1話 私は生きたいの
私はゴブリン。
名前はまだない。
ゴブリンの女として生を受けた。
ゴブリンは弱い?
いいえ、ゴブリンは日々進化しているの。
きっと、私も強くなる気がする。
ゴブリンの外見は角が生えてて、そこそこな牙がある。
肌の色は薄いオレンジ色。
耳は子供の頃は丸いけど、大人になると尖ってくる……。
そんなゴブリン。
この世界では、それが常識的なゴブリン。
私も、きっとゴブリン。
けれど、私は他のゴブリンより小さい……?
でも、……でも私は……。
私は一生懸命、ゴブリンとして生きていきたい……。
◇◇
ここは、とあるゴブリンの夫婦の家。
私はこの夫婦の子供として生まれた。
「なあ、やっぱ生まれたばかりで歩けないのだし、待ってダメだから殺してしまおうか」
彼は私のお父さん。
名前はマサオ。
10歳になって名前を貰い、12歳で成人のゴブリンとして家庭を持った。
「ダメよ。折角できた私たちの赤ちゃんなのだから、もう少し待ってみて」
彼女の名前はアヤコ。
私のお母さん。
8歳の時にお父さんと出会って、10歳になって名前をもらったばかりでお父さんと一緒になった。
ゴブリンは成長が早い。
元々、今のように文化を持つ前は野生そのものだったのだ。
モタモタしてたら、死亡リスクが上がる。
以前のようにゴブリンがただのモンスターだったら、真っ先に殺されていただろう。
一応、私が生まれてから1週間たった。
私も殺されまいと、懸命に起き上がる。
なかなか、足が立たない。
「頑張って、頑張って」
「頑張れ。頑張れ。今日立てないと、殺すぞ」
足がプルプルと震える。
壁に掴まって、ようやく立ち上がった私。
「おい、もう少しだ。壁から手を離して一人でたってみろ」
お父さんは次のステップを速やかに求めてきた。
「できるかな、明日でもいいかしら」
お母さんは無理しなくても、大丈夫だと言っている。
でも、私も生きるか死ぬかではなく、安心して生きていたい。
そして、私が歩いてみたいと思っているから頑張ってみる。
明日は無いかもしれないから……。
手をゆっくり離す。
重力が足だけに掛かり始める。
苦しそうな足。
それでも、頑張ってみる。
「ギャ」
声を出して、一気に力を入れた。
重さを跳ね返す。
膝関節を更に伸ばすと、筋力が重力に打ち勝った。
それでも、震える足。
安定するまで、耐える。
震えは徐々に治まってくる。
ゴブリンは成長が早い、成長遅れの私も何とか生きることができたようだ。
「やった、立った。良かったなあ……ホントは昨日で殺処分だったけど、誤魔化しといて良かった」
「良かったわね~。届け出は出していないから、今日生まれたことにしましょう」
色々、助けようとはしてくれていたらしい。
両親に感謝。
「ああ、そっか。届け出を出してから1週間以内に歩けないと、という法律だからいいんだね」
お父さんがホッとしている。
ゴブリンの国にはそんな法律があるらしい。
でも、届出を出さなければいい、という抜け道があるんだ。
法律の抜け道に感謝。
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