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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
存在と居場所
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総代将同士の一騎打ち


 砦内部の戦場、時は少し戻る。

バスナが出撃してカイヨー兵等と交戦したのと同じく、賀憲も押され始めた戦線を維持する為に陣頭に立って兵を鼓舞して回っていた。


「あれは敵の指揮官か」


 元飛刀香神衆の頭目である侶喧リョケンは、遠目ながらも賀憲の姿を確実に捉えた。

彼の飛刀術は飛刀香神衆の中では第三位の実力を誇っており、空を飛ぶ小鳥を撃ち落とす程の腕前と速さ、そして飛距離を有する。


「貴殿に恨みはないが、家族の為……!」


 飛刀が賀憲に向かって宙を疾駆する。

然し、余念が彼の飛刀術を鈍らせてしまい、飛ぶ鳥に逃げられる速さを以て賀憲に迫った。


 当然の様に剣で弾いた賀憲は、飛刀の方角に目をやって侶喧の存在を認識する。


「あの距離から届かせるか。さては飛刀香神衆の中にあって相当名の知れた者であろう。銃兵はあの台の上にいる男を狙い撃て!」


 小屋や櫓等の高所は全てバスナ兵が制しており、戦線も内側に下げた事で壁上や階段からの飛刀攻撃もない現在の地の利は賀憲隊にある。

それ故、侶喧の様に台座を用いる者は敵中に於いて一際目立った。


 バスナ兵の多くが侶喧に注目し、僅かな間ではあったが兵力がその一点に集中した正にその時、薄れたバスナ兵の壁を切り抜ける小隊が現れる。


「賀憲様、五時の方角より新手です。カイヨー兵ではありません」


 突然の躍進を見せた敵の小隊に、賀憲の護衛小隊は防陣を組んで当たろうとした。


「遅い」


 だが一人の青年が流水の如く洗練された動きを以て合間合間をすり抜け、護衛兵とのすれ違い様に多くの首を切り落としていく。


 守る事に関しては一流を自負する護衛兵が備えを形作るより先に、青年はたった一人で敵本陣に乗り込み、敵将の目前に迫ったのだ。


「貴さ――」


「遅いと言っている」


 賀憲が剣を振るうよりも速く、青年の剣はその首を刎ねた。


「賀憲様⁉」


 配下の兵を筆頭にバスナ兵の殆どが、賀憲の呆気ない討ち死にに声を上げた。

知勇兼備の名指揮官として知られ長くバスナの副将を務めた人物が、単身で切り込んだ青年にいとも容易く討ち取られてしまったのだ。


 この青年が誰なのかは言うまでもない。承土の嫡男にして次期大将・承咨その人だ。


「敵将、賀憲! 承咨様御自らが討ち取られたぞォー!」


 後に続いた承咨のお供衆がここぞとばかりに大声を張り上げる。

中には戦闘をそっちのけにしてまで大声を出した結果、バスナ兵に討たれた者もいた程だ。


 そうまでして承咨の武功を公表するのは、彼に取り入ろうとした訳が全てではない。

味方としては頼りなく且つ信頼できないカイヨー兵の中に少数で入り込んでいる承咨一行には、カイヨー兵の突然の離反を防ぐ為に何か大きな一手を上げる事で、自分達を敵以上の存在に持ち上げる必要があったのだ。


 そしてこの効果は殊更絶大であった。

敵将の撃破は当然ながら、カイヨー兵達の心に最も印象付けられたものは、承咨がこれ程の剛毅さを持ち合わせていたという事に他ならない。


 「謀略家なれど机上の戦術家」との異名を持つ根っからの陰湿大将である父・承土と「白の為政者なれど病弱家」と揶揄されている弟・承象ショウショウを持つ承咨は、他国の者からは父弟と同じ文官肌として見られる事が多かった。

実際、幼い頃の承咨は武芸よりも書物に耽っていた。

だがその書物が歴史書や兵法書だった事が、彼の武官としての始まりでもあったのだ。

若しくは父や弟に無いものを自らが補おうとする優しさが、彼の根本にあったのかもしれない。


「承咨様、ここは充分です。一度下がりましょう」


 承咨が見せた勇姿が良くも悪くもカイヨー兵を勇気付け、勢いを増した突撃が混乱に陥ったバスナ兵を圧倒していた。

この場に居てはその勢いに巻き込まれ、更なる危険地帯に踏み入ってしまうと危惧した側近は承咨に一度後退する事を進言する。


「構わん、私自身も大分乗ってきた。このまま一気に攻め込むのも一興であろう」


 然し、承咨は不敵に笑って忠告とも言える進言を却下してしまう。

この時点で充分すぎる深入りであるとお供衆の誰もが思っていたが、承咨の強引な姿勢が彼等を引っ張り、結果的に更なる進撃をするに至る。


 賀憲が戦死した今が絶好の狩り時であることは確かだ。それに関しては間違いではない。

ただ世上の噂通り承土父子、特に承土と承咨は、やはり人の感情に疎い人物だった。

第一部下の討ち死にに際して、激情に駆られる者がいるなど想定すらしていなかったのだ。


「承咨ィ‼」


 その者は身体に魔力を、剣に殺意を込め、承咨目掛けて猛然とカイヨー兵の中を切り進んだ。


「あれは剣合国軍主将のバスナです! 承咨様、ここはお下がりください!」


 如何に承咨が武勇に長けているとは言え、剣豪のバスナが相手では分が悪い。

側近達は先程以上に後退を進言する。


「片目のない弱体化した敵を前にして退いたとあっては、世の笑い者となろう」


 それでも承咨は退かなかった。正確に言えば退けないのだ。

彼には承土軍次期大将としての面子があるだけでなく、ここで逃げればせっかく得た戦の流れを無駄にしてしまうといった戦略的理由があった。


「せぇっ!」


「はあぁっ!」


 神速を謳うほどの動きから繰り出された両者の剣は、交わる度に真空刃を生じさせて、周囲の敵味方の兵士を巻き添えに切り伏してしまう。


「はっ……離れろ! 二人に近付くな!」


 たった一合の間に十数人の兵が血も出さない肉片に成り果て、皆が我先にバスナと承咨の傍から距離をとった。

それでも目に止まらぬ剣速同士の衝突から放たれる余波の刃は、容赦なく兵達に襲いかかる。


「やべぇ! 下がれ下――ぐわぁっ!」


「もっと距離をとれ! 巻き込まれるぞ!」


 こんな密集地で殺りあわれては、魔障壁を使えない兵達にとっていい迷惑だった。

これには流石の郭滔や侶喧も割り入る事はできず、彼等は自分達ができる事に注力する。


「はああっ‼」


「ちぃっ……⁉」


 暫く斬りあった二人だが、やはり地力に関してはバスナの方が上であった。

刃を撒き散らす小型台風が本格的に形作られる寸前に、承咨が弾き跳ばされたのだ。


「……ふん、不慣れな戦いでありながら、これ程の力を見せるか。……だがそうでなくては貴様の名が泣くというもの」


「……喧しいぞ糞餓鬼。さっさと死ね!」


 追い打ちを掛けるバスナによって二人の戦場が移動し、大きく下がったばかりの承咨のお供衆が早速巻き込まれてしまう。


「……成る程な、これは私一人では分が悪いか」


 再度剣を交えた承咨はバスナの一閃を防ぐとともに身を翻し、全滅したお供衆に代わってカイヨー兵達の中に溶け込んで姿を消した。

正攻法での決闘を避ける事とした彼は、自身の能力を活かした戦法に出る。


「えっ……体が、うわっ!」


 周囲一帯のカイヨー兵が自分の意思に反して強引にバスナを取り囲み、バスナ兵との間に分厚い壁を形作った。それもバスナを正面に、彼の兵に背を向けた円陣。

バスナであれば簡単に切り抜ける事が可能な厚みではあるが、カイヨー兵は次から次へと動員召集されており、徐々に壁は厚みを増していく。


「くそっ……! バスナ将軍、今参ります!」


 郭滔達が背を向けたカイヨー兵を切り伏せながらバスナの許へ向かおうとするが、彼等の進撃と同じ若しくはそれ以上の速度で人壁が形成されており、逆に切り進むだけ屍が重なり合って道を塞いでしまう。


 そして当然の様にバスナにも危機が訪れる。

カイヨー兵が武器を向けた状態でじりじりと近付き、バスナとの間合いを縮め、彼の意識が拡散している時だ。


「せやぁっ!」


 承咨の魔力で生成された緑青色の刃が、カイヨー兵を貫いてバスナに迫った。

それもバスナにとって新たな死角となったばかりの左側から。


「ぐっ……はあっ!」


 一瞬の気迫を感じ取ったバスナは身を仰け反らせる事で、腹部左側面の刀傷のみで済む。

すかさず反撃を行ったが、彼の剣は一瞬前に絶命したカイヨー兵を両断するに留まった。


 すると次は背後から、その次はまた左から、次の次は右斜め後ろからの攻撃。

カイヨー兵の死に伴って繰り出される容赦のない承咨の連続突きは、バスナを心身ともに苦しめた。


「どうした剣義将! 貴様ならばこの程度の雑魚どもは一太刀の下に切り伏せられるだろう!」


 体を自由に動かせず、バスナに切られるか承咨に突かれるかの恐怖に顔を歪めるカイヨー兵を隠れ蓑にして、承咨は嘲笑う。


 既にバスナは三十を超える傷を負い、カイヨー兵の血肉が彼の足下を埋め尽くしていた。


(…………いい加減にしろよ……糞餓鬼)


 この凄惨な状況に精神を狂わせる程、バスナの心は弱くない。

だが彼の良心は限りなく限界に近い状態だった。麻痺していた。いつ裏返っても別におかしくない。


 吹っ切れたと言って、魔力を込めた剣を振ろうと決めた時だった。

剣を一度鞘に収め、渾身の抜刀技を放つ寸前だった。


「ばしゅなをいじめるなぁーーー‼」


「⁉」


 天空滅ぶ轟、もとい魔力をふんだんに使った甘く可愛い大声が戦場全体に木霊し、承咨は一瞬の動転を見せた。


「はああぁっ‼」


 バスナは機械人形の様に整然とした気配の中に揺らいだものを感じ取り、その場所目掛けて鞘から抜いた剣を切り上げる。


「くっ⁉ ……おのれ……!」


 カイヨー兵同士の僅かな隙間を縦方向に一閃した高速の刃は、移動中であった承咨のみを攻撃し、咄嗟の防御をした彼を大きく宙に浮かばせた。


「動く! 動くぞっ! 皆今だ、早く散れ!」


 更には承咨の傀儡魔法も本人の集中が切れた事で解除され、体の意思を取り戻したカイヨー兵達は侶喧の号令とともに蜘蛛の子を散らしてその場から離れていった。


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