18話 ジョウキュウシンって、愛人の仕事だと思ってたから
「カトリーさん、そろそろ歩かない?」
あれから、ずっと立ち話。
そろそろ歩き始めたほうがよさそう。
「でも、歩きながらは話しにくいし……久しぶりに会った気もするし。着いたら、お別れでしょ?」
強化魔法を使えば一瞬だし、転移を使えばなおさら早い……。
確かに、そうなんだけど。
目のつきにくい場所とは言え、学校の校門のすぐそばで立ち話もなあ。
久しぶりって、朝会ったばかりだし……。
「ここの王国って、私が神様になる前はなかったんだけど、大したものだったわ」
そっか、この国が出来た頃はカトリーさんは修業中だったりして知らなかったんだものね。
「あの、カトリーさんの他の子って、殺されちゃったんでしょ? どうやって知ったの?」
修業中とか試用期間中で抜け出せないと思うんだけど。
「えっと、知ったのはつい最近なの」
最近がどの程度最近だか、神様感覚だからよくわからないけど。
「私はゴブリンという種族に、私と同じ稀少種が生まれやすくなるような魔法を掛けたでしょ?」
「そうだっけ?」
あまり真面目に聞いてなかったから、ところどころ抜けてる。
「掛けたのよ」
掛けたらしい。
「それでタナカミノルさんから大量の神様ポイントを貰って、上級神の試用期間の試験を受けたの」
タナカミノルさんは気前がいいらしい……。
「ジョウキュウシンって、上の級の神様の上級神だったのね。今わかった」
ジョウキュウシンって、愛人の仕事だと思ってたから。
「上級神になって、地上を見てみたら娘達が誰もいないんだもん……失敗かなって思っちゃった」
「全部終わったあとに、知ったのね」
今までは生まれていたのに、どこを探してもいなかったら、そう思うかな。
「調べてみたら、ゴブリーヌっていう変な名前ついてるし、7歳で殺す法律が出来てるし……」
「想定外だったんだね」
でも、カトリーさんがしたことを考えたら……そういうことも十分あり得ると思うけどなあ。
「本当なら他の種族を味方にしてあって、状況が整ったら、攻撃を加えるつもりだったのに」
「カトリーさん。ゴブリーヌって他の種族からは好かれやすい?」
なんだか、そういう前提が見え隠れしている言い方だ。
他の種族にゴブリンを襲わせるように仕向けるという意図が見られた。
「うん。他の種族が可哀想に思って力になってくれるっていう能力があるのよ」
そんな能力あるの? 信じられない。
「信じられないでしょ? けれど、大体がひどい目に遭ってるし、ゴブリンに恨みが発生しているから自動的に覚醒する能力なのよ」
分かるような分からないような……。
それは思い込みのような気がする。
「それじゃあ、私……7歳で死んじゃうって本当?」
「私がいなかったらね。処刑される前に人間に転生してあげようと思ってる」
「私、人間になるの?」
「大丈夫。私が貴女の次の人生をサポートして、ゴブリンを殲滅できるような人に育てるから」
カトリーさんって、悪い人じゃないんだけど……全てがゴブリンへの復讐で終わってるのね。
「う~ん、私は今のままでいいから、最期まで生きたいなあ」
さりげなく、希望を伝える。
「それは難しいと思う……ゴブリーヌ自体を見たことがある人があまりいないから、今はいいけど」
「今はいいけど?」
「6歳になって、ゴブリーヌが発生していると、ゴブリーヌ発生警報の魔法が発動して、あなたの場所を指し示すわ」
嫌な魔法だ。
「それは嫌。目立つし……恥ずかしいし。カトリーさん壊してきてよ」
カトリーさんが私のために壊してくれれば、全部解決。
「壊しても構造が簡単だから、何個でも作れるみたいよ」
何個でも?
「設置場所の下の説明書きに作り方が書いてあるくらいだもの。宮廷魔術師でもつくれるみたい」
「そんな滅多に生まれないゴブリンに何で、そんなに警戒するのよう」
変なとこに技術を割くのはやめてほしい。
「私と私の恋人が結構追い込んだから、慣習として代々受け継がれてるみたい」
カトリーさんと恋人のせいじゃないか。
「発動して、処刑した過去もあったみたいだし……」
なんか、簡単に言ってるけど非道い。
「じゃ……じゃあ、私の次も私みたいな子……男か女かわからないけど生まれたら……」
私の次だって、生まれてくるでしょ?
カトリーさんはどうするの?
ずっと、転生させ続けるの?
「カトリーさんは人間に生まれ変わらせるの? だって、ずっと……意味ないじゃない」
生まれても、生まれてもずっと処刑されちゃうなんて、可哀想だし意味がない。
それに、転生だって……。
ゴブリンで生きたいって思ってるかもよ?
私も……ゴブリンで生きられないなんて可哀想。
「だから、もう止めたの。貴女で最後よ。あなたの前の子は間に合わなかったけど……」
「私で最後?」
「上級神になって戻ってきてからだったから、止めるのが遅くなっちゃった……ごめんね。生まれてこさせちゃって」
生まれてこさせてごめん?
「……」
「本当はゴブリンを攻める勢力がたくさん出来ていて、私がサポートしてゴブリンを殲滅する計画だったのになあ」
殲滅させるのがそんなに大事なのかな……。
「私は生まれてきたこと、後悔してないから」
「……」
カトリーさんは何も言わない。
カトリーさんは私の顔をジッと見つめる。
「大丈夫。生きられる人生の中で一生懸命やってみるわ。だから、カトリーさん」
「……」
「これからも、お願いします」
私にはカトリーさんがずっと必要だ。
私は普通のゴブリンじゃない……。
頭を下げて、カトリーさんにこれからをお願いした。
「当たり前じゃない。転生するまでの時間、人生を楽しませてあげる」
「え? 勉強も助けてくれるの?」
「勉強は……自分でやって。私、全然だめだから」
「……」
勉強を助けて貰いたいのに。
「……じゃあ、帰りましょう。街まで歩こ」
「転移じゃないの?」
「母と娘の時間は大事なのよ、歩こ」
カトリーさんが私の手に指を絡ませる。
「さっき、男か女かわからないって言ったけど、ゴブリーヌは女しか生まれないの……もう、使わない情報だけど」
遺伝子の組み合わせの問題かな……。
なんか、そういうのもあるんだろうか。
「そっか、先に生まれた人達はみんな、お姉さんなのね」





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