53話 お父さんは強くなりたい
パジャマに着替えて、すっきりした気分でリビングダイニングへ向かう。
お父さんは新聞を読んでいる。
何を読んでるのかな。
新聞の後ろの大見出しは、人族によるゴブリン幼女誘拐事件のことを扱っているようだ。
たまに、人族の生活圏に近いところではゴブリンの幼女や若い女性が誘拐されるらしい……。
目的はいやらしいことだと、大人が言っている。
本当かどうかは知らないけれど、カトリーさんもそう言ってたし、多分本当だと思う。
裏面の文字だから、お父さんは他の記事を読んでるんだろうけどね。
お父さんは、きっと食後休憩の時間なんだろう。
お母さんは台所で何か作ってくれているみたい。
私はそんなに手の込んだものじゃなくてもいいよ。
香ばしい匂いが鼻腔に流れ込んでくる。
今から作ってくれるなんて、悪いなあ……。
嬉しいけど。
ここにあるのは、お父さんと二人きりの空間。
私もお父さんの向かい側の椅子に座る。
別にお父さんのことは嫌いじゃないから、気まずくはない。
たまの一言がムカつくけどね。
私の気配を感じると、お父さんは目線を上にあげた。
「おお、着替えてきたのか。うん、似合ってる、似合ってる」
お父さんは私の可愛さを褒めてくれているのだと思う。
「へへ……ありがと、お父さん」
ちょっと、顔がにやけてしまう。
お父さんはため息をつきながら、ちょっと残念そうな表情になった。
「学校のカリキュラムが急に変わってしまったんだってなあ……」
「うん……王様は人族に早く勝ちたいのかな」
カリキュラムが変わってしまってもお父さんには、何も影響ないと思うけど?
私に会えなくなるのが、悲しいのかもしれない。
「新しいパジャマ……ありがと。お父さんが買ってくれたんでしょ?」
「まあ、最近は俺も狩りが少し上達してな。森の中で戦えるようになったからな」
スライムしか倒せないと思っていたのに、強くなったらしい。
狩場が変わって、収入が増えたのかな。
「お父さんも頑張っているんだね。私も頑張る」
「お前は、無理しないでいいよ。どうせ劣等生なんだし……無事に卒業してくれればいい」
なんだかこの前と言ってることが違う……。
お父さんは私が馬鹿にされるのは嫌だとか言って、泣いてた気がする。
馬鹿にされないように頑張れ、という意味ではなかったかもしれない。
遺伝子が悪くて申し訳ないということで、泣いてたんだったっけ?
泣いていたことばかりが印象的すぎて、何言ってたか忘れちゃった。
でも、何かあったのかもしれない。
いくら私が可愛いからといっても、パジャマを買っておいてくれたし……。
たまにしか帰ってこれなそうだから、少しの変化でも気付いてあげないと。
ん~……うん、何も見た目は変わったようには見えないな。
聞いてしまおう。
「お父さん。どうしたの? 何かあった?」
「俺な。加護持ちになったんだ。だから、レベルが上がるし、これからは強くなれる」
意味がわからないことを言っている。
弱いことに悩みすぎて、おかしくなったかしら。
「もう、俺も馬鹿にされない」
お父さんって馬鹿にされてたの?
「お父さんって、強くなりたかったんだね……」
「……」
お父さんは自分が弱かったことを知られたくなかったらしい。
弱いことは知ってたけど、強くなりたいとは知らなかった。
でも、何か話が変だな……大丈夫?
急に強くなれるなんて、そんなうまい話はないと思う。
だって、お父さんがスライムと戦ってたのついこの前だよ。
私? 私は可愛いから強化魔法で強くなっても不思議じゃないの。
加護かあ。
加護って何?





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