32話 結構、目立たないようにしているんだけどなあ
「カトリーさん。フォレストマンモスって美味しいんだね。初めて食べた」
フォレストマンモスのハンバーグは美味しかった。
他は普通だったけど。
野菜はちょっと苦手、ニンジンの葉を食べようとしないで欲しい。
「うん、美味しい。美味しいけど、あんなよくわかんないモンスター誰が倒すんだろうね」
確かに……、近づくと危険。
街の人だって、なかなか倒せるものじゃないと思うモンスターがなんで、食堂の料理に?
「う~~ん、なんでだろう」
「どっかから寄付があったりとかしたんじゃないの? 学校だし、誰かから野菜の寄付がとか貼ってあったりして」
厨房の方に目をやる。
カトリーさんのことが気になって、よく見てなかったけど何か貼ってあったかもしれない。
「従業員募集中……、お残しはゆるしまへんで……、ハンバーグはお一人3枚まで……、野菜をハジいて取る人は学食の使用を禁じます……」
ないなあ。
「なさそうね。まあ、細かいことを気にしてもしょうがない。食べよう食べよう」
カトリーさんが食べるのを促してきた。
「気になるけど、まあ、別にいっか」
気にしないことにした。
「カトリーさん、人参の葉っぱあげる」
不味いんだもん。
「だめよ、好き嫌いは。たくさん食べなくちゃ。あ……キノキノ草あげる」
「カトリーさん、神様なんだから好き嫌いしちゃダメだよ、胸が大きくならないよ」
「あなたに言われたくないなあ、まだ3歳なのに」
「私は生まれ変わったら、カトリーさんを抜くから平気」
「大丈夫大丈夫。私にそっくりになるから、同じくらいにしかなりませんから……」
……え? 私は視線を感じた。
「カトリーさん。ヤバイ……私アブナイ人になってる」
周りからは独り言をはブツブツ言っている人に見えているに違いない。
数少ない利用者が、私のことをチラチラと見はじめてる。
「カトリーさん、私に隠蔽魔法かけたらいいんじゃない? 食べ終わるくらいまで」
「最初から隠蔽魔法でよかったんじゃないの?」
「……そうかも」
カトリーさんが何をしているか見えないが、たぶん隠蔽魔法がかかった。
周りの人の視線が私から逸れていく。
逸れていくが、逸れていく途中で空中に浮いているフォークに気づくようだ。
「おい、フォークが浮いてるぞ」
一人でブツブツ言って注目を浴びていた私が消えたせいで、その先にあるものに注目がいってしまった。
やばい、大騒ぎになる。
「カトリーさん、自分にも隠蔽かけて~」
「はいはい」
きっと、隠蔽魔法が効いたと思う。
効いたのだろうけど、まだこっちを見ている人が居る。
「カトリーさん、なんかこっち見ている人が居るよ」
「あれだね。記憶に残ってるんじゃない?」
ああ、そうか。
心霊現象を見たと思っているかも。
でも、もう私とは関係ない。
その人はカトリーさんも私も存在を認識できないだろうから、大丈夫かな。
「変な女が居たくらいは忘れたかもしれないけど、フォークが浮いて食べ物が消えていくのは衝撃だったかもね」
「私だったら、夢に見るかも……悪夢……」
自分だったら、学食にもう来られないかも。
「可哀想だから、記憶から私達のことを消しておきましょ。神様お得意の記憶操作よ」
「独り言をいう変な奴と浮いたフォークのこと? ハンバーグのことは消したら可哀想」
美味しいものをせっかく食べたのに……。
「なんとなく、それっぽく消しておくから大丈夫」
「変なとこ消したら、ダメだよ。人生変わっちゃったら、犯罪行為だよ」
何をもって犯罪かわからないけど、悪いことだという意味で言った。
「大丈夫。私、失敗しないので」
益々、不安が高まるのは私だけ?
「えい」
周りになんかやったっぽい。
「おお、なんだ? 何か頭の中がスッとするぞ。フォレストマンモスのハンバーグ……なんて美味しいんだ、……泣けてくる」
一番そばにいた二人組の男の人が急に、こんなことを言った。
「あ、俺もなんかハンバーグの旨さが上がった気がする」
相手の人も同調する。
一番私達から離れたところにいた女の人も驚いたような顔をしているし、二人組のそばで食べてた太った人もハッとしたような表情をした。
「なにこれ?」
「フォレストハンバーグの美味しさを高めて、他の記憶を薄めたの。ハンバーグを食べた前後30分くらいの記憶がどうでもよくなるわ」
「30分ならいっか」
「更に30分以内にある大事なことは薄まらないから大丈夫。私たちに関わることだけが薄まるから」
なかなか、よくできた魔法みたいだ。
「記憶操作ってすごいね。これだけ堂々と目立つのに……。神様を見たって、みんな言わないのが分かる~」
「結構、目立たないようにしているんだけどなあ……心外」





小説家になろう 勝手にランキング