悪将の部下達
数の劣る鶴翼にてブイズ隊八千を迎撃した輝士隊。
中央の要たる韓任隊が猛烈な攻勢を以てブイズ本隊を攻撃し、韓任本人もブイズとの一騎討ちで優勢に立っている。
韓任から見て左側の李洪と右側のメスナも、残していた五百の予備兵を上手く動かしながら当面の敵に押し勝っていた。
将兵ともに輝士隊が優勢であり、東部戦線で弱者相手に勝利を重ねただけの悪将とその下にある兵だけでは、この流れを巻き返す事は不可能だった。
「……ここだな。全騎兵は俺に続け!」
そして今、この状況を待っていたナイツが彼直属の騎兵一千と涼周を引き連れ、韓任と李洪の中間辺りからブイズ隊右翼に突入。
「ナイツが現れたと⁉ 何と愚かな。だがこれぞ好機! ブイズ将軍配下の十四将が一人、ツイコ・ケンヤイガナ・エマナ・イゴスノモが直々に討ち取ってくれ――あばぁー⁉」
「隊長が撃たれたぞ⁉ まだ名乗っただけなのに!」
「……」
走行専門騎兵の背中にくっついた状態の涼周が、魔銃の引き金を引いて魔弾を撃ち出し、名乗ったばかりの敵の部隊長を遠慮なく射殺。
「ツイコ・ケンヤイガナ・エマ…………仇は俺が――ぐはっ!」
「……討った……」
続いてツイコ・ケンヤ……なんちゃらの同僚でありながら、名前を言うのが面倒くさくなったのであろう部隊長も、離れた所から去り際に射殺。
彼もツイコなんちゃらが言っていたブイズ配下十四将とやらの一人なのかもしれないが、金輪際登場しないので名前など不要不要。
「お見事です弟君!」
涼周の小さな討ち取り表明を身近で聞いた涼周専属騎兵ルイ・ファーカが親指を立てる。
涼周は小さく頷き返し、護衛兵達は歓声を上げて敵隊長の撃破を周囲に知らせた。
「ふははっ! よくやってくれた涼周! ……さて、ブイズの首を獲りにいこうか!」
ナイツも敵中突破の最中に隊長首を一つ上げており、涼周の撃破数と合わせて三名の隊長がこの短時間に討ち取られた。
その結果、周囲の敵兵は混乱をきたし、ナイツ隊は当たるべからざる勢いを以て疾走。
前に出ている敵将ブイズの首を狙って一気に駆け抜ける。
「ぶはぁっ⁉」
一方、ブイズは想像以上の武力を有する韓任と六合に亘って刃を交えた末、思いっきり地面に叩き落とされていた。
というのも、ブイズの馬が韓任の矛の衝撃に耐えられず足を潰し、体勢を崩して落馬する所に韓任から追い打ちの一撃を叩き込まれたからだ。
「糞がぁ……! 痛ぇじゃねぇか!」
戟で何とか防ぎ致命傷こそ防いだものの、落下の衝撃は大きく、彼は背中を強打した。
更には馬が潰れた事もあり、これ以上の一騎討ちは実質的に不可能となる。
「お前達は将軍をお下げしろ! おい韓任! ブイズ将軍配下の十四将が一人、ヤマウが相手する!」
「ヤマウ、俺も加勢するぞ! 十四将が次席メッチェ、参る!」
上官の危機に際し、優れた馬術で韓任とブイズの間に割って入ったヤマウという将校。
次いで、十四将中の第二の実力者を名乗るメッチェとやらも韓任に迫って槍を繰り出した。
「ふんっ!」
上官を救う際に見せた決死の意気込みは良い。韓任はそれに関しては評価した。
然し彼からすれば所詮は雑魚の一人や二人。
メッチェとヤマウは充分に殺り合う間もなく、矛の一閃を受けて絶命する。
それでも二人の見事な馬術と死を恐れぬ気概がブイズの危機を救ったのは確かであった。
二人の将校が文字通りの盾となった僅かな時間内に、ブイズの護衛兵は急いで彼を下がらせ、韓任との間には他の兵達が死に物狂いで割り入った。
「韓任に向かって突っ込め! ブイズ将軍に近付けるな!」
「うおぉ! とにかく韓任に挑めぇ!」
「ブイズ将軍の為に、皆命を捨てろぉ!」
「ええい邪魔だ! どけっ!」
陣形も関係ない無茶苦茶な動きではあるが、火事場の馬鹿力とは侮れず、悪将ながらも部下達に慕われていたブイズは彼等の死体の山のお陰で下がる事に成功する。
「韓任!」
「申し訳ありませんナイツ様! ブイズに逃げられました!」
ナイツが合流した頃には、ブイズは既に姿が見えない安全圏まで後退していた。
その代わり、韓任の周りには死屍累々のブイズ兵によって骸の大地が形成され、韓任隊の全体が追撃に移るほどの攻勢に転じていた。
「流石に逃げ足が早いか。残念だが、今はブイズの首は諦めよう」
「でしたらこの勢いを活かして敵に大打撃を与えましょう。我が隊は現在、大きく敵の戦列を突き崩しています。今が好機です」
「よし、韓任隊騎兵及びに我がナイツ隊の全騎兵は俺に続け! 逃げ腰のブイズ隊中央を食い破り、奴等の裏を取る! この初戦で完膚なきまで打ちのめしてやるんだ!」
「オオッ‼」
ナイツと韓任は互いの騎兵を伴ってブイズなき中央の撃破を狙う。
要たる中央さえ崩してしまえば両翼などは自然と崩壊していき、将は残りながらも隊としては再起不能な程の損害を与える事ができる。
それも圧倒的優勢にある現在の戦況ならば容易い事であった。
だが、ブイズ隊が崩壊の危機にあることは承土軍側も重々承知している。
「はっは! 輝士隊とやらは噂通りの強さの様だ! やれ仕方ない。ブイズ殿には兵を下げるように伝え、代わりに我等霍恩隊が出るぞ!」
ブイズが後退した時点で第二陣の突撃が必要と判断していた霍恩は、陣内から轟く輝士隊の喚声を聞くや即座に動く。
彼は始めから、ナイツが率いる輝士隊はブイズ一人の手に余り、彼の部隊が早いうちから苦戦すると想定していた。
だからこそ霍恩自身に油断はなく、部下達も絶えず突撃の気構えを作って待っていた為に、号令が下ると同時に予め指示された行動に移る事ができた。
先ず一番手は右翼の騎馬隊三千。彼等は北東へ向かって突進し、輝士隊の陣の側面に回る。残る歩兵大隊一万一千はそれとは別に前進。ナイツ、韓任、メスナの追撃を受けながらも西南へ向かって退却するブイズ隊と入れ替わって陣に攻め入る構えを見せた。
この初戦でブイズ隊は三千近い兵を失い、実質的な戦力は五千ほどにまで減少。ブイズが誇る将校も多くが討たれる結果となった。




