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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
涼周の仁徳
73/448

いいなーいいなー、かーくごーはいいなー

2019/10/24


五章に入りました。現段階では第一部の三分の一辺りです。


「遜康攻略に失敗した承土軍は国境辺りまで軍を下げ、剣合国軍への攻撃行為の全てを停止した。

その間に遜康守備軍はナイト率いる本軍と合流。敵側からの軍使を待つ。

だが、優位に立つ彼等の許に良からぬ一報が届いたのはその直後であった。

剣合国軍の諸将は皆が同じ事を思ったという。

「錝将軍 蒼虎の衡裔、恐るべし」……と。

あの御方にとって身近な大敵となる存在が剣合国の盟友に牙を突き立て、一撃の下に食い果たしたのだった。


亡国に際し、剣合国の盟友だった国主の姪に当たる姫君は側近の手で逃がされ、雌伏の時を待つ事となる。

そして、後にあの御方の後ろ楯を得た彼女が国を再興する話は、後述に記す」




 慈経州遜康ジケイシュウソンコウ 前線地帯


 総代将・承咨が捕縛された事で承土軍は戦闘継続が困難な状態となり、国境付近まで兵を退いた。


 開戦初日で敵に決定打を与えた剣合国軍は、この戦果にわきにわいた。

中でも翌日に合流したナイトの喜びは一際大きなものであり、陣に着き次第、バスナの胴上げ大会を執り行う始末。

理由は単純。一番目と三番目に胴上げされる予定だった涼周とナイツが後者の手により姿を眩ませ、バスナのみがナイト親衛隊に囲まれて逃げ場を失ったから。


(あいつ等逃げやがったな……!)


 上半身が裸のムキムキゴリマッチョ筋肉自慢ナイト親衛隊の、肉壁と汗の滝とはぁはぁ吐息に囲まれたバスナ。

義将ともあろう彼が、極限の地獄に自分一人を取り残した兄妹を逆恨みしていた。


「よぅし俺は準備完了。覚悟はいいか親衛隊の諸君!」


「おっう!」


 堂々と褌一丁で現れたナイトの声に、親衛隊は熱く魅惑的な吐息で答える。

それは満身創痍な戦友でも、愛が冷めた夫婦でも、老い先短い翁等、様々な事情を抱えた者達に明日を生きる希望を抱かせる傾国の美漢吐息だった。

輝士隊所属にして後世の名画家であるイタンヘ・デジマが、この絵になる息を見逃す筈はなく、彼の代表作の一つたる「ゴリラの吐息は千の武器、万の心」を生む元となる。


「バスナを良い子良い子してやりたいか!」


「おっう!」


 一斉に力こぶを作って汗を散水し、周囲の気温を下げる心優しき親衛隊。


「俺は人界一のハンサムかぁっ!」


「おっ……う……ん?」


 同意を得られなかったナイトは一拍の意気消沈を置いた後、バスナに話題を振る。


「…………剣義将バスナァ、お前はどうだぁー! 今、嬉しいかぁっ!」


「全然。寧ろ、むさい大将の顔を見て元気を無くしたわ」


 バスナの毒舌に再度意気消沈を見せるかと思いきや、ナイトはそこまで子供ではない。


「……俺の心にお前は映らねぇー! 恥刑執行ゥー!」


「うおおぉー! そーれワッショイワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!」


「おい待て止めろ、降ろせ! やはり罰ゲームだろうこれっ! ふざけるなっ! 抑々何故お前がその台詞を知ってるんだ! 居なかっただろお前!」


 前言撤回。子供らしき怒りを顕にしたナイトは自らも親衛隊に混ざってバスナを胴上げする。魔力込みの威力を以て高く高く飛ばす。


「見てみ涼周、父上が作り出すあの地獄を。お前はあんな大人になっちゃ駄目だからな?」


「んぅ? たのしそう」


「…………まじか」


 毬の様にバスナが宙を舞う様子を離れた櫓上から眺めるナイツと涼周。

前者は足下で特大プリンを食べながらナイトと愉快な仲間達を見て笑う後者の反応に、一抹の不安と一筋の冷や汗をかく。


「にぃに……あのひとたち、どうなる?」


「砦に攻めてきたカイヨー兵達の事?」


 頷く涼周を見て、ナイツは大空を飛ぶバスナに再度、目を向ける。


「バスナと父上の意見は一致してるよ。承咨の解放とともに、今回の戦に駆り出されたカイヨー兵達も解放されると思う。後は、交渉次第でどれだけのオマケを付けられるかだ」


「……ぅ? おまけ?」


 下唇にプリンの残しを付けている涼周が、ナイツを見上げて疑問符を浮かべる。


 そんな様子に可愛らしさを覚えたナイツは、右手で涼周の頭を撫でてやり、左手で自分の唇のプリンが付いている位置を示して暗に分からせようとした。


「……むぅ……ぷりん、はえた!」


 兄の示した部位を舌で舐めとった涼周は、プリンの味がした事で自分の唇からプリンが生成されたと笑みを作る。


 そんな筈ないだろと、ナイツは苦笑しながらも、涼周が聞き返したオマケについて説明する。


「要はカイヨー自体を解放させられるかだ。本来ならば、こっちの方が主目的だが、父上達にとっては民あっての国だからな」


「にぃには、にぃには?」


「……俺も同じと言いたいが、一方で父上達の考えは甘いのではないかとも思う。承土軍次期大将の承咨、これを今すぐに解放せず、長期的な人質として承土軍を有効利用する手は幾らでもある。多くの水域に面する奴等の水軍は精強で、立地的にも覇攻軍の本拠地・ナルマザラスを急襲する事も可能。陸軍を北上させて梓州豪族連合や三木家、小勝家、木曾軍、アバチタ山岳軍等の討伐をさせる事だって……」


 言って、ナイツは涼周の視線に気付く。

感情を抜きにした戦略的思考を見せた彼の顔に、涼周は若干の濁りを含んだ目を向けていたのだ。


「……ん、まあ、詰まる所……俺も父上達と同じだ」


 歯切れの悪い返事に、ナイツ自身が苦笑する。

他人の忠告や自らの失敗は素直に受け入れる彼だが、感情に頼る考えは苦手であった。

涼周は数秒だけ俯くと、短く反応して小さくなったプリンを飲み干した。


「若、それに童ちゃんまで、ここに居たんですね。大殿が捜してましたよ」


 梯子を登って姿を見せたメスナが、ナイトがナイツを捜していた事を伝える。


「……あれを見ても父上の所に行けって言うの? 先に言うけど、絶対に行かないよ」


 ナイツは顎を使って、大気圏に突入しそうなバスナを示してやった。


「た……た……た……。……楽し、そうじゃ、ないですかぁ」


「どこがっ! 俺は昨日の跳躍で充分だ! ……あれだけでも恐かったのに、次は涼周の霧じゃなくて父上達筋肉マッチョが緩衝材なんだよ。飛んでも地獄、落ちても地獄。絶っ対に嫌だ」


 頑として拒否するナイツに、今度はメスナが苦笑する。

確かにあれだけは、誰であっても思春期とか関係なく嫌であった。


「お、あれは……」


 暫くして緊急を報せる赤旗を持った伝令兵が、情報部の幕舎から現れて、ナイトの許へ駆けていく姿が目に映る。


「……メスナ、ちょっとだけ涼周を見ていてくれ。少しだけ父上の許へ行ってくる」


 ナイツはそう言い残すと、梯子の両端に手を滑らして一気に櫓を降り、依然馬鹿騒ぎをしている愉快すぎるアホ達の所へ向かった。


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