衝撃的な出会い
集落に侵入した海賊を撃退したナイツは、民を避難させた後に仮の本陣を集落内に設け、海上部隊を率いていた韓任、李洪、メスナを呼び寄せた軍議を開いていた。
だが、そんな彼等の許に旅人を名乗る一人の男性が連れてこられる。
何でも海賊討伐隊の隊長、即ちナイツに会わせろと、陣地内に単身で突撃してきたらしい。
「……いや、縄締め付けすぎでしょ……」
輝士兵が十人がかりで運んできた丸太に雁字搦めされた男性を見て、メスナが呟いた。
「……こうでもしないと暴れ散らすので……」
捕縛作業と本陣への連行に疲れ果てた輝士兵達は、「よっこいしょ」の言葉が似合う惰性を以て丸太を地面に打ち立てる。
ナイツ達は丸太に拘束された男性に注目した。
彫りの深い顔と逞しく隆起した筋肉と韓任並み高身長、太く力強い眉毛と大きく見開いた眼が特徴的な、三十代半ばと思われる屈強な男だった。
「汝がこの部隊の隊長殿か」
そして声が低いこと低いこと。分かりやすいイメージ対象を言うならば、正に金剛力士であろう。
「ああ、海賊討伐隊の指揮を執っている剣合国軍のナイツだ」
男はその名を聞いても表情を変えなかった。
仮にも旅人と名乗るならば、ある程度の情勢を掴むとともに、自分が滞在している土地の統治者ぐらいは知っているものだ。
なればこそ、この剣合国を治めているナイトの嫡男たるナイツの名前を聞けば、何かしらの動揺を見せて当たり前である。だがこの男にはそれが一切ない。
ナイツは男の名乗った身分が偽りであると見抜き、一気に不信感を抱いた。
「軍の陣地に一人で殴り込むとは、余程肝の据わった人物だな。気配からしても、単純な馬鹿には思えない。……果たしてお前が旅をする理由とは、如何なるものか」
「妹の奇病を治せられる者を探している」
男は厳めしい表情を崩す事なく言い返した。その反応の早さと気配からは、男が嘘をついている様には思えなかったが、それでもナイツの疑心は晴れなかった。
「……疑って悪いが、手練れの間者ほど、こういったやり取りを得意とすると聞く。お前の素性を話し、その後に本陣に殴り込んだ訳を聞かせてくれ」
彼の問いに、男は落ち着いた様子で淡々と答え始める。
「名は楽荘と申す。大陸東方、奥州平泉の出身。我が家は代々藤原氏に仕える豪族だが、我は四男であり、家督は兄が継いでいる。……そして我の妹は、人に言い難い奇病を持つ。だが、とある商人筋の話では西方にいる治癒魔法使いが、妹と同じ病の者を治したとあり、我はかの者を求めて妹を背負い、旅に出た。それが昨年の事」
東方の外交勢力・藤原氏。
良質かつ多量な砂金資源を元手に多くの勢力と外交を行い、様々な貿易で巨万の富を築き上げ、今では他勢力間の戦争仲介行為まで引き受けている。
東方の戦争が中枢や西方、北方に比べて少なく緩いのも、藤原氏の影響が大きいと言える。
かの外交勢力は、正に調停者と呼べる存在であった。
「そして旅路の中、立ち寄った集落で妹が海賊に拐われたのが今日の事っ‼」
厳めしい顔に幾つもの青筋を浮かべた楽荘は、己の不明が招いた惨事に怒り狂い、筋肉を更に盛り上がらせて服ごと縄を破り捨て、直接手を下さずとも丸太を粉々に砕いた。
「ちょっとぉ⁉ 悔しいのは分かるけど全裸はやめなさいよ!」
下着まで完全に粉砕した楽荘は生まれたままの姿となり、強靭で逞しく、輝かしい漢の肉体を惜しげもなく公開した。……メスナと涼周の目の前で。
「ってぇオイ! 見ちゃ駄目見ちゃ駄目! あんた等も早く布持ってこい! あんたは仁王立ちするなっ!」
彼女が顔を赤らめ視線を右に逸らした先には、夕日の後光を浴びて輝く楽荘の肉体をまじまじと見つめ、熟れたトマトの如く顔を真っ赤に染めた涼周が思考を停止させて直立していた。
メスナは涼周の両目を即座に手で覆い、兵達に服の代わりになるものを持ってくるように指示を出し、恥じらいなく堂々と立つ楽荘には隠す事を強要する。
だが楽荘は、真剣な眼差しのままにナイツに迫り、雄々しい色気を武器に嘆願する。
「ナイツ殿! 切に願う! この楽荘を討伐隊に加えられたし! 妹を……取り戻すのだ!」
「お……おう、分かった。分かったから離れて。あと裸にならないで……」
今さっき輝士兵達が羽織らせた服を大声とともに破り捨て、彫像として残したくなる程の芸術的な裸体を再度露にした楽荘。
それでも真剣な眼差しに変わりはなく、彼が如何に妹の存在を大事にしているかが良く分かった。
涼周を想うナイツもその熱意には尊敬したが、同時にこうとも思った。
(くっそこいつ苦手だ! 父上と同じ気配がするもん!)
本音を堪えただけでも、ナイツは大人だった。
「……これはこれで捕縛しておきたくなるような……大層な……ですね、韓任殿」
「……確かに。負けているのに悔しさを感じないのが……何とも言えんな李洪殿」
心身ともに本当の大人である李洪と韓任の二人が、思い思いの言葉を口にしている事が何よりの証明であろう。
「……めすな……すごくおおきい」
「大きいのは私じゃないでしょ! ……それと、やっぱり手遅れだったみたいね……」
著しい語弊に対して声を荒げたメスナだが、次に発した言葉はかなり消沈していた。
ナイツと向き合う形で立てられた丸太。そこに拘束されていた巨漢。ナイツの隣にいた小柄な涼周。……この状態で巨漢が全裸になれば、涼周の目線の高さには必然的にアレがくるのだから。
これが涼周にとっての楽なんちゃらさんとの、壮絶すぎる初対面であった。
この出会いに関して、後にこのような台詞がある。
「お前は俺の目に映ったけど、あれほど強烈なもの今までになかったよ」




