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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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人質


 ナイツ達が奪取した海賊団六番艦による集中砲撃は功を奏し、敵本艦右の中型艦は大きく損傷。甲板上、艦内ともに多数の死傷者を出して足が止まった。


「はっ! とうっ! さぁっ!」


 飛昭は魔力を込めて格段と飛距離を増した飛刀を投げて、敵本艦の砲主を狙い撃ちする。


「涼周様、右中型艦から二門の砲撃ありです!」


「ぅん!」


 一方の涼周もカイヨー兵からの声を聞くや否や、まだ生きている右中型艦の攻撃を魔弾で迎撃。

二人して鉄壁の防御を生み出す事で、六番艦は苦もなく敵本艦に迫った。


「ぶつかるぞ! 耐ショック姿勢をとれ!」


 勢い緩める事なく、ナイツ達から見て敵本艦右側面に接舷。


「にゅおー」


 船体の擦れ会う轟音と衝撃が両艦に広がり、姿勢を崩して転がりそうになった涼周を飛昭が抱き止める。


「今だ、俺に続け! 銃兵は援護射撃を始めろ!」


 揺れが収まると同時にナイツは敵本艦への移乗攻撃に移り、三十名の銃兵には射撃を、残りの白兵部隊には突撃を命じる。


 それに対応して賊兵も迎撃にでるが、彼等はまず先に一斉射撃を受けて大きく崩れた。

数を頼りにする賊兵達はそれでも構わず突っ込んで来る。だが賊兵と輝士兵がぶつかるより先に、輝士隊銃兵の弾込め中を補う以上の活躍を見せる者達がいた。


「飛刀攻撃開始! ナイツ殿を援護しろ!」


 飛昭を隊長とするカイヨー兵五十名で構成された、涼周護衛部隊だ。

彼等カイヨー兵は狙いを定めるのに二秒、飛刀動作に一秒、敵に当たるまでに一秒、計四秒弱で離れた所から敵を撃ち取る。

訓練された輝士隊銃兵が弾込めから射撃までに十五秒以上を要する事を考えれば、カイヨー兵の連射速度は凄まじく、飛距離と威力こそ銃に劣るものの、中距離の戦闘に於いては圧倒的な強さを誇った。


 更に、この五十名は飛昭が選りすぐった精兵揃い。直接的な戦闘に優れ、涼周の盾となる事を辞さないのは勿論、飛刀技術の一級熟練者でもある。


「おお……強ぇ強ぇ……!」


 肉弾戦展開より早くに賊兵の大半を射殺するカイヨー兵。彼等を横に弾込めする輝士隊銃兵は、その凄さに引き気味に声を発した。


「はっ! とうっ!」


 そして飛昭と涼周は、兵達の飛刀が届かない場所からの狙撃を行おうとする賊兵を一掃。

結果として甲板上の戦闘は一気に優勢となり、賊兵は逃げ出す者が多く現れた。

言うまでもないが、彼等はナイツ達の強さに恐れを抱いたのだ。

おまけに、賊兵達の中に次の様な言葉が広まり、彼等自身が敗勢に拍車をかけてしまう。


「あれは六番艦の奴等じゃねぇ! 短刀を投げる奴等なんて見たことないぞ!」


「間違いない! 昼間に戦った剣合国軍だ! 正規の精鋭部隊が六番艦を乗っ取ったんだ!」


 今まで六番艦の味方が反乱を起こしたのだと思っていた賊兵達が、目の前の六番艦乗組員の強さを前にしてその認識を改めたのだ。


 こうなると後は蜘蛛の子を散らす様であった。

ナイツ達の強さに怖じ気づいた賊兵達は海に飛び込んでもう一隻の中型艦へ向かって泳いでいく。海賊団大将であるベロケ・テーフォへの不満が高まっていた事も影響して、その数はあっという間に増え、もはや戦闘どころではなくなった。


「涼周、飛昭、楽荘。敵が俺達の正体に気付いた。お前達は艦内後方にある人質部屋へ急行してくれ。まだ残っている敵は俺達が相手しておく」


 海賊団内の反乱であれば、人質となった女性達はほぼ無関係。どれだけ暴れた所で、砲弾などを撃ち込まない限りは彼女等に危害が及ぶ事はないだろう。

だが相手が剣合国軍だと分ければ、悪知恵を働かせた撃退方法がある。

誘拐した女性達を人質にとる事だ。


 ナイツが残りの敵を相手する間に、涼周達は人質がいるであろう部屋を目指す。


「悪漢どもよ、我等の道を開けねば、その細首捻り折るぞ!」


 楽荘は破声一喝とともに、涼周と飛昭、二十数名のカイヨー兵の先頭を行く。

彼の左拳は、右手に持つ剣以上に多くの敵を討ち果たし、言葉通り賊兵の首を捻り折ってきた。

味方ですらその怪力に恐れをなすのだ。楽荘に迫られる賊兵達の恐怖は計り知れない。


「ここかあぁっ!」


 降伏した賊兵の指示通りに進んだ涼周達は、遂に人質のいる大部屋に着いた。

だが楽荘が扉を体当たり一つで粉砕し、涼周や飛昭が後に続いた時。その部屋の中には彼等や女性達ではない、招かざるクソどもがいた。


「……何て奴等だ。おい、誰も動くな! 動けば女どもはただじゃ済まねぇぞ!」


「ま……まじすか頭。俺達も動いちゃ駄目なんですか……」


「おめぇ等はいいんだよ! 動くなって言ったのは奴等にだ!」


 逃げ遅れたのか、はたまたこれを狙っていたのか。兎に角、海賊大将と数名の賊兵は気を失っている女性達に銃を突き付けていた。


「…………!」


「みょ……妙な真似すんなよ……すれば、一人でも多く道連れだ!」


 涼周の睨みが強烈なものになり、怯えたベロケが虚勢を張った。


(あれだけ密接されては飛刀を投げる暇すらない。それは涼周様とて同じか……くそ、どうする!)


 ベロケ達は目を光らせ、飛昭やカイヨー兵が身構えるのさえ見逃さぬ様子。

楽荘の隣で皆の先頭に立つ涼周は魔銃を持っているだけあって一層の警戒を抱かれており、黒霧を発生させようと手を振る動作さえ封じられる程に賊兵に睨まれている。


 然し、睨み合いが続く中で涼周が突然、魔銃を床に捨てた。


「……ちっ」


 飛昭達も涼周に倣って武器を捨て、道を開けようとする。


「ひしょう。……りょうしゅう、しばる」


 だがその時、口のみを動かした涼周が不意に呟く。飛昭は当然ながら困惑した。


「じぶん、ないとのこ。そのひとたちより……かちある。だからひとじち、はなす」


「⁉」


 その言葉で皆が理解した。

剣合国軍大将ナイトの子供となった涼周が、女性達に代わって人質になるから彼女等を解放しろとの意味だった。


「だっ……駄目に決まっているだろ! 涼周様は我々の盟主だ! 人質の代わりに差し出すなど……!」


「はやく! にぃにくる。にぃに、きっとひとじちもまきこむ」


 涼周の提案に猛反対を示した飛昭だが、次に発せられた言葉を聞いて黙ってしまう。

ナイツも涼周に劣らぬ優しさを持つ。然しながら彼の優しさは悪く言えば限られている。

この状況に面した彼はきっと、海賊という悪を逃がさない為に人質の数人を犠牲にするだろう。

将として、強いて言えば一軍を率いる次期大将としては、それが正しい判断にあたる。


 けれど涼周は違った。涼周は自分の事をあくまでナイツの弟としか見ていない。

見ていないから、自分を差し出すなんて判断を下す。


(……一般人さえ解放できれば、後は涼周様が霧を出して危機を脱せられるかもしれない)


「…………お前達はどうなんだ! この提案、乗るのか!」


 涼周の全員を助けたいという行き過ぎた優しさを重視した飛昭。

近くに落ちていた縄を取って女性達同様に涼周の両手を縛り、ベロケ達に問いかける。


「……悪くない話だ。だが、そのガキは得体の知れない力を持っていた。味方の戦艦に俺達が移るまでは、女を二人だけ此方の手元に残させてもらう。俺達が戦艦に乗り移ったら女は返す」


「それでいい」


 涼周と引き換えに、殆どの女性達が解放される。

彼女等の中には例の守護魔法使いも含まれており、彼女の使う魔法が厄介だと思ったベロケは残る人質候補から除外したのだ。


「無事で何よりだ。然し……涼周殿には、真に申し訳ない事を……!」


 目を閉じている魔法使いを抱いて、楽荘はそう言った。


 涼周や飛昭達はその女性が魔法使いとは知らず、楽荘の妹だと認識。

涼周はベロケ達の手の中にあって笑顔を見せた。


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