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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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月下の筋肉マン


 トーチュー


 月の光に照らされた草原の中、全力疾走で馬を駆る四名のカイヨー人と、それを追う二十数名のトーチュー騎兵がいた。


「くそっ……流石はトーチューの兵。疾すぎる!」


「止まれぇ! お前達は何者かぁ! 止まらんと槍を投げるぞぉ!」


「もう投げてるよお前!」


 繰り出された槍を何とか避けるカイヨー人だが、その動作を入れるだけでもトーチュー騎兵にとっては足止めに該当する。


「もう一度言うぞ! おらあっ! …………止まらんと槍を投げるぞぉ!」


「だから投げてから言うなよ! 俺達はカイヨー人だ! ほっといてくれ!」


 地に突き刺さった槍を擦れ違いざまに抜き取ったトーチュー騎兵は、今度も警告する前に槍を投げた。それを再び避ける事に成功したカイヨー人達は半ば自棄になって言い返す。


「カイヨー人だとは見れば分かる! 問題はこの夜中に国境を跨ごうとしている事だ!」


 カイヨー人達はその問いについては答えない。答えてしまえば遠慮なく槍が飛んで来る事を分かっていたからだ。

彼等は今、トーチュー騎軍にとっても剣合国軍にとっても、重大な情報を握っていた。


「これ以上はやむ無し! 同胞を殺める事はしたくないが、我等は我等の務めを果たすのみ!」


 トーチューと洪和郡の境に近付いた時、追手の隊長がカイヨー人を他国の間者と判断。部下達に一斉飛槍の指示を発して、国境警備隊としての責務を果たそうとした。


「くっ……来るぞ⁉ 逃げろ、逃げるんだ! 一刻も早くあの方々にお知らせせねば!」


 カイヨー人達は馬を必要以上に鞭打った。

人馬一体のトーチュー騎兵から見れば、それは限りない愚行だと思えただろう。

カイヨー人の想いに反して馬は気分を害し、馬速は却って低下。それに伴ってトーチュー騎兵達の槍の狙いも定まった。


「ってぇ!」


 隊長の号令とともに月の光に輝く刃が、カイヨー人達に降りかかった。


「えっ?」


 然し槍は空中で弾かれ、何かに刺さる事なく地面に寝そべった。

カイヨー人達の頭上に淡く煌めく魔障壁が顕現し、彼等を守ったのだ。

両者共々がこの出来事に、一瞬だけ思考を停止させる。


「ここより先、汝等の相手は我が務める!」


 その時を見計らった様に、付近にある岩場の影から月光に照らされた筋肉マンが現れた。

筋肉マンは足を止めた両者の間に飛び入って、その巨体をトーチュー騎兵に向けた。


「さあ、貴方々は、今のうちに涼周殿の許へ」


「な……何故涼周様の事だと……あんた達は一体?」


 筋肉マンに次いで岩場の影から姿を現した白髪の女性。彼女は眠そうな目に似合わぬ朗らかな笑みを浮かべながら、洪和郡の方角を手で示すだけだった。


「我等は美女と野獣なり。さあ、行けい」


「まあ将ぐ……お兄様。わたくし、とても嬉しいです」


 自らを野獣、副将の女性を美女と称した筋肉マン……面倒なのでもう楽瑜って言います。承土軍の名将でありながら涼周に一目置いている楽瑜です。


「すっ……すまない! 恩に着る! あんた達も無事でいてくれ!」


 楽瑜の自己紹介に唖然としつつも、再び馬を走らせた四名のカイヨー人。

それを見届けた楽瑜は改めてトーチュー騎兵達に向き直る。


「安心せよ、汝等を殺しはせぬ。ただ少しだけ語るべし。全て、汝等の為となろう」


「見ろ……あの筋肉……あの体! 只者ではない。甘録様並の……いや、それ以上では……!」


「何と逞しく、太く、そして強烈な……! 我等トーチューの益荒男を、これ程に震わせるとは!」


 守護魔法使いの女性が出した魔障壁とは、また違う煌めきを放つ楽瑜の肉体。

トーチュー騎兵達は思わず戦慄し、彼等の言葉を耳に入れた副将はもしやと思う。


「お兄様、お尋ねしますが……先程お渡しした服は、着ておりますよね?」


「しかと着ておる故、心配はいらぬ。汝は暫しの間、そこで歌を詠うべし」


(いや、着れてないな。完全に輝いてる)


(確実に手遅れだぞ、あれ)


(人目の無いここだから、まだ免れているだけだ)


(やっべ。あーやっべ、まじでやべぇはアレは)


 騎兵達は一様に言葉を失った。と言うよりは、口に出したいけど出したら殺されそうな雰囲気にたじろぎ、各々が心の中で呟いただけだ。


「では始める。汝等、我をよく見て、我の言葉によく耳に傾けよ!」


 錯覚だろうが、楽瑜の体が徐々に巨大化し、騎兵達の視界を占領した。

そこから数十分に亘り、世にも奇妙な講義が行われる。

結果、騎兵達は見事に洗脳された状態で拠点に戻り、他の仲間達に新たな自分を語り出す。


「俺達、自惚れてたよ。……まさかあんな優しい筋肉がこの世にあるなんて」


「俺なんて所詮はメダカの一匹だったんだな。これからはもっと謙虚に生きようと思う」


「父さん、俺はもっともっと鍛えるよ。そう、あの月夜に煌めく筋肉様のように」


 骨抜きにされた彼等を見て、国境警備隊は敵にも恐ろしい者がいる事を知った。

この出来事は「月光の筋肉伝道師」という名で後世まで語り継がれ、洪和郡との国境近くにある集落では男達が競って筋肉をつけた為、結果として外敵への備えが増したそうだ。

めでたし、真にめでたしである。


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