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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
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浮いて映る万能将軍・商吉


「何、レトナ国が承土軍の急襲を受けて陥落しただと⁉」


「おいお前等――どわぁっ⁉」


 もたらされた報告に、ナイトは胴上げを中止して伝令の方を向き直る。

彼の親衛隊も同様の態度を見せた為、長い滞空時間を経た後に、バスナは地に落ちる。


 それでも軽症で済む所に、彼の得体の知れない頑強さを感じるが、手放したナイト達を責めるより先に事態の確認を優先する姿が、如何にもバスナらしかった。


「……攻め入ったのは誰で、レトナ国主のバイザー殿はどうなった?」


「攻め込んだのは錝将軍・衡裔が率いる一軍です。数は不明ですが、昨日のうちにレトナ国を陥落せしめ、国主バイザー殿は捕らわれた後に殺害されたようです。麻崎(マザキ)地域の守備に着いていた弟のオルマ殿も、敢え無く討死したとの事」


 祝勝の喧騒は一転して皆の心を消沈させた。


「父上、軍師からの緊急報告はどの様なものですか」


 その場に駆け付けたナイツは皆の曇った表情を一目見て、義士城の安楽武よりもたらされた報告が良からぬものであると察した。

彼は改めて報告を受けると、この状況から想定される事態を黙考し始める。


「……レトナ国の民はどうだ? カイヨーのような惨禍に見舞われたか?」


 親衛隊から渡された軍服を着たナイトが、伝令に尋ねた。

盟友を失った事も重大な事件ではあるが、殺されてしまった後ではどうにもできない。

ナイトにとって今、優先すべきは彼の盟友が昨日まで守っていた民の身を案じる事であった。


「レトナ国民は城内、郊外の集落に至るまで、殆どの者が無事だそうです。その理由は衡裔が戦時中の無用な殺生を禁止したからにあり、安楽武軍師曰く、「寄り道を封じる事で電撃的な速度を生み出し、一気に城に迫った」……との事。現在もレトナ国内の民は落ち着いているそうです」


 レトナ国は一国一城の勢力。

然し、人口・財政・人材に於いては沛国の三倍もの豊かさを誇っていた。

かの国最大の武器は官民一体の固い結束。

民の数は非常に多く、城外にある集落も然り。特に国主の弟・オルマ自らが統治・守護する麻崎地域は、一大鉱脈都市として他国に知れ渡る程の賑わいを見せており、レトナ国主兄弟はそこから得られた富を独占する事なく、殆どを国民の為に還元してした。

故に一国一城の小勢力でありながらも優れた人材が集まり、外交交渉を駆使して承土軍と対等に渡り合い、剣合国軍とも友好的な関係を築けていた。


 そんなレトナ国軍が僅か一日で滅亡したというのだ。剣合国軍の援軍を望めない状況下にあった事は確かだが、それにしても脆すぎるというのが率直な見解であった。


「……流石に承土軍第一武将たる衡裔は、よく部下を躾ているな。一切の動きを悟らせない用兵術と言い、真厄介な存在だ」


 バスナを含む剣合国軍の諸将は、衡裔の実力を甘く見ていた。

そして今回の一件は、高々ラクウトゥナ小大陸の一豪族に過ぎなかった承土を、強豪勢力の大将にまで登らせた衡裔は伊達ではないと、認識を改めざるを得ない出来事だった。


「……それと安楽武軍師からの伝言ですが、承咨の身柄交換の条件について、カイヨーの守備の難しさを考えれば以下のような要求が最善であると…………」


 伝令を通して安楽武はナイトに進言した。


「……仕方ない……か」


 ナイトとバスナの二人は、今はそれが一番だろうと同意を示す。


「…………」


 だがナイツには、その考えこそが甘いのではないかと感じられたのだった。



 承土軍から軍使が到着したのは、それから数時間後の事である。


 遣いとして現れた者は商吉。

尤も、承土軍陣営には彼しか交渉を担える人材がおらず、他の将軍は脳筋ばかりといった状況である為に、彼が軍使となったのは当然と言えた。


「承土軍主将の商吉と申す。承咨様の身柄解放の件で参った」


 重装具に身を固めている彼は、一流の武官としての体格の良さ、筋骨の逞しさはあるものの、平均的な成人男性並の背丈が如何にもずんぐりとした様を見せ、彼本人に冴えない印象を与えていた。


(……これが商吉。前哨戦でメイセイの思惑に気付きはするも、ブイズを制御できずに自らも一敗地にまみれた将軍。現にこいつの部隊は、本戦では後方支援や予備隊としてしか動けなかった)


(……ぷりんおじさん……浮いてる……かわいそう)


 商吉の外見に対する考えも、ナイツと涼周では大きく違っていた。

見かけ通りの鈍重な戦がお似合いで、精々粘り強く耐える防衛戦こそが彼の真価を発揮する場だろうと兄が見れば、器用貧乏な性質のせいで地に足が着いておらず、充分に活躍できる環境に居ない不遇の良将だと弟は見抜く。


「ご苦労。……貴殿が音に聞こえる商吉将軍か。何事に於いても期待通りの働きを示すその手腕、敵である俺の耳にはよく届いている。一将軍の座など、才ある貴殿には相応しくなかろう。何故もっと上の位を求めたりしないのだ?」


 そして面と向かいあって目を合わせたナイトは、商吉の事を涼周以上に見抜いた。

開口一番に敵将の才能を誉め称え、その地位の低さを指摘するナイトに対し、商吉は笑みを交えた謙遜を以て答える。


「何の、私より優れた者は多くございます。それ故に左様なことは考えたこともござらん」


「…………謙虚な事は美徳かもしれんが、過ぎたるものは結果として何も生まんぞ。今のままでは変わらぬ期待を背負わされるだけだ。よく覚えておかれよ」


 商吉の返事が期待外れだったかの様に、ナイトは声音を下げた。

彼は敵将の利となる忠言を言い捨てた後、自らが振った話題をばっさりと切った。


「さて、前置きも程々にして、早速本題に入ろう。……難しい話は無しだ。承咨の交換に値するものとして、我等が望むものは四つ。虜兵となっているカイヨー民兵とその人質の即時解放、亡命を望む一般民の解放、占領したばかりのレトナ国の全ての者から財を搾り取らぬ事、そして承土軍との停戦だ」


「ほぅ、これは……」


「……難しいのか?」


 一瞬だけ凄んで見せたナイトに、商吉は首を横に振る。


「いえ、私はてっきり、もっと盛大な要求をされると思っていました」


 その一言に、ナイトとバスナは苛立った。

考え方は人それぞれ、特に剣合国軍と承土軍では真逆のものもあろう。

だが「盛大な要求」。ナイトとバスナにとって、民の命と財を守る事が正にこの言葉に当たるのに対し、商吉はそれを軽微なものと捉えていた。

差し詰、商吉にとっての盛大な要求とは、国の財政が崩壊しかねない程の多額の賠償金や、承咨を永久に人質とする事で承土軍を従属化させると言った内容だろう。


 軍人としての考え、又は感情を抜きにした戦略眼という観点からすれば、商吉や前述したナイツが正しいだろうが、ナイトと彼に従う仲間衆は、それが嫌いであった。


 承土軍から見て、敵国である自分達の恐怖的要求を仮に通したとして、その皺寄せで苦しむ者が罪のない民である事を彼等は知っており、例えそれが敵地の民であるとしても、自分達の戦で必要以上に苦しめたくないといった考え方なのだ。


「……簡単な要求ならば、即刻聞き入れてもらおう」


「承った」


 不機嫌な様を見せるナイトに反し、商吉は全く顔色を変えていない。

如何にも腑に落ちないナイトだったが、両軍の沽券をかけた無駄な交渉に時間を裂く必要がないだけでも良しとした。


「商吉殿、最後に一つ聞いてもよいか?」


 一通りの話がまとまり、商吉が席を立って帰ろうとした時、バスナが質問を浴びせた。


「私に答えられる事ならば、ようございます」


 顔色を変えぬ商吉からその返事を聞くや、バスナは気になった事を尋ねる。


「将軍のあんたが昨日の今日で来て、此方の要求を即座に受け入れた。それは承咨が捕縛されてから今に至るまでの間に、上役からの指図を受けた事に違いないだろう。その上で、交渉材料として妥協できるもの……いや、この際は俺達が求めるであろうものを聞かされていた筈だ。……その上役が誰なのか、教えてほしい」


 バスナの問いに対し、商吉は二つ返事で答える。


「我等が錝将軍・衡裔にございます。今更、彼の実力を隠す必要はないでしょうから、色を付けてもう一つお教えするならば…………この流れも、想定の内でしたぞ」


 ただ、最後の一言を発する際だけ、商吉の雰囲気が一転した。

剣合国軍に忠告する様でいて、自軍の錝将軍の恐ろしさを、重圧を乗せた声で語ったのだ。


「……そうか、かたじけない」


 バスナは心の中で舌打ちした。


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