8話 強化魔法10べえだ~
「お姉さん、手を離して。スライム倒せない」
片手だと流石に銅の剣を振れない。
「嫌だ。離したくない。強化魔法を強めるから片手で持って。赤い所を狙えば平気よ」
意味がわからないけれど、お姉さんから光が流れ込んでくる。
「うわ、すごい。片手で持てる。足も軽いし……やばい」
ものすごい力が出る。
軽すぎてコントロールが難しい。
お姉さんと一緒にスライムに近づく。
銅の剣で突き刺す。
まるで、何も持っていないかのような感覚でスライムの中に剣が入っていく。
「いいわね。流石、私の子……生まれ変わったら可愛い女の子にしてあげる」
「また、変なこと言ってる……」
こういうのがなければ、普通に尊敬できるのにな。
スライムは次々出てきた。
おお、すごい。
こんなにいるんだね。
二人で次々とスライムを倒していく。
まるで、ダンスを踊っているみたい。
「ねえ、この野原のスライム全部倒しちゃおうよ。倒しても直ぐに生まれてくるから大丈夫」
野原は周りをぐるっと一周森で囲まれており、南にある街を始点として10㎞程の円形をしている。
その円形の北端に学校が建っている丘がある。
「え? お姉さん……そんな事していて遅刻しない?」
「大丈夫。まだ野原にでてから5分も経っていないよ」
守護隊もまだ出発していないかもしれない。
確かに、あまりに早すぎて、グルグル遠回りして向かっているのに学校に着いてしまう。
「よし、強化魔法10べえだ~」
「なにそれ?」
「10倍。私の好きな世界だと、アニメを真似てこう言うのが流行ってるの」
「へえ~。アニメって何?」
「アニマは霊魂、魂のこと。止まっている絵に魂を入れることで動きが出るから動画のアニメーションを意味することになったの。その略語がアニメ」
「なんか、難しいね。魔法?」
「助けてくれる知識に訊いてみたら? 下ネタからマニアックな話まである程度は知ってるわよ」
何で私のことをそんなに詳しいの?
私より詳しい。
「私の不思議な知識の事も知ってるの? ……そんなに詳しいなんて……」
私は生まれて、そんなに多くの人に会ってきたわけじゃない。
私のことをそこまで研究してるなんてすごい。
なんで、そんな研究してるんだろう。
そうか……、そうだね。
考えられる理由は一つ。
「私のこと好きなの?」
きっと、好きなんだと思う。
「当たり前じゃない。愛してるわ。愛で張り裂けそうよ。抱きしめてあげたい」
お姉さんが私を抱きしめる。
いい匂い……。
お母さんの匂い。
とても柔らかい感じがする。
「ああ~。癒された~。さあ、強化魔法で遊びましょ」
もう、終わり?
もっと、抱きしめられたかったのに。
抱きしめられた時、何故だか、とても懐かしい感じがした。
遥か昔、ずっと昔……記憶の片隅にあったかもしれないなあ、という曖昧な懐かしさ。
「はい。10倍の強化魔法」
すごい簡単に、10倍の強化魔法を使った。
強い光が私に流れ込んでくる。
「……これ……やばすぎる……」
二人で手をつなぎながら、スライムに向かっていく。