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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
存在と居場所
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飛雷将メイセイ


 遜康の国境を超えた承土軍の先陣二万。本部隊が真っ直ぐ北上する一方、一千規模の中隊五つに索敵を兼ねて別々の方角に進ませる。

別動隊はその先々で見掛けた集落を片っ端から襲い、略奪や陵辱を行おうとした。


 然し郊外の民達はメイセイによる事前避難で既に姿を消しており、奪うに値する物も大して残ってはおらず、ブイズのもとには外れた報告ばかりが届く。


「ブイズ将軍、一番隊からの報告で……食料も女も金目の物も全てないって事ですが、民家の屋根裏に産まれたての子猫が八匹もいたらしく、部隊長が飼ってもいいかって?」


「アホか、戦場でどうやって猫育てるんだよ。そんなに欲しけら戦が終わったら俺ん家のブチ一匹やるから、今は物質探す事に専念しろって言っとけ」


「ブイズ将軍、三番中隊からですが……集落の中に裸の美女を模した銅像があって、これが破壊対象なのか金目の物なのか、はたまた性欲を満たす道具なのか判断を仰ぎたいと」


「あー難しいな……美女は見てみねぇと判別がつかん。一応戦利品として国に持って帰らせろ」


「将軍、立て続けにすみません! 一番東の二番隊なんですけど、何でも集落中央に大量の春画集(俗に言うエロ本)が落ちてたみたいで、持っていって大丈夫なのか聞きたいそうです!」


「それは士気が上がる物だから超必須だ。状態の良い物、絵柄がそそる物、幼女や人妻物を厳選して大事に運んで来い。後で全員で閲覧会だぜ!」


「うひょー! マジすか将軍!」


「最高っす大将!」


 各隊から寄せられる報告に一喜一憂するブイズ本隊。

子猫がどうとか美女像がどうとか幼女や人妻がどうとか、カイヨーで大虐殺した極悪人の糞どもが揃いも揃って何を抜かしてるんだか。




「…………メイセイ将軍の指示を疑いながら用意したが、まさかこんな罠が成功するとは……」


 挙げ句の果てに、エロ本に夢中になっていた二番中隊とやらはメイセイ直属の騎兵小隊の奇襲に遭って敗退。逆に物資を奪われる御粗末な結果となる。

更には商吉ショウキツが放った中隊の一つも森の中で伏兵に不意を突かれて被害を出し、運悪く隊長は討ち取られて首を持ち去られる始末。



 承土軍先陣は矛先の悪い出だしの中でひたすらに前進。

剣合国軍の前線砦を視界に入れた時には士気の低下が否めない状態にあった。


「壁の上に晒されている首は何か?」


 承土軍主将の一人、商吉が砦の南側防壁に吊るされている三つの首を指差して側近に尋ねた。


「難民を追撃した献隊長、制止の為に後を追ったキシュン隊長、そして森の中で伏兵に討たれた奏隊長のものではないかと……」


「ふむ……メイセイめ、我等を誘っておるな。だが安直過ぎる。ブイズ殿に伝えるのだ、砦の攻撃は敵の計略に最大限の注意を以て行うべしと」


 平野が多い遜康地域では、この前線砦が両軍の要地に当たると判断した商吉。

メイセイもそれを承知であの様な煽りを行い、承土軍の将兵から冷静を失わせて自らの流れに引き込もうと企んでいる。彼はその推測を根拠に警戒した。


「糞メイセイが……野郎ども、さっさと砦を囲え! ふざけた奴等を一人残らずぶっ殺すぞ!」


「然し、商吉様は敵の計略に用心して包囲しろと……」


「砦に籠った状態で何が計略だ。言うならば、そうやって俺達を疑わせて援軍到着までの時間を稼ぐ事こそが奴等の策だ。商吉の旦那が何か言うようならそう言い返せ」


 対してブイズは自身の側近の二人が辱しめられている事に怒りを示した。

彼は着いて早々に軍を展開、北東南を攻囲。商吉には無理矢理西に回らせる。


「攻撃開始だ! こんな砦、一発で攻め落とせ!」


 西の商吉に対して東に本陣を置いたブイズは、包囲が完成すると同時に総攻撃の号令を下す。

北に二千、東に三千、南に二千のブイズ隊。西に六千と北と南に一千ずつの遊撃兵を配した商吉隊。


 明らかな力の偏りを気にする事なく開戦したブイズと一定の警戒を行う商吉。

二人の対応の違いは性格の違いが影響したと言うまでもないが、無論それだけではない。

東部戦線にて弱小勢力の多くを常の敵とするブイズは直情的に攻めても勝利した経験が何度もある為に、それが常識化している。一方、中央に仕える商吉は主に剣合国軍やトーチュー騎軍、覇攻軍等を見ており、その実力を知る為に侮りがない。


 予期せぬ東部軍の奇襲によってカイヨーを攻略させた衡裔が、その後の遜康侵攻に際して商吉をブイズに随行させたのはそれ故であった。

霍悦軍の実質的な副将であり視野も広い名将ながら、ブイズと不仲の楽瑜よりも、ブイズ自身が少なからず好感を抱いている商吉の方が間違いは少ないと判断の末である。

だが、商吉に別段大きな権限を持たせなかった事が災いし、彼はブイズを制御するどころか「万能の才」を発揮する事もできなかった。


 話は戻り、総攻撃命令に従った承土軍兵は四方より喚声を上げて砦に迫る。

見たところ砦には多くの兵は配されておらず、最前線で指揮を執る将校達の目測では二、三千あたりと思われていた。


「うわあぁ⁉」


「なっ、落としあっ⁉」


「押すな! 止ま――ああっ⁉」


 承土軍兵が砦に近付くにつれ、壁上の守備兵の少なさから敵を侮り始めた途端の事。

落とし穴を隠すべく敷かれた、竹と布の上に土を被せた偽装地面を踏み抜いた前衛は大いに乱れ、先に落ちた者は後続の兵に圧され、その兵も次に落ちた者の下敷きとなる。

この時、出入り用の北門前以外がこの有り様となっており、承土軍はほぼ全体が混乱状態に陥ったと言っても過言ではない。落とし穴だけに。


「ちっ、小賢しい真似を! 気合いで進め!」


「やはり備えがあったか。急ぎ後退させろ、次が来るぞ!」


 ブイズと商吉の指示は完全に真逆の内容であった。それが西側商吉隊に接する南北ブイズ隊の混乱を加速させ、彼等の足を大きく止めてしまう。


「今だ! 撃ち尽くせェー‼」


 守備隊を指揮するメイセイの副将・陳樊チンハンの破声が砦内に響き渡り、防壁の陰に隠れていた剣合国軍兵が銃や弓、火炎瓶、油壺等を手に姿を現す。


 商吉が言っていた次であった。

銃・弓兵は落とし穴より奥でまごまごしている兵を狙い撃ち、油壺や火炎瓶は落とし穴の中へ投げ込んで、油を染みさせていた土に引火させる。


「糞が、一度後退させろ! 弾の届かない所まで後退だ!」


 防壁前に炎の堀を作られては簡単に攻められない。

ブイズは商吉に一手遅れる形で後退命令を下した。

然し守備隊が降らせた矢弾の雨による遠距離追撃はブイズ隊前衛に多くの死傷者を生む。

中でも落とし穴に落ちた者は骨折や火傷も加わって逃げ遅れ、正に格好の的であった。


 だが、殺られっぱなしこそブイズの柄ではない。


「攻城兵は土を蹴り入れて火を消しながら進め! 銃兵は壁上の敵目掛けて撃ちまくれ!」


 攻めの姿勢が強い彼は下がりきった前衛を立て直しつつ、混乱から回復したばかりの中衛白兵隊と後衛銃兵隊を前進させる。

銃兵が援護射撃を行う間に白兵隊は弱まった堀の火に土を被せて鎮火。後は堀を乗り越え、勢いに任せて防壁に突撃するのみ。


「梯子が掛かったぞ! 行けェ!」


「登らせるな! 突き落とせ!」


 攻城兵が防壁に到達すれば、それ以降は基本の攻防戦となる。守備側は地の利若しくは城壁や防壁を用いて効率良く守り、攻撃側は長梯子や時には攻城兵器等を用いた多面攻撃を行う。


 とは言え、この形式はあくまで守備側が全兵での籠城作戦を採り、且つ援軍等の存在がない場合に限る。

言い換えれば、砦に駆け付けられる外部範囲内に守備側の別戦力が存在した際には、別の戦闘形態となる事だ。


「敵の背後を抉るぞ! 一気呵成に突き進め!」


 突如としてメイセイの騎馬隊三千が、神速を以て北より来襲。

各小隊ごとに多くの欠員が出たことで立て直しに時間がかかるブイズ前衛部隊が後退し、最後衛に控える商吉の遊撃隊とブイズ後衛銃兵隊の間に入り、体の良い障害物となって両隊を分断した所へ突入する。

結果、北側の商吉遊撃隊は半ば孤立した形でメイセイ隊に蹴散らされた。


「メイセイが現れただと? あの糞野郎、さては外に伏してやがったな。……砦の攻撃はこのまま続けさせろ。俺の直属部隊は直ちに出陣だ。北面部隊の援軍に向かうぞ」


 北側を攻撃する部隊がメイセイの急襲に遭ったとの報告を受け、ブイズ自ら一千の騎兵を率いて救援に向かう。

西側の商吉も一千の騎兵と共に先行し、後には二千の歩兵を続かせる。

二将はメイセイが砦の外にいるこの状況を利用して、彼を討ち取ろうと考えていた。


「メイセイ将軍、東西より新手の騎馬隊です。数はどちらも一千余りですが、本隊旗を掲げている事からブイズと商吉本人が率いている模様」


「……一旦下がるぞ」


「はっ。……全騎反転! 後退だ!」


 北側部隊を散々に打ちのめしたメイセイは、新手の姿を見るや来た道への後退を指示。


「どけぃ!」


 部隊指揮は側近が執り、メイセイ本人は大剣を振るって邪魔な敵兵を吹き飛ばす。

それでなくとも北側部隊には追撃する余力も後退を阻む戦力もなく、メイセイ隊は迅速な転進を以て東西からの挟撃を回避する事に成功。

同時にブイズと商吉を砦から大きく引き離した。


(……んむ? いや、この状況は不味い!)


 メイセイを追う最中、商吉は逸早く自分の置かれた状況を察した。

彼は馬の足を止め、自らの部隊に反転を命じる。


「これは罠だ! 全騎引き返せ!」


「ああ! 罠だぁ⁉ 何言ってんだ商吉の旦那は。このままメイセイを追撃するべきだろ!」


 並走していた商吉騎馬隊が急に止まった事で、少なからずブイズ隊にも動揺が走った。

その時だ。砦唯一の北門が開き、中から陳樊率いる三千の兵が打って出る。


「出撃だ! 尻を見せた敵を遠慮なく襲え!」


「ウホォー‼」


 嫌な号令と嫌な喚声の下、出撃した陳樊隊は承土軍の北側攻撃部隊の残りと、商吉騎馬隊に続いていた二千の歩兵隊に切り込んだ。

念のために言うが、彼等は男色兵士でも発情期の猿でもない。如何なる状況でも遊び心を忘れず、互いを奮い立たせる事の大切さを知る少年の様な純粋無垢な騎士である。……バスナ風に言うならば、アホの一部である。


 兎に角、これで商吉とブイズは背後を取られる形となった。


「将軍、砦から合図の煙弾が撃ち上がりました!」


「再度反転だ! 砦の兵と共に敵を挟撃するぞ!」


 ここでメイセイが呼応しない訳がない。

練兵を重ねに重ねた結果、最速を極めたメイセイ騎馬隊の反転は、馬首を返しきった時には第二次突撃の為の隊列修正も済ましていた。


「徹底して朱に染めてやれ! 奴等が民にした様に‼」


 突撃の号令と指揮、そして先駆けは自らが行う。徹底的な攻勢を以て。

彼に続く猛兵達もその姿に触発され、当たるべからざる勢いを生み出した。


「ブイズ殿、ここは軍全体を下げて承咨様と合流する他ない!」


「ちっ! 仕方ねぇ……一時撤退だ! 南の部隊から順に下げろ!」


 承土軍先陣は形振り構わぬ総退却となり、最早メイセイを阻むものは無かった。

メイセイ騎馬隊は逃げるブイズ、商吉隊を追撃。計一千余りの敵騎兵を討ち取る。

砦より出撃した陳樊隊も、ブイズ指揮下にある北面攻撃部隊を全滅させ、逃げる上官の盾となった商吉の後続歩兵隊にも甚大な打撃を与えた。

この前哨戦で承土軍は八千もの死傷者を出し、先陣軍は這う這うの体でカイヨー方面への退却を余儀なくされた。


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