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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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馬延対フォンガン


「……来おったな。皆、このトロォ川を奴等の墓場に変えてやれ!」


「おおおっ!」


 闇夜の中に浮かぶ篝火の群れを視野に収め、馬延は殿部隊の兵達を鼓舞する。

彼等はトロォ川の石橋付近に防陣を敷き、徹底抗戦の構えを見せていた。


「フォンガン殿、敵の殿部隊が見えてきましたので、私もそろそろ動きますね」


 突撃後の肉弾戦をフォンガンに任せた淡咲は、煙の様に消えて隊列から離脱した。


「敵のお残りは騎士中の騎士・馬延公! 相手に不足なれど討つに価値あり! お前等、全身全霊を込めた失礼のない闘志を以て……突撃だぁー‼」


 真っ赤な鬣の愛馬に跨がり、大太刀を突き付けるフォンガンの号令に、後に続く剣合国軍の兵達は勇んで応える。


「来たな剣合国軍! 某は律聖騎士団第五大隊々長の馬延! 慢心あらばその首、容易く落ちようぞ!」


 対して殿部隊を務める古強者達も、馬延の二度目の檄に心身を奮わせた。


 そして両軍は激しく衝突する。

律聖騎士団は地の利と防御設備を利用して数の不利を補い、剣合国軍は圧倒的な物量を以て五段隊形の交代式連続攻撃を仕掛けた。


 最初こそ決死の勢いで剣合国軍を押し返していた馬延隊だが、二万対七百の兵力差は如何ともしがたく、フォンガンの熾烈な猛攻を前に徐々に苦戦していく。

何といってもフォンガン隊は、最前列が敵と十合切り合えば後ろの二列目と交代し、疲れた敵に対して新手が全力で切りかかる戦法をとっている。

これは高い練度を求められる戦い方だが、それを極めているフォンガンは負傷者の数を抑えつつ、着実に馬延隊の戦力を削る事に成功していた。


「さてさてお年寄り虐めは嫌いですが、殺らなければ殺られるので、すみませんです」


 そして堅固な場所の裏側には淡咲が現れ、細身の槍で老兵を一閃。味方の突入口を作る。


「やりおる……あれなる者は剣合国軍主将の淡咲だ! 討ち取って戦の流れを変えよ!」


「ははっ!」


 流石は馬延に従う歴戦の強者達である。上官の指示が下るや否や、敵中に単身で出現した淡咲に狙いを定めて彼女に殺到した。


 然し、年季の差ごときで危機に陥る淡咲ではないし、彼女が言った通り彼女の役目はあくまでも撹乱と沈静。突撃及び乱撃の役目は――


「年寄りどもが、遅せぇよ‼」


 紅蓮の鬼将ことフォンガンである。

淡咲が開いた突入口へ我先に突っ込み、大太刀を振るって無数の白髪首を切り落とす。

その一点が両軍の流れの決定打となり、騎士団の防陣は総崩れの状態となった。


(所詮……某の敵う相手ではなかったか)


 何度も戦場で見えたフォンガンの実力を見誤る事はなくとも、彼の純粋な武力に馬延は為す術がなかった。


 だからと言って、半ば自棄を起こした玉砕突撃などはしない。

彼は華々しさより渋味のある活躍を魅せる人物であり、最期の最期で猛将へ突撃など柄ではないのだ。最期まで粘り強く抵抗し、騎士の誇りと武人の意地を示す事の方が彼に合っていた。


「ふ……やはり某の頭は固いのだな」


 崩壊する陣地の中に於いて、長年の戦友達の死に様を見届けながら、彼は呟いた。


「馬延公、あんたも焼きが回ったな。こんな下らない敗戦を招き、あまつさえ自らが殿なんて、昔はなかったろう!」


「年寄り扱いするなフォンガン。確かに某は騎士団随一の年長者だが、まだまだ現役だ」


「よっと……じゃあ、一騎討ちだ。あんたの底力を見せてみろよ」


 地に足を付ける馬延に倣って、フォンガンは下馬した。

敢えて有利な状況を手放したのは、自分の実力に絶大な自信があるのか、馬延の騎士然とした気配に感じ入り正々堂々の勝負を彼への手向けとしたのか。


「いくぞ馬延公!」


 機先を制したのはフォンガン。敵兵の骸を飛び越えて一気に馬延の目前まで迫る。


「存分に参れ!」


 馬延も剣に魔力を込め、着地より先に繰り出された大太刀の垂直切りを受け止める。


(ぬうぅ……これは……⁉)


 オルファイナスと互角に渡り合うだけあってフォンガンの一撃はとてつもなく重く、馬延は完全に押し負けた。

鍛えられた武人の体が軽々と吹き飛ばされ、背後で行われていた兵同士の戦いの場に乱入。


「へっ……然り気無くうちの兵を殺すなよ」


 受け身をとった先で、真横にきたフォンガン隊の精兵二名を片手間に切り伏せる馬延。

フォンガンの軽口に答える事はなく、再び剣を構えて鋭い眼光を見せる。

持久戦を望む彼が自ら挑む事もなく、切り掛かったのはまたしてもフォンガン。

間合いを詰め、大太刀の長さと威力を最大限に活かす大振りで馬延の構えを崩さんとする。


 馬延隊の残兵も数えられる程に少なくなった頃の一騎討ち。

二将の剣撃音とフォンガンの気迫が朱の雨に降られた石橋上で響き渡り、彼等の闘気が周囲の空気を暖め、骸から流れる鮮血が石材に熱を与えるかの様だった。


「だありゃっ‼」


 やがてフォンガンの刃を捌ききれなくなった馬延は斜め切りの一撃を受ける。


「ぐっ……まだまだよ……某はまだ生きておるぞぉ‼」


 然し、馬延は切られて尚、口から血を吐き出しながら突進した。


 彼の鬼気迫る勇姿を目に焼き付けたフォンガンは、上等とばかりに唇の端を上げる。

そして魔力を込めた右足でその場から飛び下がり、去り際に反転させた大太刀を来た方向に振り返す。刃は先に生じさせた太刀傷を沿うように深く走り、馬延の戦死を確実なものとした。


(……祥……某の為に……苦労をかける…………許せ)


 馬延は死の間際に、愛する家内への謝罪を行う。

彼の脳裏に走馬灯となって現れた妻の顔は、出陣前に必ず見せる笑みだった。


「……馬延公。あんたの剣、俺の太刀を焦がす程に熱かったぜ」


 事切れた馬延の武勇を称賛したフォンガンは、その後静かに大太刀を収めた。

良将の戦死を悼み、討つに値する敵の無念を深く心の内に刻み込む。


「お疲れ様ですフォンガン殿。早速ですが追撃を続けますか?」


「いんや、もう充分だろ。敵は逃げ切っただろうし、下手にファライズまで入れば鬼軍曹が出てきそうだ。……それに、充分燃えたしな」


 背後からぬっと現れた淡咲の言動を余所に、フォンガンは静まりかえった戦場を後にする。


「……とても、燃えきった様には見えませんよ。…………さて皆さん、敵味方の御遺体を丁重に弔いましょう。命尽きれば敵も味方もありません。同じ人ですよ」


 淡咲隊の兵達は敵味方を問わず死体を優しく拾い上げ、後続の馬車に乗せていく。

その間にも自らの役目を終えたフォンガンは自身の兵を下げ、各地の仲間達に戦勝と終戦を告げた。



「沈丁花の月第一週。律聖騎士団の馬延とオネウスは一万三千の兵力を率いてアーカイ州北部の桜上歌へ侵攻を開始。これには剣合国の人的資源を収奪する狙いがあったという。

然し彼等は迎撃に現れたフォンガン・淡咲連合軍三万の前に一蹴される。

退却戦の最中に馬延はフォンガンに討ち取られ、二日で決した戦の中で七千もの兵が戦死。

重氏三代に仕え、騎士団第五大隊を率いる馬延の死に、多くの者が涙したとされる」


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