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2話 ゴブリン 義務教育で学校に行かねば

 私が3歳になった頃、弟が生まれた。


 この家は石造りの一軒家なので、結構広い。


 お父さんが50年ローンで組んだこともあってなかなかの出来だ。


 返済額も安く、長い期間で組んであるので、お父さんのしょぼい狩猟技術でも返済が余裕だ。


 王が変わって300年。


 ゴブリンの平均寿命は100年にまで伸び、死亡率も低いため銀行もお金を貸してくれる。


 弟が増えても広さは全然余裕だ。 


 弟は私と違って、生まれてすぐに歩くことができた。


 角も私より大きい。


 両親は出来のいい弟の誕生を心から喜んでいるようだ。


 出来のいい、というよりは私がゴブリンの劣化版なのか。


「大丈夫。お姉さんになったのよ。角の大きさや身体の大きさは、気にしなくていいのよ」


 お母さんは、こう言うけれど角が小さかったり身体が小さいのは情けないと思う。


「角がどんなに小さくても、身体が小さくてもアナタはアナタよ」


 そのお母さんの娘のアナタが、情けないと思っているのだから、情けないのが私でしょ?


 全然、慰められていないのがお母さんは分かっていない。


「大丈夫。女はいい男を探せればいいんだから、小さいほうがイイという人もいるよ」


 お父さんはこう言うけれど、私は強くて、可愛くて男に負けないゴブリンになりたいと思った。


 隣の家のリリカお姉さんは、可愛いけれど強くはないようだ。


 たまに、遊びに行くといろいろ教えてくれる。


 悪い人ではないと思う。


 いつも、日によって着ているものが違う。


 そして、一緒にいる男の人も違う。


 男の人にモテる人みたいだ。


「女の子はオシャレをすることが可愛いことよ。あと、胸の大きさが大事」


 お姉さんは私にこう言っていた。


 可愛い服は私も着たい。


 私が今着ている服も、お母さんが女の子っぽく色々手を加えてくれている。


 けれど、お姉さんみたいなヒラヒラした服ではなくて、動きやすい冒険者用の服装だ。


 おっぱいは私も大きくなるのかな。 


 今はペッタンコでも、将来は……。


 胸が大きくなったら、世界征服できるような気がする。


 どういう顔の人がゴブリンにモテるのかわからないけど、私はお姉さんに似たところがない。


 お姉さんの顔は角が大きくて、目が切れ長で鼻が大きくて口が小さい。


 よくわからないけれど、お姉さんと違って、私は可愛くないみたいだ。


 私が可愛かったら、お姉さんにあんなに男の人が寄ってくるわけはないと思う。


 お姉さんは、私の目からは美人だとは思えなかったけれど、あれがきっとゴブリン受けの良い容姿なのだろう。


 私は絶望的な容姿なのかな……。


 ある日、お姉さんの家から帰ってくると、お母さんがカバンに本を詰めていた。


「お母さん? 何してるの?」


「もう3歳になったし、アナタは学校に行かないといけないのよ。国が学校に行かせてくれるの」


「学校?」


「お母さんも、お父さんも学校で勉強したのよ。学校で仕事を手につけて、働くの」


「お母さんも、お父さんも行ったの? どんなところ?」


「この国の法律やゴブリンに必要な知識を教えてくれるの。人間に負けないために」


「人間?」


「王様がね、今は国の力が足りないから、人間を倒すことができないけど整ったら、戦うんだって」


「へえ~」


 ゴブリンは人間を憎んでいるようだ。


 そして、この国が栄えれば栄えるほど、戦争は早く訪れる。


 頭が足りない私はよくわからなかったが、もうひとつの知識は私の理解を助けてくれていた。


 私にはナニカよくわからない不思議な感覚があって、頭を貸してくれている。


 普段は、頭が悪そうな私も……この別のナニカが助けてくれることで、なんとか大人の話もわかる。


 でも、学校に行くのは気が進まないなあ。


 他の子と比べられるのが嫌だ。


「どうしても、行かないとダメ?」


 申し訳なさそうにお母さんに聞いてみる。


「これは、法律で決まってるから。行かないとお父さんとお母さんが捕まっちゃうのよ」


 え? 捕まっちゃうの?


「そっか~。じゃあ、行くしかないのね……嫌だな」


 私は他よりも弱っちいし、見た目も悪い。


 だけど、お母さんとお父さんと弟と一緒に暮らしていることは、恵まれていることだと思った。


 そして、私の中の唯一の幸せだと思う。


 そんな家族を悲しませたくはなかった。


 まあ、行く以外に選択肢はないのよね。


 そんな会話があって、次の週のことだと思う。


 私はゴブリンの法律である義務教育で、家の直ぐ傍にある教育学校へ通うことになった。


 制服があるために、私は周りの生徒よりも、まず大きさで目立ってしまう。


 ふた回り以上小さいので、ゴブリンの大きさの範囲からはみ出しているようだ。


 そして角も小さいために、帽子の角穴からは何も出ていない。


 私は人間の子供と見分けが付かない。


 私は私を異質な目で見る大人が嫌だった。


 人間を見たことのあるゴブリンは、私の容姿に驚いていた。


 学校に行くと思うだけで憂鬱で、憂鬱で……お腹が痛くなってしまう。


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― 新着の感想 ―
[一言] 住宅が50年ローン?? ゴブリンの寿命が100年なら何とか返済できますね。 でも、ゴブリンの寿命はてっきり短いもんだと思ったので 50年ローンと聞き、あれっ?と思いました。 成長が早い…
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