17話 帰れないなら、一緒に寝てあげるから大丈夫
「うん、うん。呼んで呼んで。カトリーお母さんって」
「え? カトリー……お母さん」
カトリーさんって呼ぼうと思って言ったんだけど?
「もっともっと」
ジェスチャーで、手を前に出して手のひらを内側に何度も激しく引き寄せる。
カモン、カモンのジェスチャーだ。
「カトリー……お母さん……。カトリーお母さん」
とりあえず、応えてあげよう。
それくらいのことなら。
「……ありがとう。もう、カトリーさんでいいよ。気が済んだから」
「そう?」
「私だって、無理強いしたら良くないかなって思うわよ、身は切ったけど産んでないし」
そういう自覚はあるの?
あったら、そもそも言わないと思うけど。
「あの~、カトリーさん。私……頭が悪いみたいで、補習やテストで家に帰れないかも。テストとか合格する気がしない」
「そうだろうね。私も頭よくなかったから。それに、その知識はゴブリンへの対応少ないから」
「わかってるんだね……カトリーさん。やっぱお母さん?」
妄想だと思ってたけど、私の不信感は色々な話を聞いている内に薄まってしまったようだ。
空を飛んだり、転移したり、身体を強化したり……神だと言うんだからそうなのだろう。
私にとって、神でも魔法使いでも同じことだ。
「大丈夫よ、私が一緒に寝てあげるから。家に帰れないなら好都合よ」
「え?」
一緒に寝てくれるの?
「大丈夫、大丈夫。隠蔽魔法もあるし、私、上級神になったから。まっかせなさーい」
「私とずっと、いる気なの? カトリーさん」
「え? だめ?」
ダメじゃないけど、気苦労が……。
隠蔽魔法って24時間ずっと大丈夫なのかな。
「隠蔽魔法って、切らさないでいられるの?」
「う~ん。めんどくさいけど、出来るといえばできるよ。だけど、疲れるから毎日は無理」
無理? 無理じゃ困る~。
「じゃ……じゃあ、どうやって誤魔化すの? カトリーさんっていう不審者を」
本音が出てしまった。
「不審者? ……まあ、不審者だよね。とりあえず、隠蔽と記憶操作を織り交ぜて対応するよ」
「そう? それで、バレない?」
「バレない、バレない。だって、記憶操作しちゃうから。大丈夫」
記憶操作って、何をどうするんだろう……。
「カトリーさん。そういえば、ゴブリン王国の観光ってどうだった?」
「う~ん。やばいわね。ゴブリンの殲滅どころか、人間が殲滅されちゃうかも」
王様は人間と戦うために、ゴブリンを強くしているんだもの。
「カトリーさんって、人間を勝たせたいのね」
「だって人間は私のことを結果的には助けてくれたから。ゴブリンより質が悪いのもいるけど」
「私もカトリーさんもゴブリンなのに?」
ゴブリンなんだから、ゴブリンの味方をしてくれればいいのになあ。
「姿は人間だもの。角があるだけ」
「え? 私って人間にそっくり?」
カトリーさんがそっくりなら、それに似ている私は……。
「ええ」
「ほんとに?」
「私にそっくり」
ゴブリンなのに、人間に似ているって嫌だなあ。
「そうかあ。私も人間にさらわれちゃうかも」
ゴブリンの幼女が人間に拐われるという話がたまにある。
人間に似ていれば、更に需要があるとか……近所のおばさんが言ってた。
「う~ん、そうねえ。可能性はゼロじゃないかも。私も拐われて、イヤらしいことをされそうになったから」
「い……いやらしいこと?」
ちょっと、想像するのも恥ずかしいようなことかしら……。
「その時に、転移者の彼が助けてくれたの。かっこよかった~……」
なんだか、過去のことを思い出しているようだ。
「でも、なんでカトリーさんの家族は殺されちゃったの?」
カトリーさんが拐われてしまっていたのなら、家族が殺される理由はない。
「冒険の中でその人と一緒にゴブリンを何匹か殺したから。反逆者の家族とか言われて……」
ああ……なんか、ありそうな話ね。
「でも、何で殺されたってわかったの?」
「たまたま、群れでいるゴブリンの話を盗み聞きしたから」
盗み聞き? そんな都合良く聞けるものかなあ。
「処刑場まで行って止めようとしたんだけど、間に合わなくて目の前で殺されちゃったの」
残酷……。
「そうなんだ……大変だったのね」
妄想じゃなかったら話は本当なんだろうなあ。
なんだか、純粋そうな人だし……。
騙すより騙される方の人だわ……きっと。





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