5話 ゴブリンと強化魔法
「そういえば、サブロウさんも何で教えてくれなかったのかな……」
ちょっと、悲しくなった。
「サブロウさんはそこまで気が回る人じゃないから、多分、お昼頃になると気付くんじゃないかな」
ああ、確かにそういう人だ。
ついうっかりが多くて、しょっちゅう怒られてる。
でも、お昼頃に気付くのは遅すぎない?
あの人なら、そういうこともあるかなという感じはするけど……。
「お姉さんは何で、私の周りことを詳しいの? お姉さんは誰?」
「そうね、学校に行って帰ってくるまでに考えておくわね」
なんだかよくわからない答えが返ってきた。
この人は自分を偽装する気らしい。
やっぱり、信用できない人だ。
でも……悪い人ではないのかなって思う。
「あの、学校まで一緒に行ってください。お願いします」
スライムは大人たちが倒しているモンスターだ。
今の自分には倒せそうにない。
それに、こんなところで死ぬわけには行かない。
私は生きて、お母さんとお父さんと弟と幸せに暮らしたい。
「じゃあ、一緒に行こ~」
嬉しそう。
「ねえ、その前に武器を渡しておくわね」
「武器?」
「はい。銅の剣」
「う……重い」
重すぎてとてもじゃないけど、持てない。
「あ、強化魔法を掛けるわね」
すっと、身体が軽くなる。
「なんで、銅の剣なんですか?」
「昔から銅の剣だけは、誰にでも渡していいことになってるのよ」
なんの決まりなんだろう。
銅の剣もどこから出したのかな。
それに、こんな便利な魔法を使うなんて……とんでも無さ過ぎる。
とにかく、規格外なゴブリンだ。
「それで、スライムを自分で倒してね。私は手を出せない決まりになってるから」
「え? 私が倒すの? 怖い……」
「大丈夫よ。私の強化魔法があるし、将来強くなれたら剣術も覚えられるのよ。将来ないけど……」
「意味わかんない」
本当に意味がわからない。
この人の頭はおかしいのかもしれない。
やっぱ、一緒に行くのやめようかな。
でも、この人の言ってること本当だと思うんだ。
「あと、4年経ったら殺されちゃうけど、私が人間に転生してあげる。ゴブリンに復讐できるようにね」
「もっと、意味がわからない」
どうしよう、一回戻ってみんなと行こう。
「あの、銅の剣返すんで……みんなと一緒に行きます」
「ダメよ」
「え? どうしてですか?」
「多分、守護隊の人は貴女を連れて行ってくれないわ」
「そんなのわからないじゃないですか」
私は来た道を戻り始めた。
こんな人とはやってられない。
ズンズン、ズンズンと。
身体が軽い。
銅の剣持ってるのに。
銅の剣には鞘がついていて、腰のところに下げてみた。
これで邪魔にならない。
あ、返し忘れちゃったな。
後で返せばいいか。
この近くに住んでいるならまた会える。
あっという間に、家の前まで戻ってきた。
嘘みたい……。
変な人だったけど、すごい人だったなあ。