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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
存在と居場所
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猛将二人の出会い


 剣合国軍が覇攻軍領への侵攻を決定した頃、彼等と同様に今を好機と捉えて出兵前段階まで準備を進めていた勢力があった。


 剣合国軍から見て、飛刀香神衆ヒトウコウジンシュウを挟んだ東南に位置する承土ショウド軍だ。

北半分をシンシャク川に、南半分を興宮コウキュウ湾に面するラクウトゥナ小大陸の汽水域付近に本拠地ジョウハンを定め、今やその勢力は大陸の七割に加えてシンシャク川を渡った先の北東西の各地にも広がりを見せている。


 剣合国軍との位置関係を細かく示せば、群州東隣にある慈経州北半分の遜康ソンコウ地域を剣合国軍が領し、残る南半分北部のカイヨー地域を飛刀香神衆が、南部のファーテイス地域を承土軍が領する。更に遜康地域は北と東にシンシャク川が流れ、川を挟んだ北は同剣合国軍領のアーカイ州、東はレトナ国軍と承土軍領となっていた。

南の飛刀香神衆、東のレトナ国軍が承土軍を抑える形となり、剣合国軍は先述の二勢力と友好関係を結び、彼等と協力して承土軍に対抗していた。


 然し、その一角が崩されようとしている事態に、剣合国軍の諸将は気付いていなかった。




 カイヨー東部の河岸


 ナイツ帰還より四日後の事、夜陰に紛れてシンシャク川を渡った対レトナ国軍所属の小部隊が、裏切り者の手引きによって飛刀香神衆の領内に侵入していた。


承咨ショウシ様、お待ちしておりました。手筈通り、港の守備兵は酒で酔いつぶしてございます」


「大儀である。兵の上陸も済んだ故、直ちに案内せよ」


「ははっ」


 承土の嫡男・承咨自らが少数の精鋭兵を率いて敵地に上陸。

知勇に長けると共に血の気の多い若き司令官は、シンシャク川上で待機中の後続軍を上陸させる為に河川港へと急いだ。


 河岸部防衛の任を帯びていた飛刀香神衆の頭目・殷撰インセンの裏切りにより、防衛線たる港は瞬く間に陥落。承土軍五万の上陸を許し、その夜のうちにカイヨーは獄炎と鮮血の烈朱に染まった。


「殺したければ殺せ! 奪いたければ奪え! 犯したければ犯せ! それが勝者に与えられる特権であり正義だ! 我等ブイズ隊を裁ける者など存在しない! 思う存分に雑魚どもを可愛がり、それ以上にこの勝利と乱世を楽しみまくれ‼」


「勝利と乱世に感謝をォ!」


「死ねや雑魚ども、我等が為に!」


「死ねや死ねや! 我等が正義の名の下に!」


 積み重なった全裸女性の骸上で、狂気を正常とする悪将・ブイズが声を張り上げる。

彼に便乗する兵もまた、黒一色の目をして狂言を発し、無辜な民を殺し尽くす。

非戦闘員を殺めないという暗黙の了解に反するこの行為は盛大を極め「カイヨー民三分の二殺し」の名で後世に語り継がれていくのだ。


(この様な不義、罷り通って良いものではない! これは既に、人が為す悪行の域を超えている‼)


 承咨の副将として従軍した楽瑜ガクユによる領民保護のお陰で、カイヨーの人口が三分の一を下回る事は免れた。彼にとっては、後に聖闘将の異名を冠するきっかけとなる出来事であったという。




 カイヨー陥落の夜が明けた頃、北隣の剣合国軍領 遜康には、承土軍の虐殺より逃げてきた五万もの難民が群れを成していた。


 皆が皆、着の身着のままの状態であり、明らかに身内を欠いているであろう者が大半を占めている。


(……家財を持ち出す間もなく、家族すら見捨てねば逃げられなかったのか……)


 遜康の守備と飛刀香神衆及びレトナ国軍への援護を任されていたメイセイは、カイヨーより逃れて来た難民の保護の為に急遽出動していた。

彼は隻眼に憐憫の情を込めると同時に激しい義憤を抱き、承土軍の鬼畜に勝る所業を蔑んだ。


(許し難い存在だ! 暴力に酔いしれる真の悪漢だ! 生きる価値のない地獄送り決定の屑ゴミどもだ‼)


 憔悴しきった民を想うメイセイは、徒に怒号を発してこれ以上の刺激を与える事はせず、彼等の救いとなる姿を示す事に尽力する。

だが彼の気配には、武芸の心得ある者ならば見てとれる程の怒気を纏い、幾度もの戦場を共に駆けた愛馬さえもその怒りを肌に感じて身を縮めていた。


「メイセイ将軍、物見の報せで承土軍の中規模部隊がこの地に侵入したとの事! 数はおよそ二千から三千。今なお逃げている難民の背を追いながら、国境西側の森を北に進んでおります!」


 難民の傍にあって、彼等の身を守る形で陣頭指揮を執るメイセイのもとに承土軍来襲の報せが届けば、付近の民はたちまち恐怖の色を浮かべ直してしまう。


 メイセイは部下に状況を考えた報告の仕方をしろ、と言いたくなる気持ちを後回しにして、民の動揺を打ち消す事を最優先ととる。


「皆、安心しろ! 承土軍如き虫けらが百億人来ようが、この飛雷将メイセイと歴戦の勇士達が必ずお前達を守る‼」


 魔力を乗せた一声が民の不安を一蹴して払い除け、同時に兵達の心にも闘志を宿させる。


「汚ならしい手でカイヨーの民を殺め、汚ならしい足で俺達の地を踏んだ事を子々孫々にまで後悔させてやる! 騎兵一千は全力で俺に続き、歩兵二千はその後に続いて難民を保護しろ! ナイト殿にもこの事態を報告して援軍を仰げ! 遜康城の侯覧コウラン(遜康の内政官)にも備蓄物資と保護に必要な物資の量を調べて報告させろ。陳樊チンハン(メイセイの副将)はこの場に残って全体の指揮を執れ」


 指示を出し終わるや、雷の如く速さで疾走するメイセイ隊。

まだ助けられる可能性のある命の為にひたすら駆けた彼等は、通常の騎馬隊の倍近い速度を以て難民追撃部隊の側面を突き、一撃の下に粉砕。

その後、剣合国軍領への深入りを諌めるべく派遣された後続部隊一千も同様に消滅させ、一万余の難民の安全を確保することに成功した。


「将軍、あれを!」


 国境付近の森の切れ間にて、側近の一人が不意に西の方角を指し示す。

メイセイが新手若しくは他の難民かと見やれば、そこには剣合国軍ではない騎兵達に追い散らされる承土軍部隊の無様この上ない姿があった。


「あれはトーチューの騎兵……! そうか、あいつ等と飛刀香神衆は盟友だったな」


「将軍、どうなさいます。トーチュー甘氏と我等は停戦関係ではありますが……」


「逃げる承土兵を見逃がしてやるほど、俺は優しくない! 騎兵三百、俺に続け! 敵の退路を断って全滅の憂き目に遭わせてやるぞ!」


 トーチュー騎馬隊が剣合国軍領にまで承土軍の追撃に出ているという事は、遜康よりも早く多くの難民がトーチューに流れていた事を意味した。

友誼を重んじるトーチューの騎馬民族が、カイヨーの惨状を知って黙っている訳はなかった。

彼等は地理を忘れる程に怒り狂った様子で承土軍兵士の背を切りつけながら爆走する。


「族長! 北の森から騎馬隊が出現しました!」


「剣合国軍のメイセイです! ざっと三百騎! 承土軍の背後を遮断してます!」


「おう! トーチューの益荒男どもよ、この機を逃さず一気に承土兵を討ち果たせ‼」


「おおおさぁっ‼」


 トーチュー騎馬隊は更に勢いを強め、極限の混乱状態に陥った承土軍部隊をあっという間に皆殺す。降伏を願った者までも一切合切、公平を以て切り伏せた。


「甘族々長の甘録カンロクだ。お主は剣合国軍主将のメイセイ殿と見受ける。協力感謝いたす」


 二千を超える承土兵が死に絶え、静まり返った戦場の中を堂々と進んで現れた大男は、メイセイの前で足を止めて粛然と感謝の言葉を述べた。


 これが噂に聞くトーチュー甘氏の現当主・甘録かと思ったメイセイは、彼に倣って武器を収める。


「礼を言われるまでもない。ところで、単刀直入で悪いのだが、難民をどれほど保護できたか聞かせてもらえないだろうか?」


「我が領内に逃れたのはおよそ十万強といった所。……その方等は?」


「五、六万だ。……とてもカイヨー二百六十万の民の数には合わんな……」


 難民の数が十万を超える事からして、カイヨーの惨劇は相当なものだと理解に易い。

にも拘わらず領民の総数に対する実際の避難民の数があまりにも釣り合わない。

メイセイは自分から話題を振ったものの、最悪の事態を予想した途端に口を閉ざしてしまう。


「ともかく、我等両人にとってカイヨー人は盟友だ。一人でも多くの者を救わねばならん」


「む……確かにその通りだ。かたじけない、己の任を果たせずに少しだけ気を落としていた」


「それは我等とて同じ事だ。……願わくば、この時局だけ主等の領内に我が人馬が踏み入る事を認めてほしい」


 メイセイは噂に聞いて想像した甘録と比べて、実像が大いに違うことに驚いた。

巷で聞かれる甘録の噂は、自尊心の高い好戦的な荒くれ者。協調性に欠け、猪突猛進で強者との戦いにのみ生き甲斐を感じているとの事。

然し、目の前にいる本物は友の為なら自ら下手に出る事も厭わない人情家だった。

戦闘と対話の切り替えも完璧であり、歳はメイセイと大差ないにしても偉大な族長の雰囲気がひしひしと伝わってくる。


「当然の事。俺達の方からも是非願わせてもらいたい」


 独断認可ではあるが、現場の指揮官としては最善の判断であった。

甘録とメイセイは僅かに言葉を交わしただけで直ぐ様各々の務めに戻った。

漢同士、多くを語らず多くを理解したらしく、良く言えば意気投合したのだ。

これが後の天仁王時代に於いて、先陣組結成の発端になる事を二人はまだ知らない。


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