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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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月下の魔弾


「おい飛昭、これは一体どういう事だ……!」


 人質だった女性達とともに甲板へ姿を見せた飛昭と楽荘達。

その後には海賊団大将のベロケ達と、彼等に捕縛された状態の涼周と二人の女性が続いた。

艦内の殆どを制圧し、敵の中型艦からの移乗攻撃を跳ね返していたナイツは、その光景を見て一切の動きが止まり、飛昭をこの上なく睨み付けた。


 飛昭は事の成り行きを説明したが、それで納得するナイツではない。


(そういう時は、お前が手を汚すか人質になるべきだろ! 何故よりによって涼周を差し出したっ!)


 彼は叫びたい激情を必死に押し殺し、殺意すら感じられる目で一頻り睨む。


 だが、最早こうなった以上は涼周の策に乗るしかない。

ナイツは敵味方に戦闘中断を告げ、新手の中型艦までの道を開けさせる。


「へっへへ、悪いな兄ちゃん!」


 ナイツの前を通り過ぎる時、ベロケはこれ見よがしに悪どい笑みを浮かべた。

その手元に、荒縄で雁字搦めにされて目隠しまで付けられた涼周がいなければ、ナイツはその瞬間にも全力で一刀両断していただろうに。


「このド腐れ外道が……! それ以上汚い手で涼周を触るな……!」


 今度はベロケを飛昭以上に睨み付けた。

然しナイツにとって涼周がそれほどの存在だと知ったベロケは、自分達が正規軍の上手に回ったと勘違いして調子に乗った言動を見せる。


「悪いなって、さっき言っただろ? あれは別行動させたおめぇの判断が悪いって意味だ……ぜっ!」


「ぃあぁっ⁉」


 涼周の体の各所を荒々しく揉みしだくベロケ。

涼周を少女と見て、溜まっていた欲情の一部を早くもさらけ出したのだ。


「貴様ァ……‼」


 ベロケの腐った言動を前にしてナイツ達は激怒。意識を取り戻した女性達も、自分の代わりに年端もいかない少女が悲鳴を上げている事に心を強く痛めた。


「最高だぜこの感じ……! おっとおめぇ等、何もすんじゃねぇぞ」


 加虐性欲を駆り立てる涼周の甘い悲鳴と色に欲情をそそられ、且つ何をやっても見過ごされる今の状況に味を占めたベロケは、涼周の中までまさぐり始める。


「ぐぅ……この……腐れ海賊がぁ……!」


 ナイツの我慢は限界に近かった。剣に手をかけようとまでしていた。

それでも彼は耐えた。涼周は自らの体を弄ばれるのに耐えてまで人質の全員解放を望んでいるのだから、兄としてその想いを実現させてやりたいとの想いが少なからずあった為だ。


「さてと……じゃあガキ以外の人質は放してやる」


 わざとらしくゆっくりと味方の戦艦に乗り込んだベロケは、やっと二人の女性を解放。

と同時に船を走らせ、一気にナイツ達から逃げようとした。


「たーこいじゅっ‼」


 中型艦が動き出した瞬間だった。

依然としてベロケの脇に抱えられていた涼周が突然大声を上げ、魔銃の名を叫ぶ。

その声に応えるように、カイヨー兵が預かっていた魔銃がその手から勝手に離れ、高速回転を以て勢い良くベロケに突撃する。


「ぐおっ⁉」


 涼周の魔力が込もった大声を間近で聞いて動転中のベロケは、魔銃の飛来に気付かずターコイズ先輩の華麗な体当たりをまともに受けて吹き飛んだ。

その際、最後の人質たる涼周も解放される。


――刹那! 元海賊本艦の方からナイツと飛昭が魔力を込めた飛び込みで移乗した。


「うおおぉーー‼」


 二人は涼周の傍に降り立つと、瞬時に周囲の賊兵を一掃。続けざまにナイツは涼周の縄を切り裂き、飛昭は飛刀を投げて広範囲の賊兵を射殺した。


『皆殺しだァー‼』


「オオオッ‼」


 声を合わせた二人に呼応して、輝士兵、カイヨー兵の殆どが移動を始めた中型艦に恐れる事なく飛び移る。中には開いた距離を気合いで飛んだ者もおり、女性達の護衛に残った楽荘含む十数名以外は全員が移乗に成功した。その精神と気合い、恐るべし。


「く……くそったれ! おいお前等、数は俺達が圧倒的だ! 袋叩きにしてやれ!」


 逃走が失敗に終わったベロケは自棄を起こして賊兵達を繰り出す。

確かにベロケの言う通り、数だけは海賊側が優勢だ。だが彼等の中にはナイツ達に恐れをなし、本艦から海に飛び込んで逃げた者が多くいる。

その者等を救助した中型艦の船員は、本艦の者から敵の強さを知らされて士気を下げていた。

故に、数が多いだけで大半が逃げ腰の雑魚、語るに及ばぬ存在だ。


「にぃに、ひしょう!」


「……すまなかった。あの野郎が言った通り、お前を手放した俺が馬鹿だった」


 ナイツは涼周を抱き締めた。涼周はナイツの謝罪に首を振って否定する。


「涼周様、俺からも……申し訳ない! 勝手に盟主と仰いでおきながら……貴方に不快な思いをさせてしまって……俺は、飛刀香神衆一の恥さら……しぃっ⁉」


 涼周は飛昭の謝罪を最後まで聞かず、彼の利き腕ではない左手に噛み付いた。


「えええっ⁉ いや痛いです! すんませんすんませんっ!」


 傾きのない穏やかな目付きからは、その行為が飛昭に対する叱責ではないと感じさせた。

涼周は、飛昭が己の存在を強く否定し過ぎるのを強引に止めたのだ。


(……とは分かっても、吸われる奴はやっぱり余裕なくなるよな、あの吸血行為)


 第三者として傍観しているナイツは、涼周の想いと飛昭の騒がしい謝罪が食い違っている事に気付きつつも、今は敢えて言わない事にした。


「……いける……!」


 手に取った魔銃の銃口が光を発し、瞳に赤光が宿った時、涼周は闇を払う声音で呟いた。

そして噛み付いた傷口から飛昭の血を左人差し指で拭い取り、自らの右手の甲を左中指で切りつけて返す方向に従って滲む血を拭い去る。


魔銃マガン全開!」


 涼周はベロケへ向かって魔銃を突き出した。その声に再び応えた魔銃・ターコイズが大量の魔力を放出し、涼周達を守る黒霧の渦を発生させる。

一度光の粒子となった後に大型銃に再構築した魔銃が、闇夜でも映える輝きを放つと同時に、涼周自身も唇に二種の紅を塗り終わる。


「ターコイズ、皆を守って!」


 黒霧の渦が晴れ、代わりにシラウメの花が舞う。

白き花弁は美しくも優しく涼周を包み、汚れの一切を払って淡く消えた。


「輝士兵、カイヨー兵。一度下がれ。敵大将までの道を広げろ」


 中型艦にいる者は元より、追い掛ける大型本艦から見る者まで、戦場にいる全ての人間が涼周に釘付けとなる中、ナイツは味方兵の身を退けさせる。


「お前達は俺の目に映らない!」


 敵大将までの道が開き、味方の巻き添えを気にする必要がなくなった涼周はベロケ一味を勇ましく指差した。


「彼女は人に寄り添い人を想う姫」


 上唇に塗った飛昭の血を舐め取り、黒色に輝く闇の魔力を顕現させ、彼の魔力を帯びた左手をターコイズに添えて魔弾として装填。


「其の者が望むは全てを守る慈愛の心」


 次は下唇の自らの血を舐め、黒霧として顕現した闇の魔力を装填する。

同属性の魔力は涼周の詠唱を受けて一段と凄まじい威風を放ちながら融合。

強力な魔弾を更に強力にして、威圧だけで悪漢どもの腰を抜かさせる。


「悪を拒め! 月影姫ゲツエイキ シャラ‼」


 突き出された魔銃が大砲の砲撃音に勝る轟音を以て超強化魔弾を発射。

魔弾は外気に触れると同時に漆黒に輝く盾を作り上げ、光線の様に尾を引きながら突進。


「ひゃ……ひぃやぁー⁉」


 そしてベロケまでに至る悉くの賊兵を討ち消し、一瞬の間に彼が感じる最大の恐怖を抱かせ、貫通とともに闇に沈める。

標的を撃ち抜いた漆黒の盾は、空気を切る閃光に近い光音を発して霧散。黒霧へと姿を変えて残りの賊兵を包み込み、意識を奪って伏せさせた。


「あれがカイヨー兵を救ったという幼子か……! 何と……真、想定以上!」


 涼周の能力や人柄。一連の騒動を経て、かの要素を見極めた楽荘。

彼は作った人格を忘れる程の興奮を覚え、涼周の姿を目と心に深く刻み込んだ。


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