16話 カトリーさんってこれから呼ぼうかな
校門の近くの樹の下からは丘の下が一望できた。
なかなかいい眺め。
結界の内側だったら、学校の外でも大丈夫だものね。
安心してボーッと景色を堪能する。
雲はなくて、空の青みは少しずつ黒みがかってきた。
まだ明るい。
ボーッとするのが私は好きだ。
頭の中をどこまでも、真っ白にしてしまおう。
ボーッとしている時の顔なんて、ひどいもんなのかもしれないけど、誰もいないから気にしない。
大好きなボーッとする時間を堪能しよう。
ボーッとしてお姉さんを待っていたら、目の前の誰もいないところにスーッと脚が現れた。
お、お化け?
背筋がサーっと寒くなった。
「ごめ~ん、待った?」
頭の上で声がする。
「うわっ。お姉さん急に現れないで~」
ほんとに目の前過ぎ。
目の前って言っても私の目の前にはお姉さんの下半身しか見えないけどね。
「ごめん、ごめん。転移するところをなんとなくでやったから」
「転移? なにそれ? ああ、空間移動っていうのか」
難しい言葉だったけれど、私の中のもうひとつの知識が教えてくれた。
「そんなの出来るなら、朝歩いていかなくてもいいじゃん」
その方が、私の気苦労もへるんだけどなあ。
「ダメよ。母親と子供の貴重な時間はたくさんとったほうがいいと思わない?」
「私のお母さんは家にいるって」
なんでお姉さんは、私を自分の子にしたがるんだろう。
「それでも、私は貴女のお母さんなの」
「だから……何で?」
「神様になれた後、私の身体の一部とエネルギーをたくさん使って魔法をかけたの」
身体の一部って、どこも欠けてないけど?
「ゴブリンの種族に私のエネルギー取り込んだ子供が生まれるようにしたのよ」
「よくわからないけど……なんで、そんなことをするの? 好きな男の人つくれば?」
神様になってまで、そんなことをしようとする意味がわからない。
「う~ん……そうよね。そう思うのは当然かあ」
お姉さんはちょっと、悩んでるみたい。
「私の好きな人はゴブリンに殺されちゃったの……」
「え?」
好きな人が殺されて……復讐。
「私の好きな人は人間だったんだけど、私の家族がゴブリンに殺されちゃった話をしたの」
人間?
「そしたら、復讐をしようってなって…………」
「……」
復讐のための復讐が失敗したから、更に復讐してるんだ。
なんて、悲しい人。
「私達はゴブリンをこの世から殲滅しようとしたの」
殲滅って、極端な発想じゃない?
「私の好きな人も協力してくれた……そして、彼は死んで私は逃げた」
「……」
「あと、もうちょっとだったんだけどね。お互い一杯一杯だったから……。運が悪かったのね」
もうちょっと? 二人だけで? 信じられない……。
「……お姉さんは、その人しか愛せないの?」
他にも、世の中にはたくさんの男性がいる。
他の男性を愛せるなら、そう言う結論には達しないのではないだろうか。
「うん、残念ながら……。色々私にも欲望はあるんだけどね。あの人のことを想うとダメみたい」
女の人の欲望って、イケメンとか、結婚とか、デートとか、アレとか、アレとかアレとか?
いろいろ妄想してしまうけど、私も女だし……そんなに間違ってないんじゃないかな。
「……」
「全てを失った私は、彼がこの世界に転移した時の女神様に会ったの」
「女神様?」
「転移者って亡くなると、女神様が魂を回収しに来るのよ」
「魂……?」
魂って何だろ。
「神様になれば、復讐できるんじゃないかと思ったの」
神様って、何か凄そうだものね。
「それで、神様になるための修行ができる稀少な神様を紹介してもらったの」
ゴブリンでも神様になれる?
私も神様になれたら、すごいかも。
お姉さんがなれるなら……。
「神様って、誰でもなれるの? 私も神様になりたいなあ」
「素質がないとダメみたい。私は、私の好きな人がいた世界の神様を紹介してもらったの」
私にも、もしかしたら?
会えたらなれたりする?
「ここの世界にはいないのかあ」
居たら別の世界には行かないよね。
「ハゲててヒゲがボーボーで、コートの下は何も着てないような人だったけど、腕は確かだった」
コート以外は何も着ていないのか……うわあ。
「……その人って、変態……。キモイ人は無理だな~」
前半部分は忘れよう。
腕は確かな……イケメン男性ということに脳内変換しておこう。
変な想像は抹消……。
しようと思ったけど、強烈すぎて、妄想が変換できなかった。
ハゲたヒゲボーボーのおっさんが全裸で後ろを向いている映像が浮かんでしまう。
……忘れよう。
「タナカミノルという神様だったんだけど、肉体をエネルギー化する修行だって言われて、色々なことをやったよ」
「タナカミノルって、日本人のフルネームランキング1位だって、知識が言ってるけど」
日本人って何?
「まあ、偽名なんだと思うよ。私も自分の名前どうしようか迷ってるし」
名前って、迷うものかなあ。
「お姉さんって、名前なんなの?」
「ゴブリンだった頃はカトリーヌ。今はカトリーにしようかなって……昼間思ったんだけど」
感覚的にいい名前だと思った。
「いいんじゃないの。なんか可愛いと思うよ」
「ホント? ありがとう」
なんだか、どちらの名前も随分と上品な名前だ。
家のお父さんとは大違い。
私も可愛い名前になるといいなあ。
「私と貴女の種族はね。ゴブリンのカトリーヌからとってゴブリーヌって言われてるの」
「ゴブリーヌ……」
「この残ってるヌ。これだけ嫌いになったから、捨てようかと思って……、カトリー」
「カトリーさんってこれから呼ぼうかな」





小説家になろう 勝手にランキング