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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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騎軍の来襲と対応の騎馬隊


 洪和郡戦四日目


 この日、剣合国軍の本陣は早朝から揺らいでいた。


「トーチュー騎軍が義士城を急襲しようとしているだと⁉ それは本当か⁉」


 涼周と飛昭に随伴したカイヨー人の報告に、ナイトは大きな動揺を見せた。

彼に匹敵する歴然将軍のファーリム、槍丁、方元等も同じく狼狽えており、軍師の安楽武までもが表情を凄める。


「はい。間違いありません。トーチュー甘氏の長・甘録が突然兵を集め、皆の前で号令を下したのです。我等はこれより北上し、剣合国軍の本拠を攻める……と」


 飛昭によってトーチューに放たれていた四名の間者は、同地にて剣合国軍に対する宣戦布告を確かに聞いており、急いでトーチューを脱したのだと言う。


「何故彼等が今になって、承土軍ではなく俺達を攻めるのだ。俺が剣合国を継承して以来、彼等を害する事はなく、彼等も俺達との和議に応じてくれた。俺達は……前の世代と違い彼等の恨みを逆撫でした覚えは一切ないぞ!」


「申し訳ありません。そこまでは……探りきれませんでした。如何せん突然の事でしたので……報せるだけで精一杯でした」


「ああ……すまぬ、そなた等を責めた訳ではないのだ。……うむ、よく報せてくれた。下がって充分に休んでくれ」


 ナイトは知らぬ間に間者達を叱責していた己を恥じた。

苦労の程も考えず、お門違いな相手に声を荒げてしまったと。


「…………軍師、どうするべきだ」


 間者達を下がらせた後、ナイトは何時に無く深刻な面持ちで安楽武に意見を求めた。


 安楽武は尚も少しの間だけ黙考を続けていたが、やがて白羽扇を一扇ぎすると、顔の緊張を緩めて状況の整理がてら諸将の動揺沈静に当たる。


「察するに、これは甘録殿の意思ではないでしょう。先の敗戦の要因が承土軍の間者部隊によるものだと分かっていながら、大勢の前で宣戦布告する事は二の舞を演ずる結果を自ら招いている様なもの。それに気付かない程、甘録殿は愚かではありません。おそらくは裏で糸を引く者がおり、此度の侵攻はその者の指示ではないかと」


「トーチュー騎軍は操られていると。……それは、カイヨー奪還戦で彼等に勝った承土軍か?」


「怪しいのは彼の軍ですが、今は情報が少な過ぎて確信が取れません。ですが幸いにして、私もトーチューへ間者を放っておりますので、今頃は留守を守るバスナ殿の耳にもこの事態は入っているでしょう。更には甘録殿の独断にも見える急襲作戦の為、兵の士気は低く、進軍速度も本来の半分にも及びますまい。故に義士城陥落の心配はなく、トーチュー騎軍の性質を考えれば、道中の集落が襲われる心配も然り。……ですが、彼等を裏で操る者が誰かなのか判明しない現状、前面の覇攻軍の動きは予想が難しいもの」


 安楽武は大きな地図を広げ、諸将の顔を一周見渡した。

そして各々の表情から皆が落ち着きを取り戻した事を察し、対応策の説明に移る。


「ここは昨日までと同じ構えを見せつつ、トーチュー騎軍の側面に回り込む別動隊を東に走らせます。この部隊の主な役割は迎撃に出たバスナ将軍への援軍ですが、同時に恰も覇攻軍の陣を迂回して攻めるかの様に見せ、かの軍を牽制する意味も持ちます。……ガトレイがトーチュー騎軍を裏で操っているならば効果はありませんが、違うならばこれで彼等を陣に押し留める事が可能です」


「もし覇攻軍が黒幕なら?」


「彼等が黒幕ならば、別動隊を派遣した後に押し寄せて参りましょう。我々はそれを逆手に取り、地の利を放棄した敵を迎え討ちます。故に我が軍の全兵士には、昨日までと変わらず覇攻軍が敵であると思わせ、トーチュー騎軍の事は隠します。仮にマドロトスが迫り、トーチュー騎軍による義士城急襲を示唆する流言を行った際は…………殿、皆の前で裸躍りでもして気を逸らしてください」


「よおぉし、俺に任せろ! 俺の超絶筋肉で皆を魅了させてやる‼」


「やめてください父上! 軍師も変な作戦を立てないで!」


 真剣な軍議中に、まさかの軍師のアホ作戦公表であった。

ただ利に適ってはいるし、良い意味で皆の緊張も和らいだ。


「ふふ……失言、失礼しました。さて、別動隊ですが若君の輝士隊と亜土雷殿の部隊にお任せします。双方とも騎兵のみを率いて出陣してください。そしてトーチュー騎軍への対応ですが、状況の変化に伴い臨機応変で当たるようにお願いします」


「了解した」


 ナイツと亜土雷はトーチュー騎軍迎撃の任務を承った。


「……にぃに、涼周もいく」


 そこへ涼周も志願。甘録と仲が良く且つ涼周の護衛を務める飛昭も作戦参加を表明する。


「…………分かりました。ではカイヨー兵の方々にもお願いしましょう」


 安楽武は当初、涼周の同行を危ぶんで作戦参加を拒んだ。

然しナイト父子、終いには亜土雷までもが涼周の意思を尊重した為に、安楽武は彼等の熱意に折れる形で了承した。


 ナイツ、韓任隊騎兵二千、亜土雷隊騎兵三千、涼周隊騎兵一千。合計六千の騎馬大隊は早速出陣し、東への進軍を見せた後に群州へと向かう。

これにより、洪和郡の戦場に残った剣合国軍は七万五千となり、彼等の動きを訝しんだ覇攻軍を抑える役割に当たる。



 群州に入った時、優位にあったのは剣合国軍側だった。

トーチュー騎軍は疾風怒濤の四文字を忘れたかの様な牛歩状態で進軍しており、ナイツは彼等の進路上にある要地へ先回りして兵を伏せる。


「にぃに、ばしゅなと会わない?」


 トーチュー騎軍の出兵に際し、その迎撃に現れたバスナの防衛線はもっと北にあった。

ナイツは涼周に説明するついでに、虚報を混ぜた檄を兵達に飛ばす。


「皆よく聞け! バスナの備えは未だ不充分、民も避難が完了していないとの事だ! 故にこの地を最終防衛線と捉えろ! ここで、俺達だけで、敵を押し返す! 一人で十騎を相手する気構えで挑め‼」


「おおっ‼」


 バスナの備えが整っていないのは真っ向な嘘である。彼はとっくに軍を展開し、迅速な指示によって民の避難も完了していた。


 だが、バスナが布陣した場所は群州深くの防柵陣地であり、そこまで侵入されると道中にある多くの集落に影響が及ぶ。


 故にナイツは、ここ呀錘(ガスイ)集落に兵を伏せたのだ。

同地は義士城へ通じる主要道の途中にある大集落。東西一帯には大水田地帯が広がる。

ナイトが剣合国を継承して以降、トーチュー騎軍との間に争いがなくなった為、集落に伴い水田も拡大していったのだ。

当然、軍勢は集落内を進軍する他なく、内部の路は大軍の利を自ずから封じる。

そして部下達に後がない状況を伝えて一人一人に奮起を促し、精強な敵への気後れを打ち消した。


「韓任、南側の入口付近には物を散乱させたか?」


「はい。民には悪いですが、少々荒らしました。あれを見れば甘録も、民が慌てて逃げ出したと思う筈。被害を負わせた家も全て記録しています」


「よし、後は俺達を敵にした事を、この地で後悔させてやるだけだ」


 ナイツは全兵を配置に着け、甘録率いるトーチュー騎軍の侵入を待った。


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