9話 楽しいダンスの時間 空と大地と世界は回る
コントロールが難しい。
でも、なんとか頑張る。
銅の剣をスライムに向ける。
スライムの核へむかって、銅の剣を導く。
剣先がスライムに触れるやいなやスライムが左右に分かれて、脇を通り抜けていく。
私とお姉さんの身体は風のよう。
風になって、そこら辺のスライムに触れて裂いていく。
私もお姉さんも、風との一体感に酔いしれていく。
軽やかで優雅で、けれども鋭い動き。
「フフ……いいわ。楽しい」
お姉さんが喜んでる。
私も嬉しい。
手は銅の剣を持っていないみたいに軽い。
スライムはもう、水のよう。
銅の剣が邪魔だ。
銅の剣を鞘にしまう。
お姉さんと私はスライムという水空間へ飛び込むだけ。
とても楽しい時間。
楽しいダンスの時間。
クルクル回る世界は夢のよう。
回る、回る、世界は回る。
私とお姉さんの身体を中心に。
草も大地も、空をも巻き込んで。
私はだあれ?
我をも忘れる不思議体験。
ダンスを踊りながら、ふと私は見覚えのある人物を見つける。
あれ? お父さん?
お父さんがスライムと戦っている。
「お姉さん。あれ、私のお父さんだよ」
「へえ。随分冴えないオ・ト・コ」
「なんか、お姉さんが言うといやらしい……」
私の中の知識がオトコという響きの中に含まれる何かを告げた。
「何で?」
「なんとなく……」
理由ははっきりわからない。
ただ、お姉さんが言うと何かいやらしい。
「オ・ト・コ」
「いやらしい……」
私自身も意味がわからない。
「お父さんて、いつもスライムとってくるの?」
お姉さんがお父さんについて聞いてくる。
これには変な感じは全くしない。
「うん、いつも10体くらいはとってくるよ」
お父さんは頑張っていると思う。
私達家族のために一生懸命やってる。
よく見ると、周りにもチラホラとスライムと戦っている人達がいる。
「見つかると、嫌だなあ」
タダでさえ、私は身体と角の小ささで異形の目を向けられている。
これ以上、他のことで目立ちたくはない。
「大丈夫。私達に隠蔽魔法をかけるわ」
いんぺいまほう?
ああ、姿を見えなくしてくれるのね。
私の中の知識が隠蔽という言葉の意味を教えてくれた。
「え? お姉さんってすごいなあ。そんなこともできるんだ。私もお姉さんみたいになれるかなあ」
「う~ん、肉体がある内は難しいんじゃない?」
肉体がないの? お姉さん。
「お姉さんって何? お化け?」
お化けだったら、嫌だなあ。
夜、トイレに行けなくなっちゃう。
「神様。実体のあるエネルギー体だから」
ああ、なんだ、神様か。
神様なんていないから、また、お姉さんの妄想だね。
「また、変なこと言ってる……」
私はお姉さんのよくわからない発言にちょっと、うんざりしてきている。





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