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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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意外な良将? その名はオネウス


沈丁花の月 律聖騎士団本拠地ファライズ ラシアシン城 鈍寧ドンネイ


「んで聞いてくださいよ鈍寧殿に馬延殿! 妹の奴、贅沢三昧の毎日で庶民の物は臭くて食えんとか言うんですよ! こんなに枝豆旨いのに! ふざけてないすか!」


「はっはっはっ! すっかり毒されたちまったなぁ、あの肉達磨に! まぁ明日は非番だろ? 今日は浴びるほど飲んで、ゲロッパと一緒に駄目大将の不満を吐いてくれや!」


「……両人とも、念の為に声量を控えられた方が……」


 鈍寧、馬延、オネウスの三者は談笑を交えながら鈍寧宅で酒を飲んでいた。

知らぬ間に彼等は、所謂宅飲み仲間となっていた。

というのもオネウスを軽く見ていた鈍寧と馬延が、任務を共にする間にオネウスの飾り気ない人柄を気に入り、軍才は無くとも裏表のない人情味溢れる性格に一目置いたのだ。


 ここで少々オネウスについて説明する。

彼は一介の靴職人であったが、妹の美貌が優れていると知った重横により妹ともども召し上げられた。妹はその後、重横の側室となり、オネウスはカイカンの戦死に伴って隊長に任命される。

そして彼は良く言えば無欲、悪く言えば面倒臭がり屋。

隊長という名誉をただの重責と捉え、今までと変わらず庶民と接して楽に生きる事を望む。

故に重横に毒された妹の言動が気に入らず、こうして自棄酒を呷る事がしばしば。


 だが馬延や鈍寧を含む他の隊長からしたら、それだけでも可愛く思えた。いきなり権力を与えられた平民が粋がった挙げ句、重横に取り入ろうとしないだけましなのだ。


「……所で両人とも、剣合国軍に加わった涼周という少女の事は知っておるか?」


 主を批判しながら豪快に笑う鈍寧を危惧してか、馬延が突然話題を変えた。

それにオネウスが一番早く反応を示す。


「一応聞いてはいますよ。確かジオ・ゼアイ・ナイトの養子に迎えられたとかいう……孤児でしたっけ? 先の保龍戦に続き遜康戦でも活躍したとか。でも、そいつがどうしたんで?」


「……実は某の縁者が飛刀香神衆の頭目を務めているのだが……自軍の瑣末な事まで語らぬ口の堅い彼がな、わざわざ某を訪ねてこう申したのだ。涼周という少女と戦場で見えた時は、何かと彼女の力になってくれ、でなければ縁を切る……とな」


「それはまた……手前勝手な要求すね。……馬延殿は、どうするんで?」


 オネウスの問いに馬延は数秒押し黙る。

彼にとっては迷惑極まりない話である筈が、何やら思う所もあるようだ。


「…………正直な話、彼の口から出た少女の活躍は面白いとは思った」


 馬延は縁者から聞いた涼周の話を残る二人に話す。


 鈍寧は酒で赤くなった頬を若干吊り上げ、その話に一定の興味を示した。


「成る程、確かにそんな奴は聞いた事もない。ともすれば、その親戚さんが期待を抱くのも頷ける話だ。……だが彼は彼、俺達は俺達だ。彼が涼周とやらに忠誠を誓った所で、俺達の重氏の先代様に対する忠誠心は変わらんと思う」


「そこは某も同意見だ。重円様への忠誠に揺るぎはない。……だが、重円様と重横様を知る者として、民が望む人物とは涼周の様な人物であるとも確信した」


「えっ……でもジオ・ゼアイ・ナイトだって結構な人物なんでは? そっちを飛ばして涼周すか?」


 オネウスの問いを聞いて、次は馬延に加えて鈍寧までもが押し黙った。

ナイト以前の剣合国との確執を知る二人は、ここでも同意見を示す。


「……ナイト……いや、ジオ・ゼアイ一族の者がファライズを治める事自体が難しいだろうよ」


「先代の重円様は剣合国軍との戦による心労で病没なされた。それが尾を引き、騎士団内の者の多くはジオ・ゼアイ一族を恨んでおる」


「……そういう事ですか。確かに俺達下々民の中にも、ジオ・ゼアイ・ラスフェ(ナイトの父)との戦がなければ今も重円様の治世だって言う奴がいますし」


 名門騎士出身の馬延。平民出身ながらモスク同様に重円の英断で隊長となった鈍寧。重横の贅沢に伴って隊長にさせられたオネウス。

境遇の全く異なる三者ではあるが、妙に馬があう様子を見せる。


「……故に、状況によっては貴公等へ刃を向けるやもしれん。……それを予め伝えておく」


「うっは……寝首掻くとかは止めてくださいよ。俺まだ死にたくないですし」


「俺も同感。まぁその時は、長年の付き合いから巻き添え喰わない様に逃げてあげますよ」


 オネウスと鈍寧の反応を見聞きして、馬延は微笑を浮かべる。


「ふっ、オネウス殿はともかく、鈍寧殿は奪ろうと思って奪れる首ではなかろうが」


「いやいや俺はとにかくって……まぁ、お手柔らかに頼みますよ」


 三者はこの夜、心行くまで酒を飲み、談笑に花を咲かせた。


 だが翌日、徴兵の成果が捗々しくない事に腹を立てた重横により馬延とオネウスは召喚される。


「領内の民からの徴兵が難しいならば、他国の民を拐ってでも兵にすればよかろう!」


 自分勝手極まりない重横の策に馬延は反対するも、それが気に入らなかった重横は彼等にある愚命を下す。


「隣国のアーカイ州にはカイヨーの移民が多く流入したと聞くぞ。奴等は相当な兵力になる筈だ。アーカイ州に侵攻し、当地の民を拐ってでも兵を集めろ! 徴兵任務を兼ねた侵攻を厳命する! 直ちに出陣してアーカイ州北部の桜上歌を攻め落とせ!」


「……何と……」


「できなければ主等の家族を処刑するまでだ! さあ行け!」


 馬延とオネウスは閉口した。

まさか自分達の主が、これ程の腐れ肉達磨だったとは思っていなかったのだ。


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