19話 あんまり高望みしないところ、私は好きよ
話をしているうちに、周りは薄暗くなってしまった。
カトリーさんが転移を使ってくれないから、歩いて帰る。
「手をつないで帰るなんて、私は嬉しいな~」
カトリーさんはほんとに嬉しそう。
まだ何も魔法を使って貰ってないから、私は怖くて仕方がない。
一応、銅の剣は持っているけど、力がないから鞘から抜けない。
鞘には重さをどうにかしちゃう力があるそうで、鞘に収めておけば私でも持っていられる。
「カトリーさん。強化魔法掛けてくれないの?」
「あ、ごめん。忘れてた」
カトリーさんの忘れん坊。
自分は強いからいいけど、私なんて弱いんだから……。
「あい、どうぞ~」
朝の10倍の強化魔法ではないけど、カトリーさんから光が流れてくる。
うん、これこれ。
これなら、そこそこ行ける。
スライムくらいなら、全然平気。
学校からの坂道を降りてくると、来た時に通った草原に出た。
だけど、違うのは草原にナイトバットがたくさん飛んでいる。
「カトリーさん。そういえば、卒業までにナイトバットをウッドアローで10匹倒せるようにって言われたよ。それが、卒業条件なんだって」
「へ~、めんどくさいんだね。弓矢を使うの?」
「多分、人間と戦う時のことを考えてると思う」
私が考えたことをカトリーさんに伝える。
「なるほど。人間のほうが近接戦は強いからね。被害を少なくして有利に戦おうとしてるんだね」
「人間のほうが近接は強いの? なんで?」
「剣術が発達しているのもあるし、人間のほうが体格に恵まれてるから。基本、ゴブリンは小人族だから」
ゴブリンにも大きいのはいるけれど、平均で言うと人間の方が大きいということかな。
剣術は単純に研究とか鍛錬とか、そういう問題だと思う。
ゴブリン王国はまだ、歴史が浅いから。
「矢は先がついてない物なら武器とみなされないんだよね。あと、弓も。だから、渡せると思う」
「先に何もついてないと、倒せないんじゃないの?」
棒を打つだけで、どうやって倒そうというのか。
「強化魔法を使った状態で撃てば、全然問題ない」
「私にできるかなあ」
「まあ、私にも出来たから素質はあると思うよ。私の一部が貴女に入ってるんだから」
カトリーさんは羽のついた棒と弓を私に渡した。
「じゃあ、あの木を狙ってみる?」
「今からやるの?」
帰りが遅くなりそう。
「まずは弓矢の基本姿勢は視点を的に向けて、左足を親指が的に向かうように半歩開いて……」
「えっと、こう?」
「右足も半歩開く。足の開く角度は60度ね」
なんか、いろいろ細かい……。
疲れてるのになあ。
「重心は体の中心に持ってきて、背筋を伸ばすのよ」
ナイトバットがたまに寄ってくるけれど、カトリーさんは指先から細い光を出して撃ち落としている。
カトリーさんが全部倒しちゃえばいいのに。
「次は弓を引くの。矢の筈を弦にはめて、両手は地面に水平にして、弓矢を構える」
なるほどね。両手が水平なら、まっすぐ飛ぶような気がする。
集中して……。
「撃ってみて」
木へ向けて、矢を放つ。
強化魔法で強化された私の身体は、矢をわずかな力で撃つことができる。
カツッ。
木に私の放った矢は命中したようだ。
「うん、やっぱ筋がいいわね。でも、やっぱ先に矢尻がないとダメみたい」
殺傷能力がない矢は、身体を強化してもさほど威力がないようだ。
「でも、ナイトバットは動いてるからなあ」
「じゃあ、狙ってみれば? 」
「やってみるかな……」
もう一度構える。
暗闇なので、よく見えない。
音に向かって撃てばいいのかな。
目をつぶって、音を聞く。
バサバサッ。バサバサッ。
羽の音。
うん、あそこらへんかな。
動きを予測して、撃ってみた。
ボスッ。
あ、当たったみたい。
「う~ん、上手すぎるわ~。さすが、私の子~」
私は弓矢の素質があるみたい。
意外……。
強化魔法がなかったら、全く弦が引けないけどね。
そういうのって、試験の時にはどうしたらいい?
「カトリーさん。私は強化魔法がなければ弦も引けないし、銅の剣も持てないんだけど……」
「大丈夫。5歳くらいになると腕力もつくし、弓矢も打てるようになるよ。他のゴブリンより弱いけどね。私もそうだったから」
「私も成長するんだ。ちょっと安心~。ずっと小さいかと思っちゃった」
「そんなわけ無いでしょ。私を見てよ。普通のゴブリンより、大きいくらいよ」
「おっぱいも成長するかなあ」
カトリーさんの胸を見る。
「……」
「カトリーさんくらいあれば、私も満足かなあ~」
「あんまり高望みしないところ、私は好きよ」
まあ、そこまで大きくなくてもいいかなって思う。
動きにくいだろうし、生活に不自由があるようだと困る。
「7歳を越えられれば、もっと成長できるんだけどね~」
「……」
7歳にはこの世にいないのか。





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