー。

最初に言っておこう。

俺は神様なんて信じねぇ。

仮にいたとしても、なんでそいつは人間おれたちを救いもせずに、ただ傍観してるだけなんだ?

くそったれが。

だから俺は……神様の存在を、「全否定」する。


※――――


桜ヶ丘高校のグラウンド。

前にここで体育大会や、バトロワをやったことも、良い思い出だと思う。

そして今。

夜空には満点の星に、いつもより一回り大きく見える丸い月が浮かんでいた。

月や星が映し出した二つの長い影は、交差することはない。

一つは、大きな男の影。

そして一つは、丸い影。

大きな男の影は、丸い影に向かってつつっこんで行っていた。

だが、何度男が突っ込んでいっても、丸い影に触れることすら許されなかった。


ただ俺は、女に対しては極力「力」をふるわないと言うのを金科玉条にしている。

本当だったら女にも拳はふるってはいけないんだろうが、高校二年生の時にそれはあっけなく破れた。

小さい女の子に暴力をふるうなんて論外だ。

でも、今回ばかりはふるわざるを得ない。

何せ……相手は神様の妻だったり、娘だったり母だったりと、訳の分からんやつだ。

だけども、女、と言うことには代わりはなかった。

だから、力は使わない。

背中にいつも差してあるはずの「秘刀孫の手」は地面の上に転がっている。

そして……俺は眼前にいるそいつを視認する。

着ている服はうちのブレザーにスカート。胸にリボンもしているみたいだから間違いはないだろう。

特徴的な……こんな月夜の中でもはっきりと見える蒼い髪。

そして、怪しく輝く青い目。

間違いなくこいつは……。普通・・じゃない。

もちろん、生徒会の中にも普通じゃない奴らはたくさんいた(主にひのきたんとか乍乃とか)。

でも、こいつは明らかに普通じゃない(異常な)奴だ。

やることなすことが、人じゃない。

なにせこいつには……


「おおおおおらぁぁ――!」


俺は遮二無二走り、目の前にいる女に疾駆する。

足は風になり、土埃が辺りに舞った。

十分な威力の助走をつけたあと、あとは慣性の法則だ。

突風となった一撃は、相手に届き、宙を舞わせるはずだった。

だが、それはまたも適わなかった。

相手に届くはずの一撃はすんでの所で止まり、瞬きをすると同じくらいの早さで、突風の一撃が腹に入った。

まさに、俺が放った一撃。それに酷似した自分の放った、渾身の一撃。

俺がまた、宙を舞う。地面に落ちる、転がる。土埃をあげて止まる。

苦しさで頭が働かず、身体のあちこちが、痛い。

届いた一撃で、相手にダメージがなかった事は無い訳じゃなかった。

だけども、相手にまるっきり届かない一撃なんてのは、初めての経験だ。んなもん、お使いだけで十分だっつーの。

……やばい。頭がろくな事を考えやしねぇ。

こいつを倒せば、みんな、元の世界に、帰れるのに……。

とどかねぇのかよ……。

なんで、なんだよ!


「救いたいモン、救いたいのに、何で救えねぇんだよ……!」


悔しさで、夜空はにじんだ。

ふと、


「……どうして」


声が聞こえた。

見ると、上には青い瞳に、蒼い髪の女が、俺を見下ろしていた。


「どうして、あなたはあきらめないの? なんで、元の世界に帰りたがるのですか? ここにいれば――」


女は、静かに訊く。


「ここにいれば、いやなことから、全部逃げられるのに。神様が作った、運命とか、全部逃げられるのに。なんで」


そして黙った。


「……なんで、っていわれてもなぁ」


訊かれたなら、答えなきゃならんだろ。


「ひとってのぁよぉ――」


※――――


日はすっかり落ちて辺りは暗くなった。

夜道は危ない、と言うことで一緒に雁岨さんが付いてきてくれていた。

ひんやりと冷たい風が、ほほをなでた。


「……桜田」

「ほぇ?」


雁岨さんから急に声をかけられた。

雁岨さんはその場に立ち止まり、こちらを見据えている。


「元の世界は、嫌いだったか?」

「…………」


お前の事情は聞いている、と言ったあと、雁岨さんは続ける。


「お前が人を信じ切れない、と言うことだってあるかもしれない。でも、こんな風に逃げるようなまねまでして、お前は……自分の過去から逃げたかったのか?」

「…………分かりま」

「分かりません、と言うんじゃないぞ、桜田。これは、お前の問題でもあるんだからな」


雁岨さんはこちらに詰め寄ってきた。近い。

それでも私は、何も……言うことが出来ない。

逃げたいと思ったのだろうか?

元の世界は、そんなに自分にとって、つらかったんだろうか。

……本当に、分からない。


「本当に、分からないんです……!」

「……そうか」


短く言ったあと、雁岨さんは、一言。


「忘れるな。お前は弱い。故に、頼れる人はいくらでもいるんだからな」


そう言って、雁岨さんはまた無言になった。

やがて家について、雁岨さんとは別れた。

玄関のドアを開く。

そこには、「いつもの」お母さんが私の前にいた。

お母さんは心配そうに、


「ハル? どうしたの? 今日は遅かったじゃない。何かあったの?」


しばらく黙ったあと、私は顔を上げて、


「大丈夫! ちょっと、考え事をしてただけ!」


あーおなかすいたなー、今日のご飯はなんだろなーとか、明るく言ってそのままお母さんを追い越して、居間まで歩いていった。


桜田家のご飯は、今日もおいしかった。

魚の煮付けに、味噌汁、きんぴらゴボウにたくあん、といった質素な感じではあるが、それでも、お母さんの作ってくれた料理は、おいしかった。


「――でさー、その人ったらね、おかしいんだよ? 『このアメンボは俺のだっ!!』とか頑固に言い張ってさー」

「ふふふ……ホント、可笑しいわね」

「だよねー!」


あっははははははは……楽しげな笑い声が、「いつもの」ように当たり前にわき出る。

しかし。

帰らなくちゃいけない。

ごめんね。お母さん。

でも……。

帰りたいかどうか、まだ分からないんだ。


「――でさ、お母さん。ちょっと訊きたいことがあるんだ」

「あはははは……ん? 何? ハル?」


若干の涙目になりながらも、私の方にその柔和な笑顔を向けてくれた。ありがとう。


「もし……もしだよ? 私がここじゃなくって、どこか、別の……別の学校に転校する、って言い出したら、どうする?」

「……ハル? あなたまさか――」

「違う違う違う違う!! いじめとか、そんなのには遭ってないから!! 至って普通の高校だよ! ……うん。至って、ふつーの、ね」

「? じゃあ、なんでそんなことを言い出すのかしら? ……仮に、だけど」

「うん……なんていうか、さ。私はここにいるようで、でもやっぱりなんか、いちゃいけないような……そんな感じ。そんな感じが、ここにいる限り、無くならないんだ」


お母さんは、黙って聞いてくれている。


「それから抜け出すには、やっぱり、私が元の世界とか、学校とかに帰らなくちゃいけないみたいで……」


あれ?

なんでだろ。


「……でもさ、私はね、そのままこの世界に居たいと思うんだ。わがままだとは思うよ? でもさ、私はここの世界が好きなんだ。今居るここが大好き。いきなり『元の世界』とか、『神様』とか……訳の分からないことがたくさんあって……」


なんか……。

目の前がまっすぐ見えないんだけど?


「ほんと、分からなくなって……頭、こんがらがったり、ぐっちゃぐちゃになったり、訳が分からないんだよ。でもさ……」


ああ。そうか。

今の今まで遺影とか、お墓の前でしかあえなかったお母さんと、こうやって本音で話せるのが、うれしいのかな?


「ここの世界から居なくなったら、私はもう、二度とお母さんに、会え、なくなっちゃうんだよ。でも、そんな、の、いやだよ。もっと、もっと、お母さんと、いっぱいしゃべりたいよ。学校の事とか、いろんな事、話したいんだよ。でも、お別れしなくちゃいけないんだ、よ。そんなの、ほん、と、いやだよ。わた、し、ど、したら、いいか、わ、かんなくって……」


そこまで言ったとき、お母さんはいつの間にか、後ろに来て、私を抱きしめてくれていた。


「ハル。私はね――」

さて、二人の気になる回答とは?

そして、消失編の結末はどうなるのか?

もうそろそろ、消失編もクライマックス!!




待て。而して期待せよ。                  ――――アレクサンドル・デュマ――――

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