12話 ファーストアタック
「えっと~、今何時だろ」
もうすぐ、みんな来るかな。
学校にある大きな時計は、まだまだ定刻には程遠い。
早く来すぎちゃったなあ。
ふと校舎の入口を見ると、クラス分けの張り紙がホワイトボードに貼ってある。
親の名前の横に番号があるのね。
今更ながら、このゴブリンの名前は一切ダブりがない。
王宮に全てのゴブリンの名前と住所が記録されていて、街のお役所と連携している。
ゴブリンの人口も増えすぎないように、ある程度は夫婦のいる家庭に連絡が行くようになっている。
各家庭の子供の数は、上限を超えるようであれば罰金が掛かり、税金も上がる。
今のところ、それほど厳しい制限は掛けられていないが、王様は食料と資源の確保を優先して、混乱が起こらないように考えているらしい。
えっと、私のお父さんの名前はマサオだから……0606番か。
上の2ケタがクラス番号で下2桁が出席番号になっているらしい。
私は6組ね。
教室に向かう。
私は1年生だから1階の端のクラスに行こう。
クラスで椅子に座って静かに待とうと思う。
他にやることないし。
私は6番だから……横に5個ずつ2列に並んでいる席のうちの前から2番目の窓際の席だ。
窓の外がよく見える。
教室は玄関とは別側にあって、窓の外には広い校庭が見える。
学校は丘の上に建っているため、校庭から先は絶壁の崖。
だから、私の目線からは1階からでも青い空が見える。
どれくらい待ったのだろう……。
たくさんの声が聞こえるようになった。
それはそうか。
生徒たちが到着したんだ。
守護隊に連れられて、一斉に生徒が来るものだからその騒々しさは、天地を揺るがす。
1クラス10人くらいの少人数にした教育体制は、教員の目が行き届くための王様の考えらしい。
来る途中にあった校舎の掲示板にはこの学校の目的と理念が掲げてある。
目的はこの3歳から9歳までの7年間を過ごし、手に職を付けて、国の発展のために役に立つ人材を育てることだそうだ。
理念は他のゴブリンのことを思いやり、優れた知能と体力をもったゴブリンを育てるという心・知・体を兼ね備えたゴブリンを育成することだった。
お姉さんは私に厳しいものが待っていると言っていたけれど、思いやりがあるゴブリンがいたら、私のことをいじめるようなゴブリンはいないんじゃないかな。
私は少し自分の考えが甘いことは自覚している。
けれども、お姉さんとの楽しいひと時を過ごしたあとでは、考えが前向きになって仕方がない。
「いっちばーん。……ってあれ? 先に誰かいる……」
誰か来たみたい。
「おかしいな、みんな一緒に来てるのに何で、誰かいるんだ?」
「おはよう。私は暇なお姉さんが送ってくれたから、守護隊より先にいるの」
独り言に答えるかのように、説明してあげる。
男の子のゴブリンだ。
体格が良くて、私よりふた回りくらい大きい。
つまり……普通ってことね。
ゴブリン顔はタイプではないのだけど、少しだけ許容範囲内だ。
「おはよう。僕は1番。君は……6番なんだね」
私の前の席に座って、後ろ向きで話をする。
「そう。よろしく。私は身体が小さいけれど、守ってくれる?」
こういうファーストアタックは大事だと思う。
好感度を上げておいて損はない。
私はゴブリンの世界で美人ではないのかもしれない。
けれど、ひょっとしたらブスでもないかもしれない。
ゴブリンの基準は、不思議な知識に頼っている私にはあまりに未知過ぎる。
「うん。何かあったら、僕に言ってよ。力になるから」
この反応を見る限り、まあ、私の容姿はそれほど不味くはないと思う。
続いて、更に人が5人くらい入ってきた。
営業スマイルで、微笑みかける。
「おはよう」
男の子が2人に、女の子が3人。
性別は顔や仕草でもわかるが、単純に制服が男女で分かれている。
みんな私よりふた回りくらい大きい。
これが悲しいけど普通。
みんな挨拶を返してくれる。
なんだ、心配することはなかったな。
後から、男の子と女の子が一人ずつ来て定刻になった。
うん、みんな大きいなあ。
私もいっぱい食べて、大きくなんなくちゃ。
今まで、どうにもならないと思っていたことが、少しだけ何とかなるような……そんな気がした。





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