41話 音読しよう ゴンおおかみ
教室に入ると8時50分。
ちょうどいい時間だった。
他の生徒たちは席についている。
なんか、このクラス優秀な人たちばかりな気がするんだけど……。
このクラスに1人くらい、ちょっと劣等生みたいな子がいてもいいのになあ。
あ……それ、私か。
1時間目の国語の授業は「ゴンおおかみ」という文章について。
前回の授業の続き。
ボクというゴブリンが村のモヘイというおじいさんから聞いた話だ。
とあるゴブリンの視点で、ゴンという狼と一緒に過ごしたことを綴った文章らしい。
私は国語の授業も好きだけど、何気に音読も好き。
音読が上手い人の声を聴くのも好き。
近所の家で、学校の生徒が音読をしているのも興味深く聴いてしまう。
音読をしていると、気持ちが落ち着く感じがする。
朗読と言ったほうがいいのかも知れないけれど、私は音読と呼んでおく。
「それは雲一つなく、風が強い夜。星降る夜に木々や草花が大きく揺れている。たったひとりの人間と裏切り者のゴブリンに私達は負けたのだ」
このお話は昔のことを記している文章かな。
「家族や仲間の命を奪われ、私は途方に暮れて大きな木の下で休んでいた。私には何もなくなってしまった。村もなくなってしまった。ついでに、私には何もする気力もなかった」
絶望しているのね。
「気持ちをいくらか癒してくれるのは、狂おしいほどの星の輝きのみ。私の気力を削いでいくのは、低い気温と強くあたっていく風。寒くて、心も身体も凍えてしまいそうなそんな時、私の身体に寄り添う温かなものがあった」
今は他の生徒が音読している。
私も指されるかな?
音読が好きな私としては、指されて見たい気がする。
ゴブリンという名前がついていない科目は得意なんだよね。
「次は、5番の人読んでください」
あ、隣の人だ。
さっきの人が4番の人で……今が5番、私が6番だから……。
次は私が指される?
ドキドキッ。
「私の身体に触れたのはフワフワとした毛をした生き物だった。耳が三角で、口が前に出ている。それはオオカミと呼ばれる肉食のモンスターのはずだった」
ゴンの登場。
「普通であれば、私はあっという間にエサになっていてもおかしくなかった。しかし、そのオオカミは私に身を寄せ私に体温を与えてくれている。どうやら、まだ子供らしい」
ゴンは寂しかったのね。
「子供でもこオオカミは私の身体より大きい。私の知っている限りこの辺りでこれほど大きなオオカミは知らない。きっと、このオオカミも人間に家族を殺されて逃げてきたに違いない」
どこから来たかわからない謎のオオカミがゴン。
「私はこのオオカミに体温と、いくらかの前向きな心を貰った」
モフモフに癒されたに違いない。
「はい、それでは、次は6番の人」
……え? あ、私だ。
「あ、はい……。えっと……」
前の人の音読を聴くのに夢中になってどこ読んでるか、分かんなくなってた。
「18ページの3行目からです」
先生が私を急かしてる気がした。
「わ、私は私にとって心をいくらか救ってくれた、神の権化のようなこのオオカミの子をゴンと呼ぶことにした」
ドモっちゃった。
危ない危ない、教科書の文を目で追っていないとこういうことになる。
「神の権化ではないと思っているが、感謝の念も織り込んでこの名前とした。それから、私達はお互いに寄り添って生きていくことにした。私はだんだんと、何をするべきか考えることができるようになっていった」
神のゴンゲだから、ゴン。
「まず、私はゴンと一緒に、人間と裏切り者のゴブリンに破壊された村に戻り、故人を弔った。そして、私は新しい村を作ろうとゴンと二人で、一緒に村をつくってくれるゴブリンを探す旅に出ることにした」
村を作るための旅。
「ゴンはとても優れたオオカミで氷の息や炎の息で障害となるモンスターを一蹴し、成長するにつれて空を駆けられるようにもなった」
ファンタジー要素満載のゴン。
神様だったのかしら。
この後、人間にすべてを奪われたゴブリンの心情について触れていき、国語の授業は終わった。





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