百八日目、食べた後には歯を磨け。
ここだけの話。少しだけ……作者の実体験が入っています。主に後半。
何故だ……。
何故私は今ここにいる?
いやまぁ、そりゃぁ日頃のケアは必要だと思っていたさ。
でも……だからといってこれはないだろう!?
天は私に何をしようというのか!?
おお! 神よぉぉぉおおお!
「秋原さーん」
「……雁岨、呼ばれてるぞ。早く行ってこい」
『嫌だ』
誰がなんと言おうと……。
私は歯医者の世話にはならないからな!!
断固私は椅子の上にへばりつき、そのままの姿勢で動かなくなった。
「……お前いくら何でも歯医者を怖がりすぎだろ……」
『竜介、お前は知らないだろう。乳歯を全て抜かれたときのあの痛さを!!』
「お前筆談に戻ってるぞ。良いのか? てかどっからスケブ取り出した」
『良いんだ。そしてスケブの収納場所は秘密だ』
結局竜介は受付嬢の所へ行って他の患者さんを優先してもらうように言った。
くそう……歯が痛い……。
すごくじんじんする……。
「なぁ雁岨、痛いだろ歯。はやいとこ医者に診てもらった方が――」
『い や だ !』
「断固拒否か」
竜介も根負けしたのか、
「んじゃ、俺先に帰ってるからな。いいな?」
そう言って帰ってしまった。
あ、ちょとまって……一人に……一人にしないでくれぇぇぇえぇぇぇえええ!!
そう言おうとしても言葉が出ない! くそう!! ああ!! 行ってしまおうというのか!! 竜介!!
そして、竜介は帰っていった。帰って行ってしまった。帰ってしまった。
……………………。
ふっ……。
私は観念して天井を見上げた。
まだ歯はじんじんする。早く医者に診てもらわねば大変なことになるだろう。
だが、見てもらうのはいやだ。
あのなんかドリルのきゅいぃ~ん音とか、がりがりがり削る音とか、なんか歯茎に麻酔注射されるだけでも痛いというのに、相手は最終兵器、ペンチまで使ってくる恐れもある。
そんな奴らの領域に……私一人か……。
そう思っていたら自動ドアの開く音と共に誰か入ってきた。
む? あれは……。
「――だーかーらー!! 痛くないって言ってるじゃんっっ! 何でここまで連れてきたのよぉ!! 輝のばーか!!」
「アイドルは歯が命。ましてやお前はロリ系トップアイドルなのだろう? そんなアイドルが虫歯にかかるなんて、不祥事も良いところだ」
「不祥事じゃないもん!! 夜に歯を磨かなかっただけだもん!! うそつきー!! 輝のうそつきー!! ト○ザらス連れてってくれるって約束したのに、歯医者じゃん!!」
「これが終わったら連れて行ってやる」
「もう精も根も尽き果ててるよ!! その頃には!!」
なんて漫才(?)を繰り広げながらやってきたのは、黒芽エルと一応公には黒芽のマネージャーということになっている麻上輝がやってきていた。
「じゃ、私は車の中で待っているぞ。しっかりと治療してもらえ。ちなみにここは一発で虫歯を治すらしいから安心しろ」
「安心できないよ!! まってよ!! 輝!! てーるー!!!」
無情にも麻上はそのまま黒芽を置いていった。
……オトナの風上に置けるオトナだな。うん。
そして黒芽も観念したのか、そのまま俯きながらとぼとぼとした足取りで私の隣に座った。
そして顔を上げたとき。
目があった。
……………………。
「……………………」
「…………おばさん、こんなところで何してるの?」
『ガキんちょこそ、こんなところで何をしている』
「わ、わたし? 私はあれよ、そのてーきけんしん? ってやつ。ぜ、ぜったい夜に歯を磨くのを忘れてたことで出てきた虫歯を治療しにきたんじゃないんだからね?」
『語るに落ちたな。ガキんちょ。まぁ私も、そんなへまはやっていない。ただ桜田達と一緒に水月の激甘羊羹を食べた後、夜に歯を磨かなかっただけだ。虫歯を治しに来た訳じゃない』
「おばさんもひとのこといえないよねぇ?」
『お前もな。ガキんちょ』
そして私たちはしばしにらみ合った。
そして、
「ま、まぁ? 私はあれだから。歯医者なんて怖くないんだから。むしろ歯医者愛好会に属してるくらいなんだからね。もはや奥歯に普通に重機用のドリルつっこまれても大丈夫だから」
『ほほう? 言うな。まぁ私はあれだ。歯医者なんて屁の突っ張りにもならないからな。むしろあれだ。桜ヶ丘高校元リル研究会会長だぞ。ドリルのことにおいては他の追随を許さない女だからな。私は』
そしてしばしまたにらみ合い。
しかし……私の心の中は平穏無事ではなかった。
(ば、バカな!! 口の中に重機用のドリルだと!? そ、そんな物を口の中につっこまれては大惨事に……はっ!? まさかコイツ、歯がメタル製なのか!? 純メタル製なのか!?)
(作者注;ちなみに、同時に黒芽はこんな事を思っていたそうです……。
(う、ウソッ!? ドリル愛好会元会長!? そ、そこまでのドリル好きと言うことは……口の中にドリルをつっこまれる事なんて日常茶飯事じゃない!! そんな……このおばさん、できる!!))
「へ、へぇー? ドリル同好会? ふーん、すごいじゃん。おばさん(そ、そこまでドリルを愛する女に勝てるの? 黒芽!?)」
『ああ。どんな物だ(コイツ、歯医者愛好会に入っているほどの歯医者好きなのか!? く、くそう……)。』
そして、私は名前を呼ばれた。
――来たかっ!
すっくと腰を上げ、
『では、行ってくる』
そう書き残し、行こうとしたときだった。
「させるかぁぁぁぁぁああああ!!」
「!?」
黒芽が思いっきり私の足にへばりつき、そのままスライディングしたのだ。
『な、何を……!!』
「へ、へっへーんだ。私を置いてどこかに行こうなんて、そんな激甘な考えしてた? 甘い、甘いよおばさん」
『くっ……!』
こ、このガキんちょ……!
まさか気づいていたというのか!? 今の今までのはったりに!!
しかし、こいつはそんなに内部事情には詳しくなかったはず……なぜ……。
「いくら何でもドリル愛好会、っていうのはおかしいでしょ。ていうか無いだろうし」
「…………っ!」
見破られていたか!!
くそう……どこでそんな術を……ガキんちょのくせになまいきだ!!
「黒芽さーん」
「んじゃ、私も呼ばれたから行くね? お・ば・さ・ん☆」
『させるかぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!』
殺人的なスライディングを私は黒芽にかまし、その動きを封じた。何? 大人げない?
そんなことを言っていたらこのアバズレには勝てない!! 第一私はまだ未成年なんだ! 大人じゃない!! だから良いんだ!!
「くっ……何を……!」
『バカめ。貴様の嘘が見破れていない私だと思ったのか?』
「!! ま、まさか……」
『そう、そのまさかなんだよ。黒芽』
貴様が嘘をついている事くらい、誰だって分かるわぁぁぁぁああ!!
「な、なんで……完璧な計画だったはずなのに……」
『おこちゃまの考えは浅はか、ということだ。だいたい』
そして私は決定的な一言を黒芽にたたきつける!!
『子供の中に歯医者好きな奴がいるわけ無いだろうがぁ――――――――――――!!』
「――――!!」
誤算、といわんばかりに崩れ落ちた。
ふっ……勝った。
だが何なのだろう。この辺な虚しさは……。
「秋原さーん、黒芽さーん。治療室に来てくださーい」
そして私たちは。
同時に地獄を見ることとなった。
そのときの音声(あまりにも取得状況が悪かったため、音声には多少のノイズが入っています)
「はい、じゃー口を開けてくださーい(きゅいぃ~ん)」
「い、いや……いやぁ……!!」
「大丈夫ですよ~? 痛くないですからね~?」
「い、痛いもん……ドリル痛いもん……!」
「はい、行きますよ~」
はがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!! あ、あがああああああああああああ!!
がりがりがりがりがりがりがりがりがり!!
「――――!! ――――!!!」
「はい、秋原さん、口を大きくあけてくださいね? かたくなに閉じてると麻酔とか検診ができませんから。は~い……あ~これはあれですね。もはや末期ですね。ちょっと待っててください。今からペンチを持ってきますので……看護師さん? 秋原さんを取り押さえててください……はい、持ってきましたよ~? だ~いじょぶだいじょぶですよ? 痛みは一瞬だけですので……ほら、暴れない、暴れない」
あぎゃぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!
きゅぽん。
「ハイ抜けましたよ~。看護師さん。抜いたとこに綿当てて~」
よい子のみんなは、ちゃんと歯を磨こうね? もちろん。おっきいお友達も、ちっちゃいお友達も……ね? こー言うことになっちゃうから。By、作者
さて……次からは長編です。
冬に入りましたので長編は二本やる予定です。
一本終わったらまた今回のような馬鹿話が。
最後の話が終わったら卒業式に順次移行したいと思います。