百十三日目、見た。
更新が遅れてすんません。水月です。
まぁ、今回はちょっと内容が書くのに手間取っていて……。
いや! いいわけはしない!! あーそうだよ! 更新が遅れちまったよ! これで満足かコノヤロォォォォォオオオオオ!!
……ハッチャケてしまいました。すみません。では本編へどうぞ。
ちょっと春めいた雰囲気の和やかな公園には、カップルや家族連れの人たちがまばらに来ていた。
そしてその公園の中央にはそんな和やかな雰囲気をぶちこわすような斬新かつきわどい……と言った方がまだマシな彫刻が鎮座していた。
女性三人がつかみ合い、殴り合い、肌には妙な傷跡や服が裂かれていることにより、妙にエロチックな様子が妙にビビッドに彫られた彫刻……タイトルは「団結」。
いったいこれのどこに「団結」という言葉があるのか、制作者に聞いてみたい。
現に近くの家族連れが「ままー、あれなにー?」と子供が聞いたとき「見ちゃいけません!」と諭している所があった。
そんな彫刻の台座にもたれかかってケータイをいじっている少年が一人いた。
触れれば切れるかのように鋭い目に毎日鍛えていることが見て取れる引き締まった身体。髪はオールバックにしているが、襟足辺りは伸ばしているのか、束ねられて一本にまとめられている。
青色のジャケットに白いシャツ、黒いズボンとスニーカーを履いた少年はメールをひとしきり打った後、携帯を閉じてため息をついた。
その後、何者かがかけてくる音に気付き、その方向に目を向けるとそこには、
「ま、待たせてしまってすまない……閃神」
一人の可憐な美少女が立っていた。
所々にいた人々がひそひそと「あれどこのタレントの子だろう?」とか「絶対にどこかのお嬢様だろ?」などその少女から目を離さずに耳を打ち合っている。
しかし誰よりも驚いたのは他でもない、声をかけられた少年――閃神の方だった。
「……あ、ああ。いや、ついさっき来たところだ」
「そ、そうか。なら、良かった……」
ほっと安堵の息をついた少女は気をつけの姿勢を維持したまま閃神の前で固まっていた。
※――――
「ぎいぃぃ――っ!! 閃神さん! ここは桔梗さんに跪いてキスをするところでしょう!! 手の甲に!!」
「いや、抄華ちゃん、それどこの王子様?」
「暴れないでください。二人に気付かれたらおしまいですよ」
私たちは近くの茂みから迷彩服を着て望遠鏡を覗きながら二人の様子をウォッチングしていた。
隣にいる抄華ちゃんは地団駄を踏みつつ双眼鏡から目を離さないでいた。
私はそんな抄華ちゃんをなだめながらも桔梗から目をなはしていなかった。
そして対する藤代さんはおもしろそうにその様子を眺めていた。
「てか抄華ちゃん、ぎいぃぃ――ってなに? きいぃぃ――だったらまだ分かるけど」
「え? 悔しかったりするときには『きいぃぃ――』っていいません?」
「あるけど……」
「それですよ」
「それなんだ」
茂みの中で他愛もない会話をしていると金ぴかネックレスにアロハシャツと言った「これはないだろう」な感じのチャラい男が桔梗たちに近づいていた。
※――――
「おうおうお~う。なんだかきれーなねーちゃんじゃねーか。こんなツマンネー男より、俺と一緒にあそばねー?」
なにやらチャラい男は金ぴかに髪を逆立て、黒いサングラスをかけていた。
桔梗たちはその発言にいらっとしたのか、少しばかり口がへの字に曲がっている。
そこには「仲睦ましそうな二人の男女」ではなく、「完璧に人を殺る同士」といった関係になっていた。
特に今回のデートを楽しみにしていた人にとっては、それは逆鱗に触れる言葉だったに違いない。
「……貴様……どういう事だ?」
桔梗はゆらりとその場を動き、チャラ男に聞いた。
チャラ男は桔梗が怒気をはらんだ声とも知らずにへらへらと、
「だぁ~かぁ~らぁ~さぁ~。そんなツマンネー男といないで、俺と一緒にあそばねー? もっと楽しいとこに連れ照ってやるぜぇ?」
それを言ったとき、桔梗は反射的に右手を振りかぶり、チャラ男に向かって、
ごっつん!
叩きつけた。
文字通りに叩きつけたのだ。右手をグーにして。
チャラ男は桔梗のいわゆる世間的に言ったらげんこつという一撃を食らってふらふらとよろめき、そのままばったりと倒れた。
それを見届けた桔梗は晴れやかな笑顔で、
「さ、行こうか。閃神」
閃神に向かって言った。
※――――
「……歩き疲れたし、店にでも入るか」
二人で歩いてから、なんの行動も無し。ただ二人で歩いているだけだった。
二人で歩くにしろ、何か会話があるのではないのかと思うのだが、二人は一言も話さず、ただまっすぐ前を見つめているだけだった。
そして二人が通っていくと周りの人々は口々に「あれどこのお嬢様なんだろ?」「カワイー」などつぶやいていた。もちろんそれらはきっちりと勝負衣装(?)を着た桔梗を見ての発言だったが。
閃神の発言に同意したかのように桔梗は小さく頷き、一緒に近くにあった喫茶店の中に入っていった。
もちろん、後を追うために桜田達も同じ喫茶店の中に入っていった。
ただし、迷彩服では無く、学校指定のブレザーとローファーだったが。
「どこに用意してたの?」
「秘密ですよ」
ちなみに用意していたのはなぜか八雲だった。
※――――
「ご注文はなんでしょうか?」
店員と思わしき亜麻色の髪をした女の子が、にこやかな営業スマイルで桔梗たちから注文を取っていた。
閃神は入ったときから仏頂面を崩さずにそのまま、
「……午後のひとときAコースを頼む」
「かしこまりましたー♪」
女の子は営業スマイルを保ちながら次の席に注文を取りに行く。
「ご注文はなんでしょうか?」
「シェフの極甘羊羹一つ」(桜田)
「あんパンと牛乳」(抄華)
「アイスコーヒーで」(八雲)
と、三人おおよそ喫茶店で頼むものでもないし、おいているものでもないだろうと思うものを注文した。しかし店員は、
「かしこまりましたー♪」
と先程と変わらない営業スマイルを出して店の奥に行った。
「……こういうところは、その、な、なれ、て、なくて、な。は、はは。ははははは……」
乾いた笑いと明らかに緊張していると言うことを感じさせられる声音を出しながら桔梗は独り言のように閃神に向かって呟いた。
「……奇遇だな。実は俺もだ」
「……えっ」
「女性とこうやって食事をするのは、実は二度目でな」
「……へ?」
「だがしかし、お前ほどは緊張はしていない。安心しろ」
「…………」
だが桔梗にはそれ以上の言葉は聞こえてはいない。
女性と食事をするのはこれで二度目。
自分の前に、食事をした女性がいる。
――「はじめて」を、他の女性にとられていた――!
桔梗にとってはそれはとてもきついことだった。
自分も初めてなのだから、きっと相手も初めてに違いない。
そう思っていたのに……。
桔梗はその言葉から何をすればいいのか。
ただ、桔梗はその場で閃神と食事を一緒に摂り、そして……。
「お待たせしましたー♪」
亜麻色の髪の女の子が山ほどもある、もはや新進気鋭の芸術作品のようにこれでもかとばかりに盛られたホイップクリ-ム、フルーツ、ウエハースにチョコレートなどのお菓子類。
「午後のひととき」とはまさしく名ばかり。そこにあったのは午後のひとときをじゃませんとする巨大なパフェだった。
「ごゆっくりどうぞー♪」
女の子は浅く一礼し、その場から去っていった。
さすがの閃神もこの大きさにはびっくりしており、
「…………」
目を見開いて固まっていた。
目の前に座っている桔梗はうつむいたまま黙っていた。
だが、桔梗は顔を勢いよく上げると手元にあったスプーンをがっしとつかみ、
「…………っ!!」
親の敵かのように夢中で食べていた。
いや、食べていたのではない。
その食べ方、かきこむでもなく、食べあさるのでもなかった。
その食べ方はまさしく、「貪る」かのような食べ方だった。
彼女らの席の周りにいた人々は先程まで桔梗の姿に見蕩れているものはその所業に一気に一線を引いたような、そんな顔をした。
※――――
「午後のひとときAコースパフェ、完食……!」
「すさまじいね……」
桜田は一人ジャイアントサイズの羊羹をもぐもぐと租借しつつ感嘆の意を述べている。
抄華はあんパンをほおばりつつ牛乳を飲んではいるのだが、口の周りに牛乳がついている(通称、白いひげ現象)ので、いまいちしまらない。
そして出雲はそんな二人の様子を、ただ見ているだけだった。
「あれ? でもなんかこの後からは会話が弾みだしたよ?」
「ほんとですね……いったい何があったのでしょうか」
「とにかく、これにて見る価値はなくなりましたね。ケッ」
抄華はそんな二人を尻目に見ながら立ち上がり、喫茶店から出て行こうとしていた。
それに習うかのように二人も一緒に出て行く。
「あ、会計は……」
「後でやってくるぱっと見さえなさそうな赤い服を着た少年に請求してください。たぶん髪の毛を逆立てているはずです」
そう言って喫茶店から出て行った。
商店街は相も変わらず賑やかな様子ではあった。
行き交う人がしゃべったり、八百屋さんの店員は野菜を片手に魚屋さんと声をはりあいっこしていたり。
どこかのおばさんは肉屋のコロッケを買うかどうかを悩んでいたり等、そこにはありきたりで、退屈な日常が平然とあった。
「んじゃ、この辺で解散しますかね」
意外にもつまらなさそうに抄華は言った。
「あれ? この後も二人の後を追うのでは?」
「この後のデートコースで展開される行動なんて、すでに予想されまくりです。そんなもの、明日桔梗がのろけ話でもなんかして持ってくるはずですよ」
八雲の質問に抄華は嘆息しながら答えた。
「ハルさん。あなたはどうしますか?」
「へ?」
急に自分に振られてきたため、何を答えたらいいのか分からなくなった。
「えっと、と、とりあえず。今日はこのまま家にかえろっかな~……なんて思ってたり」
「分かりました。では、また明日、学校で」
そう言って抄華と八雲は、商店街の人混みの仲に消えていった。
「…………かえろっと」
そう言って来た道を帰っていると、金髪の学生服を着た人物がいた。
その人物は普通の人よりか頭一つ分背が高く、目立つような金髪ではあるものの、耳にピアスの穴は一つたりとも開いていなかった。
そして、雲のように白い半袖の学生服に墨汁で染めたかのような黒いズボン。
ハルはそれを見た途端、その人物を追いかけた。
なぜだかは分からない。
ただ、追いかけたくなっただけ。
ひょっとしたら、その人は意外と目につく人物だったからだったのかもしれない。
ひょっとしたら、自分は何か、その人物に何かを期待していたのかもしれない。
いろいろと考えては消え、考えては消え、を繰り返していると、一つの考えにたどり着いた。
――自分は、あの人を知っている?
そうとしか考えられなくなっていた。
何かの誘導尋問なのかもしれない。
それでも良かった。
ただ知りたい。それで十分じゃないのか?
そしてハルは――私は走った。
その人に話しかけるために。
その人がなんなのかを知るために。
次回、ついにあの人が登場?
そして消失編は佳境へ……!