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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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小さな大頭領の行方


 義士城 飛昭の私室


 桜上歌防衛戦の結末が知らされた翌日の午前。


 飛刀香神衆頭目の侶喧はこの日、義士城に滞在している飛昭の許を訪れていた。


「……桜上歌オウジョウカでの戦は聞いている。気の毒だったな、侶喧」


「…………はっ。実に惜しい人物を亡くしました」


 二人は馬延が戦死した事について話し合っていた。

というのも、馬延の妻は侶喧の妹の侶祥リョショウであったからだ。


「妹の身はどうするつもりだ? 重横とやらは殉職者に手当ても情けもないと聞くぞ」


「今はまだ、どうにも……。ただ、馬延殿の子息が重横のお気に入りとの事ですので、何かしらの情は下ると思います。それがもたらされた後に祥と会って決めようかと……」


「うむ、それが良いだろう。もし俺に手伝える事があったら気軽に相談してくれ」


「はっ。有り難く存じます」


 侶喧は腰かけた状態で、整った一礼を以て感謝を述べた。


「……所で、涼周様は外出中ですか? 義士城へ来たからには挨拶を、と思ったのですが捜しても聞いても見当たらず……」


 大頭領と仰いでいる涼周への挨拶が先だと考えていた侶喧だが、当の涼周が不在であった為に、小頭領たる飛昭の許へ来ていた。

はてさて、小さいながらも大きな頭領は何処へ行ったのか。


 そんな問いを受けた飛昭は、至って真面目な表情で端的に答えた。


「山へ茸狩りに行ってる」


「……は……今何と……」


「山へ茸狩りに行ってる」


 侶喧は黙り込み、つられて飛昭も沈黙を作る。

睨めっこをしたい訳ではない。飛昭の言った答えが侶喧の理解の範疇を超え、それを察した飛昭も改めて考えると無理のある理由だと思っただけだ。


「茸狩りという名目の……敵情視察だ」


「なっ! その様な事は我等に任せていただければ――」


 侶喧は飛昭が想像していた通りの反応を見せた。


 飛昭は驚愕の表情を見せた侶喧を手で制し、彼の気持ちを理解しながら事情を話す。


「敵地潜入は我々の十八番であり、とても危険な任務。あの御方が自らするべきではない。……だがな、今回はちょっと訳ありだ」


「……その訳とは……」


梓州(シシュウ)にて不穏な動きが確認された。どうも承土軍がアバチタ山岳国の領土に侵攻している影響が出たらしく、梓州豪族連合が兵を集めている。然し、その兵の集め方がおかしい。承土軍に備えるでもなく、まるで剣合国に侵攻するかの様な雰囲気だとか」


 桜上歌防衛戦の前、剣合国軍東方に位置する木曾軍が三木・小勝連合との激戦に勝利し、三木家の矢島(ヤジマ)を攻め落とした。これにより三木家は滅亡し、残党は小勝領内へ逃れたという。


 この余勢に便乗したのが、木曾軍が上国と捉えている承土軍だった。

かの軍は現在、アバチタ山岳国が治める角符(カクフ)沓顔(トウガン)の地に同時侵攻を行い、角符を衡裔(コウエイ)が、沓顔を霍悦(カクエツ)が攻めている。

そしてアバチタ山岳国の西隣、剣合国軍の東隣、承土軍の北隣に位置する梓州豪族連合が、上記の動乱に応じて兵を集めていた。

だがその様子が飛昭の言うようにおかしく、承土軍侵攻を危惧した守勢でもなく、かといってアバチタ山岳国へ援軍に向かう気配でもなかった。


「元々梓州豪族連合は、剣合国先代大将によって粛清された有力豪族達の生き残り。アバチタ山岳国の軍が承土軍の対応に兵を割かれている内に、侵攻を受けたばかりで疲弊している梅朝を攻めようとしても不思議ではない。……それだけに、ナイツ殿自らが間者となって現状を知りたいと仰り、涼周様がそれに同行された。その上で俺が義士城に残っているのは、ナイト殿と涼周様から各勢力の動向を調べてほしいと頼まれ、情報の収集に当たっているからだ。……まあ、涼周様を経由したナイト殿の頼みという所だ」


 状況を把握した侶喧は数秒間考えた後、最初の言葉の意味まで理解した。


「成る程……偵察先は生横山(ショウオウザン)の張幹ですか」


「流石、分かったか」


 生横山の張幹。

梓州の北東部・生横郡にある山を根城とした豪族の事だ。


 張幹の父は剣合国軍先代大将・ラスフェの圧政に反発し、税を納める事を拒否した人物。

それ故にラスフェの恨みを買ってしまい、謀叛の為の軍資金貯蓄をしていると疑われた末、時の錝将軍の手で殺された。

当時子供だった張幹は、父の側近が剣合国軍将校を賄賂で買収した事で難を逃れ、反乱によって陥落した旧剣合国軍領の梓州へ身を隠した。

成人後、彼は同志や兵を集めて生横山の山賊を討伐し、その勢力を併呑。同地にて独立後、現在に至る。


「張幹は豪族連合の中でも一際剣合国を恨んでいます。強引な徴兵や徴税はその気持ちの表れであり、最も早く梅朝へ侵攻するのは彼と見ました」


「その通り。もう一つの山に居座る田慌が紳士であるのに反し、あいつは最悪だからな」


 梓州には大山が二つある。北東部の生横山と、南東部の岐源山(キゲンザン)だ。

侶喧も飛昭も、強いて言えば剣合国軍の諸将も、岐源山の田慌は問題視していなかった。

田慌は豪勇無双と噂される程の強者だが、彼の生い立ちや性格からは剣合国に対する敵意は余り感じられなく、それどころか張幹の専横を諫める姿すらある。


「……私は今すぐ梅朝へ戻り、現地の飛刀香神衆の兵達に臨戦態勢を整えさせます」


「頼む。仮に奴等が侵攻を始めた際は、俺も情報収集を他の者に代わらせて梅朝へ向かう」


 有事に備えて梅朝へのとんぼ返りとなった侶喧。

飛昭は彼にカイヨー兵出撃の準備を任せ、自らは側近達への任務引き継ぎを行った。


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