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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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洪和郡攻略戦


 柊南天ヒイラギナンテンの月


 満を持して剣合国軍九万が保龍を出陣。錝将軍ファーリムを先陣として、楚丁州東部の洪和郡に侵攻した。

この戦にはナイツ率いる輝士隊一万と、涼周の護衛を志願したカイヨーの精兵五千も従軍。一路、ハワシン・マドロトスが守る宝水城へと攻め寄せた。


 対する覇攻軍も、この間を無策で過ごしていた訳ではない。

洪和郡に十二万もの兵力を配し、マドロトスの他にも六華将フハ・ガトレイを備えていた。


 ファーリム軍三万とマドロトス軍四万。両軍の先陣は洪和郡北部にある丘陵地帯で合間見えた。


 開戦の火蓋はファーリム軍によって切られ、マドロトスはそれを受け止める側に回る。


 前哨戦は数に劣る剣合国軍が押し勝つ結果に終る。各隊ごとの連携と個々の質の高さが、その勝利に結び付いたのだ。


「此方も着いたばかりだ。今日はこの程度で済ましてやろうか!」


 ファーリムは剣を肩にかけ、覇攻軍の屍の大地を悠々と下がっていく。


「ハハハ! これだ、やはり奴等との死闘は堪らん!」


 戦術、連携、練度等の諸々の要因で本隊以外が大苦戦していたマドロトスであったが、そんな事はお構い無しにファーリムとの一騎討ちを楽しんでいた。

やはり彼は一部隊の将としては有能でも、狭い視野が禍して軍の指揮官には向いていない。


 その結果、初日の死闘は剣合国軍二千の死傷者に対し、覇攻軍は五倍に及ぶ数を出していた。



 二日目、戦況に大差無し。


 逆に討って出たマドロトスに対して、ファーリムは堅陣を以て迎撃。初戦同様に剣合国軍の優勢で終わる。


 そして開戦から三日後の正午、互いの本軍が到着。先陣部隊と合流を果たし、剣合国軍八万七千と覇攻軍十万七千が改めて対峙した。


 ナイトはまず食卓軍議を始め、ファーリムから状況の報告を受ける。


「敵の陣容は六華将の二人、ハワシン・マドロトスにフハ・ガトレイ。総兵数約十一万の内、二万五千ほどがサキヤカナイに当たり、五千はマドロトス麾下、残り二万がガトレイの兵です。全軍の指揮はガトレイが執り、マドロトスは特攻隊の役割に徹するでしょう」


「……流石は名門貴族のガトレイだ。私兵の数が半端ではない」


 フハ・ガトレイ。

その者は六華将の中では最も品行方正で、数いる貴族の中でも価値のある存在だ。

覇攻軍が台頭する以前、彼はナルマザラス(現覇攻軍の本拠地)を治めていた勢力の支配域にありながら、主家を凌ぐ勢力を持つ名門貴族であった。

海運貿易で富を築いた産業貴族として知られる一方、軍事力にも重きを置いた軍閥貴族として名を轟かせ、合理主義的な考えに従い覇梁を同地へと迎えた。

その後は頭一つ抜けた存在として他の五将をまとめ、戦に特化している覇梁に代わって国政を担っている。それ故に、実質的な大将は彼だと言う者もいる。


 ナイトは茶漬けを掻き込みながら、むむむと唸った。


「ガトレイの直下兵団はよく訓練された精鋭だ。それに本人も軍略に明るく視野も広い。地の利も兵数も向こうが上にある。さて、どう攻めるべきか……」


「大殿、戦は始まったばかりでございます。先ずはゆっくりと攻め、敵の出方を待ってみては如何でしょう?」


「ふむ。……軍師と方元はどう思う?」


 槍丁の意見を聞いたナイトは箸を止め、軍師の安楽武と副将の方元に是非を問う。


「ガトレイが防陣を出ることはまず無いでしょう。となると、誘い出しやすい者はマドロトス。彼は調子に乗って突出する癖があります。槍丁殿の申す様にゆるりと攻め、マドロトスが我等を甘く見る様に動きましょう。さすれば攻め時を主張するマドロトスと守りを重視するガトレイの間に不和が生じます。……我々が本当の動きを見せるのは、それからと存じます」


「儂も槍丁殿の意見に賛成致す。先ずは敵全体の強さを推し測り、その後に策を巡らすべきでしょうな」


 安楽武と方元。二人の重臣が槍丁に賛同し、ファーリムにも異存が無いことから、今戦の方針は定まった。

ナイトに次いでファーリムが箸を取り、諸将もそれに続いて食卓を囲んだ。


 軍議を終えた次は、諸将より小一時間ほど早く食事を終えて戦列を作っていた兵達への鼓舞兼号令に移る。


「皆ちゃんと噛んだな! よし、始めるぞ‼」


「グオオオォ‼」


 ナイトの号令に従い、干し肉を噛み砕いた兵達が喚声と武器を掲げる。

ナイト、方元、亜土雷、亜土炎が中央を固め、西側右軍にファーリム、東側左軍にナイツ、槍丁、韓任、李洪、メスナ、槍秀、涼周、飛昭。全体の指揮及び後方支援を安楽武が行う。


「来やがった来やがった。いざ、死合おうかぁ‼」


「オオオォ‼」


 対する覇攻軍もマドロトスを筆頭に気勢を上げ、迫り来る剣合国軍の迎撃に注力した。


 そして、ゆっくりと攻める筈だった剣合国軍だが、実際に戦が始まると押しに押した。

前哨戦の優勢とナイト自らの突撃、各戦線で戦う将兵の高い実力、安楽武の見事な采配、これ等の要素が覇攻軍を圧倒したのだ。


 中央を任されていたマドロトスこそ流石によく耐えたものの、覇攻軍西側はファーリムの熾烈な猛攻によって大いに蹴散らされ、東側はナイツ等若手組の活躍を一際目立たせる結果となる。


「じゃあなマドロトス! 明日までにそのうなじを洗っておけ!」


「ハンッ! うなじじゃなくて首だろうが! だがお前こそ顎洗って待ってろ!」


 日暮れと同時に兵を退いた剣合国軍。

ナイトは後ろ髪に隠れたマドロトスのうなじを、マドロトスは無精髭の生えたナイトの顎を洗えと言い捨てて刃を収める。

二人の周りは一番の激戦地であった為に、両軍の兵士の死体が広がっていた。


 三日目の本戦で剣合国軍は約六千の死傷者を出したが、覇攻軍は四倍近い二万三千にも及ぶ。

ゆっくりと攻める作戦はどこへ行ったのか。安楽武は途中からそう感じつつも諫める事がなかった。偏に、彼もこの勢いに当てられ、武人の血が騒いだと言える。

両軍の兵数対比は剣合国軍八万一千 対 覇攻軍八万四千とほぼ同数となり、剣合国軍の優位は揺るぎ無いものであった。


 然し、彼等の許へ一つの報告がもたらされる事で、状況は一変する事となる。

その報告を持った者達は闇に紛れてトーチューを去り、夜を徹して出兵中の涼周と飛昭の陣地へと駆けていた。


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