十一・五日目、酒と花見とサウンド・デストロイヤー
割り込み投稿機能を使いましての作品です。
書きたかったお花見がついに書けた……っ!
うれしぃ……うれしすぎる!!
「者ども!! 花見じゃ花見じゃはーなーみーじゃぁぁぁぁ!! 飲んで騒いで浮かれまくれ!!」
『うぉぉぉぉおおおおお!!』
そんなこんなで今花見をしています。
見るとなんか周りには全校生徒の影も……。
何でこうなったんだろう。
きっかけはちょうど三時間ほど前になるかもしれない……。
※――――
「そうだ、お花見をしなくちゃな」
会長は不意にそんなことを言った。
「いきなり何を……」
「いやほら、下級生と上級生との親睦会、と言うことで良いんじゃないかと思ってな。お花見」
「それは良いんですけど……」
わたしは作業していた机から目を離し、会長に向き直った。
「けどどうするんですか? うちの学校、桜なんて無いじゃないですか」
そう。
桜ヶ丘高校にはぶっちゃけ、桜の木がない。
それも、ただの一本も、だ。
理由によっては諸説あるが、なんでもどっかのお嬢様が記念に丸ごとごっそり持って帰ってしまったらしい。どこのお嬢様だ。
「う……そ、そうだった、な……」
会長はため息。しかしすぐに代案を思いついたのか、
「なら別の木で花見というのはどうだろうか?」
「別の木……ですか?」
「そうだ! なぜか知らんが、うちの学校には五葉松がたくさん植えてあるじゃないか!! あれで行こう! よし、今度の午後の授業をまるまるつぶして五葉松でお花見だ!!」
「むしろそれは花見とは言えないんじゃないでしょうか……会長」
やんわりと柊先輩が言っていてもこの人はカメラを手放していなかったよ。怖いね。
その数秒後。
「待ちきれんっ!!」
「我慢の出来ない子供かあんたは!!」
「早く花見がやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやーりーたーい!!! 今するぞ!! 部活動生をフル動員させれば花見会場の一つや二つ出来るだろう!?」
「部活動生が気の毒に思えてきました」
「こしちゃいられねぇ! 萩! 急いで部活動生をかき集めろ! 柊はその他諸々の食材とかの調達! 桜田はその他の雑務! 桧木たんは俺の膝の上で待機だ!!」
「最後が納得できません!!」
『サー・イエッサー!!』
「あれ!? 皆さん一致団結してらっしゃる!?」
※――――
ということで。
いつの間にやらこんな事になっていた。
しかし変わっていることがあるとすれば一つ。
今私たちの目の前には、本物の巨大な桜の木が立っていたことだ。
本来ならばみんなで五葉松を見ながらジュースやお菓子を食べてわいわいやるはずだったのだが、いつの間にやら柊先輩が、
「準備するなら本物が良いでしょう?」
と言うことでどこからかこんな桜の木を持ってきたのだという。
桜の木はものすっごくふとい。それこそ切り株でダブルベッドが二、三個ほど出来てしまうくらいに、だ。
そして部活動生や私たち、そしてなんだなんだと集まってきたご町内の人々も集まって今、大々的なお花見が開催されている。
「しかしまぁ、こんな桜、どこから出してきたんですか?」
「え? あぁ、これね」
柊先輩は桜の方に目を移した、と同時にわたしもそれに習って視線を移す。
見れば見るほどきれいな桜だる
ホントにこの世にあるのかともおもわんばかりのきれいさ。
誰もがこれに目を取られることは間違いはなさそうだ。
「これね、一年中桜の咲く島がある、っていうからそこから密輸入したのよ」
「へぇ~……って駄目じゃないですか! 密輸入!! 正規のルートを通りましょうよ!」
ていうか一年中桜の咲く島なんてあるのか!?
わたしはそこに疑問点を持ちながら手元にあったコップを一気にあおった。
「おうっ。飲んでるな?」
「あ、会長」
そんな声がしたとき、わたしの意識は少しずつフェードアウトしていった。え? なんで?
※――――
ぼんっ。
急に何かがはじけるような音がした。
音の方向を見てみたら、桜田がコップを持ったままぼ~っと……いやあれ、なんかぽ~って、感じじゃないか? なんか顔が赤いし。信じられんが頭から湯気が出てるし。
そのまますっくと立ち上がった桜田。
つかつかと桜の木の麓までおぼつかない足取りで歩いたと思ったら、マイクをどこからか取り出した。つかまてあれどこからとりだした。なんか胸と胸の間に手ぇ突っ込んでたように思えるんだが。
桜田は急に、
「いっっっっえぇぇぇぇぇぇぇぇい!! みんなぁぁぁぁ! たぁーのしぃくやってるくぁぁぁぁぁい?」
叫んだ。
むしろ訪ねた、と言った方が良いような気がするんだが、これむしろ叫んだと言った方が正しいと思う。うん。思うんじゃない。絶対だ。
「たぁのしんでるぅんだったぁら、それでよぉし!! けーきづけに、あたしがいっぱつ、うったうかぁぁ!」
歌う?
桜田が?
俺は疑問に思っていたんだが……。
「会長、ハルちゃんって、歌えますかね?」
「俺に聞くなよ。あいつの歌を聴くのは一応初めてなんだ」
まぁ、嘘だが。
さて。なにやら準備をしていて整ったのか、そして周りの奴らが一気にはやし立てた。つかまてあいつなんで今回そんなにテンションが高いんだ?
ふと思って桜田が立っていた場所に行って奴が飲んでいたコップの中身を調べてみると。
……微妙ながらに甘いにおい。そして少し鼻にくるつんとした感じ。
これ、酒じゃねぇか!? しかも少しなめてみたら妙に舌がひりひりするし!!
「会長、誰かがこの花見会場にお酒をもってきていたそうです」
「そうか……そいつを直ちに捜し出せ。そして桜田はあのまま放っておけ。いや……」
俺はなにかピーンと来て一つ頼んだ。
「せっかくだから、あの痴態も納めておくんだ。ビデオカメラ用意しておけ」
と言った瞬間、
大爆音が飛んできた。
むしろなんか声としては認識されてんだが、脳みそがそれを声として認識しない。
しかもご丁寧に5.1サラウンドでスピーカー使ってるからドひどい音が四方八方から立体音響で耳に叩きつけられる。
結論。桜田は間違いなく音痴だ。
たぶん歌ってる曲はチューリップなんだろうが、本人の調子外れがさらに磨きがかかる。
もうこれはそんじょそこらで語られるような音痴ではない。
デストロイヤー。
サウンド・デストロイヤーだ。
もう桜田の周囲に立っているものは何もない。
あるのは地に伏し、白目で泡を吹いている一般人や生徒、草木はすでに枯れている。
かろうじてまだ桜は立っていたが、桜の花びらの落ちるスピードが半端ではない。
散っているんじゃない。散らせているんだ。
桜田が、桜を散らせている。
そしてそのまま桜田が歌い終わったと思ったら、もう一回歌い始めた。
もうやめろ。
そして俺の意識はとぎれた。
※――――
結果、花見は強制的にお開きとなった。
そして桜田は。
「あー……あったま痛い……」
「故意にとは言え、度の強いお酒を一気に煽ったからです。少しは反省するですよ」
「う゛ー……」
翌日、保健室で寝込んでいた。二日酔いらしい。
そして酒を持ち込んでいたのはコガセンだった。理由は、
「あんな見事な桜の木を眺めながら「人妻」を飲むのも良いと思ったんだよ……」
と言うことらしい。
後日。
「ねぇみんな、カラオケなんかに――」
『行かない』
「え、なんでそんな一致団結……」
『行かない』
桜田を絶対に歌わせないと、生徒会の全員が、堅く心に誓った。
ちなみにコガセンが持ってる銘酒「人妻」には類似品でさらにおいしくなった「新妻」があるらしいです。