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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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なりすまし反乱


 檬屯湾モウトンワン海上 海賊団船内


 海上に停泊している九隻の海賊船。どれも錆びだらけで所々の損壊まで見られるボロ戦艦だ。

その中には本艦とおぼしき一隻の大型艦があり、船体にはかつて存在した国の紋章が刻まれている。残る八隻の中型艦を見ても元正規軍艦だった艦や、後付けの武装が目立つ元商船等々、様々な略奪船によって構成された船団だと分かる。


 そして今夜、集落から拐った女性が本艦に集められ、鬼畜どもの待ち望んでいた卑猥卑劣な宴が行われようとしていた。


「うおっ⁉ 何で近寄れねぇんだ!」


「おおぃ女! ふざけんなてめぇ! 魔法使いかよ!」


 そう、開宴前なだけで行われていない。否、行えなかった。

拐われた女性の中に、白く長い髪と薄黄色一色の目をした魔法使いがおり、彼女の魔障壁が自分を含む囚われの女性達を守っていたのだ。


「すみませんが、私はお腹が空いてしまいました。ご飯は、まだでしょうか?」


 とてもゆっくり、眠たそうに話す魔法使いの女性。

この状況に物怖じ一つ見せないどころか、海賊達に夕飯を要求する豪胆さを見せる。


「いや、その……俺達だって腹へってんだよ。だから海賊やってる訳で……」


「そうだったのですか。では私も、我慢しましょう」


 輝士隊が早く駆け付けた為に、多くの食料物資を収奪できなかった海賊達は腹も満足に満たせていなかった。

彼等は魔障壁の前に文字通り手も足も出ず、拐った女性を一箇所に集めた事を大いに後悔。

元々低かった士気を凌辱と略奪によって滾らせようと考えていただけに、この実りの少なさは彼等の鋭気を大きく挫かせた。

それは剣合国に喧嘩を売っていながら、その軍の領海内に留まるほどの落胆ぶりだった。



 宴が中止になった四時間後の深夜一時。海賊達の多くが寝静まった頃だ。

月光の下、黒い陣幕に覆われた二十ばかしの小舟の群れが、原動機を最低限の音で稼働させつつ、ゆっくりと海賊船団に近付いていた。


「……あの一番離れた所に停泊している船にしよう」


 先頭を進む小舟の中から顔を出し、侵入点を定めた者は他ならぬナイツ。

集落一帯に住む漁師の協力を得た彼は、輝士兵百名とカイヨー兵五十名、それに加えて涼周と飛昭、楽荘の三者を伴って海賊船団への潜入作戦を敢行していた。


「だいぶ近付けたな。涼周、この距離から霧を届かせられるか?」


「ぅん」


 本艦から一番離れた位置に停泊する戦艦まで、残り四百メートルほどの所でナイツは涼周に問う。

二つ返事で黒霧を発生させた涼周は、何とか甲板や見張り台に蠢く少数の影を倒す事に成功。暗闇に紛れて霧は見る事が難しかったが、気配から察するに発生範囲を絞る代わりに飛距離を伸ばした様だった。


 ナイツ達は船までの距離を一気に縮め、乗艦の先駆けは飛昭が務める。

飛昭は縄を繋いだ熊手を甲板の手摺に引っ掻け、手慣れた動作で甲板の物陰に侵入。

その間に立った物音は、熊手と手摺が噛み合った僅かな金属音のみであった。


(……よし、問題ない)


 気配を発する者が一人も居ない事を確認した飛昭が海上で待機しているナイツ達に合図すると、彼等は忽ち艦内への侵入を果たし、そのまま戦艦の占拠に移る。


「えぃ」


 涼周の黒霧と、飛昭等による飛刀を用いた音なき暗殺が功を奏して、占拠は迅速かつ無問題で果たされた。


 地盤を得た次は賊兵の衣服を剥ぎ取り、あたかも海賊の様相を作り出す。

そして気を失った賊兵を牢に押し込み、出入口には死体を積んで物理的に封鎖。

これでナイツ達は、この戦艦を任された海賊になる。


「では諸君、海賊になりきって暴れるとしよう。先ずは錨を上げて動ける体勢をとり、次に大砲の不意撃ちで本艦以外の戦艦の動きを止めてやれ。涼周も一緒になって魔弾を撃ってくれ」


 拐われた女性達が本艦にいる事を、気絶前の艦長から聞き出したナイツは本艦以外への攻撃を指示。大砲の射程圏内にある四隻を部下に狙わせ、涼周には範囲外に位置して且つ本艦の影に隠れていない二隻を狙わせた。


「ではでは……反乱、開始っ!」


 手拭いを額に巻いた海の男風のナイツが、海賊船団へ向けて剣を掲げて号令を下すと同時、炸裂弾を装填した大砲が一斉に火を吹く。


 静寂に包まれていた海上は狂騒の戦場へと一変した。

海賊団から見て味方である筈の戦艦が突如裏切り、中々に精密な砲撃を行ったともすれば当然の反応だ。


「ああ⁉ 六番艦の奴等、何しやがんだ! ぶっ殺したれ!」


 報告を受けた海賊団大将のベロケ・テーフォは激怒。ナイツ達が乗っている六番艦の味方が反乱したと捉えている彼は、当戦艦への集中攻撃命令を下す。

だが鍛えられた精兵でも戦闘の専門家でもない賊兵が行う、動揺下の攻撃など高が知れていた。とてもじゃないが、集団の結束と個々の想いが強いナイツ達に敵うものではない。

抑々にして賊兵の殆どが戦意のない状態であり、戦闘放棄する者も少なくなかった。


「けっ、子分を食わせられねぇ! 女も抱かせられねぇ! 挙げ句に反乱も起こされる。あんな船長についていけっか」


「野郎共、俺はベロケの為に死ぬつもりはない! こんな戦場、さっさとおさらばするぞ!」


 数を頼りにする烏合の衆はいとも簡単に崩壊していった。

一人の艦長が海賊大将を見限り部下と共に戦線を離脱すると、それにつられて更に二隻の船も本艦と味方を捨てて逃走を始めたのだ。


「あとは本艦と奥の二隻、そして操舵・反撃ともに不可能に近い鉄屑二つ。目前の大破船は無視して前進を始めろ! 砲主は俺の命令あるまで砲撃を中止! 残り僅かの弾を無駄に消費するな!」


 六番艦の砲弾所有数はナイツの予想に反して少なく、無駄弾を撃つ余裕はなかった。

初撃こそ奇襲という状況を活かした狙撃砲火で欠点を補えたが、次に相手するのは大型の本艦とその影に隠れて無傷に近い二隻。

実質的兵力はこちらの十倍以上と見ても過言ではないだろう。


「敵本艦の右側面に向かって全速前進! 甲板上の大砲に全ての残弾を集め、砲主は合図があり次第、敵本艦右の中型艦のみに集中砲火を浴びせて足を止めろ。そして本艦への接舷攻撃を行い、これを奪取した後に戦場を離脱する。こちらも多少の砲撃は食らうだろうが、俺が魔障壁を以てできる限り防ぐ」


 ナイツの作戦は即座に実行に移された。

六番艦は敵本艦の前方に中型艦二隻が出るより先に接近するべく、全速力で突進。甲板上にある大砲の殆ども右舷に集中して配置され、接舷攻撃に備えて九割の兵が甲板に待機する。


「砲撃開始!」


 やがて射程圏内を見極めたナイツが敵の機先を制す形で号令を下す。

二秒ほど遅れて敵本艦と右の中型艦も砲撃を始めた。


「全員、伏――」


「ひしょうっ!」


「お任せを! うおおおおーー!」


 迫り来る敵の砲弾から皆を守ろうとしたナイツが、大きめの魔障壁を顕現させようとした正にその時。

伏せる反対の「立つ」といった行為に出た涼周と飛昭が、魔弾と魔力飛刀を以て滞空中の敵砲弾の悉くを迎撃。

結果、ナイツは魔障壁を出す必要も活躍もなく、此方側からの一方的な砲撃で終わる。


「…………あれあれおかしいなー。俺の出番はー?」


「ぅ? ……にぃに、しきするっ!」


 言葉足らずに舌足らずな涼周曰く、ナイツは指揮に徹しろとの事であった。

勇姿を示さんとした矢先に弟とその側近に出し抜かれたナイツは、「穴があったら入りたい」とはこういう場合かと理解して顔を赤く染めてしまった。


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