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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
ナイツと童
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濃霧戦開始


東鋼城塞戦二日目。


 この日の早朝も、前日と同じ濃霧が戦場をゆったりと覆い隠していた。

兵を動かすには絶好の機。李醒と彼の指揮下にあった遼遠に油断はなかった。

元々の堅固な陣と守備力充分な地形に強兵を配して、未だ薄闇の中にも拘わらず戦の備えを整えていた。


 だが、東山の守備軍はそれに反して備え不充分、地力は高低のみといった状態であった。

臨戦態勢にある兵も軍外側に位置する韓任、李洪、賀憲隊の半数程度。山奥に布陣するナイツ、メスナ両部隊の大半は眠りの中にあり、東山守備軍の多くが戦は明日以降と高を括っていた。


「……天は俺達に味方した様だな。これより敵警備隊を一気に抜いてナイツの陣を急襲する! 後れを取るな!」


 濃霧の発生を願い、暗いうちから自陣を出たマドロトス率いる一万三千の大隊。

山地の入り口までの道を迂回して進む事によって李醒の放っていた物見の目を掻い潜り、最終警戒区域手前まで進む事に成功した彼等は、それまでの静けさを消し飛ばす爆走を示しながら東山に迫った。

途中の二箇所で百名程度の警備小隊と接触し、マドロトス隊の存在が李醒本陣に知らされたものの、彼等は意に介する事もなく突き進む。


「将軍、敵は第二地点を突破した模様。数と兵種は不明、攻撃場所も不明です」


「…………」


 マドロトス出撃より僅かに遅れて早起していた李醒は側近の報せを受けて尚、指示を下さなかった。否、下せなかったのだ。


(東山は必ず攻められる。だが、要はそこにマドロトスが居るかどうかだ。目前の戦場でしか本領を発揮できない事は奴自身が痛く知る。故に何処か一点に集中攻撃を仕掛ける筈だが……そこが判明できない間は下手に動く訳にはいかん)


 霧が敵の姿を隠した事は守備側を大変苦しませた。

具体的な数、明確な攻撃地点が不明という圧倒的な情報不足が李醒の判断をも霞ませてしまう。


(……濃霧が二日連続で起こる事は誤算であった。奴等は予定時刻になっても霧が立ち込めなければ陣に引き上げればよいが、我等は要塞から離れられん)


 天候や風を予期し、時には操る事もできるとされる天文の才。

軍略専門の李醒にはその才能はなく、マドロトスも昨日今日と連続した濃霧は完全なる運頼みであった。


(あの者が居れば大分助かっただろうが……)


 李醒は仲間内で唯一人の天文習得者を連想するが、残念な事にこの戦場に居るのは自分のみ。

百メートル先も見えぬ白霧の戦場にあって、総大将たる李醒が限られた情報を元に兵を動かすしかないのだ。


「報告します! 東山、西山、一の門の全箇所に於いて敵との交戦が確認されました。マドロトスの位置は不明。各所の敵兵数も不明のままです」


「マドロトスめ……小賢しい事をする」


 この時マドロトスは、遼遠が守る西山に兵三千を、一の門に兵二千を、東山に自身が率いる八千を当てていた。同時に三箇所を攻め、何処が本命かを悟らせない戦い方だ。

純粋な剣豪将軍であるマドロトスにしては良く考えたものだと、李醒は苦々しく思う。

各所の味方ごとが連携のとれない状況では、マドロトス一人の出現だけでその場を制圧できてしまう。逆にマドロトスが居るだけで本命と決め付ける事も危険であり、奴を囮にして剣合国軍の戦力を引き付けた後に他の要所を多くの兵で攻める恐れもある。


 いずれにせよ、この時点では各所の味方の奮戦に期待する他なかった。



 敵の戦力が把握できない状況にあって、最も苦戦を強いられたのは東山守備軍であった。

敵襲の報せと共に韓任、李洪、賀憲は計三千の兵を率いて迎撃に出たが、刃を交える敵は六千。その後ろにマドロトスの二千が控えている。

防陣が未完成かつ兵の配備が不充分な現状、単純なる真っ向からの消耗戦は倍の戦力を有する敵が優勢だった。


「若、四百ちょっと兵は集まったけど、本当にこれだけで出撃するの⁉」


「全員を待つ時間はない。とにかく今は数が少ないなりの戦いで時を稼ぐ。幸か不幸か、この霧のせいで敵も俺達の総数は把握していない筈だ」


「それでも騎兵はある程度連れてった方が……」


「こんな霧の山中で騎兵なんて出したら将棋倒しになるだけだ」


 歩兵十割で構成された部隊を率いるメスナは、騎馬隊を強力な戦力とだけ捉えている節がある。

その点ナイツはメスナより若いながらも、兵種特性を細かく理解していた。


「メスナは後続の手配に専念してくれ。騎馬もある程度は準備して霧が晴れ次第、敵の側面に廻り込むよう動かして牽制してほしい。それと弟を見てないか!」


「私は見てません。一緒の天幕で寝ていたのでは?」


「起きたら居なかった! もし見かけたら本陣から出さないようにしてくれ」


 ナイツはメスナが手配した四百弱の歩兵を率いて交戦中にある南側四合目に向かった。

彼は童が一足先に最前線へ赴いたのではないかと気が気でなかったのだ。


 そして、ナイツの不安は的中する。

三隊の中で最も苦戦している李洪隊の持ち場に、その小さき姿はあった。


「……!」


 戦場を兎の様に跳ね回り、時には虎の様に飛び掛かり、擦れ違う度に左手の長く鋭い爪で敵兵を鮮血に染めていく童。

単身で行動し、すばしっこくも大胆な身のこなしを以て敵兵の群れを一つずつ壊滅させ、多くの輝士兵の危機を救う働きを示す。


「忌々しいガキが! こうなればナルマザラスの勇者と謳われたこのカマセ様が……ぐはぁ⁉」


「カマセ隊長ー⁉」


 血気に逸る敵部隊長を、右手に握る片手銃から撃ち出した魔弾で容易く撃破。続け様に、指揮官を失い動揺した小隊の中へ突入。


「ひっ……! 何なんだよこのガキは⁉」


 童は表情の無いままに三十名近い敵兵を切り刻み、残る七十名程を四散させ、二十名を追討する。たった一人の幼子が、数分も要す事なく一個小隊を半壊させた。


「……何て強さだ……本当にあのプリンちゃんなのか?」


「う……うおお! ナイツ様直下の俺達が、弟君だけに戦わせてなるものか!」


「行くぞ、弟君に続け! 我等輝士隊の真の強さを見せるのだ!」


 童の人間離れした強さと無言の威圧に、輝士兵達は微かな恐れを抱く。

だが指揮官である李洪までもが槍を手に戦う混戦の中に於いて、童の存在が周囲で戦う輝士兵達の支えとなっている事も事実。

具体的な指示や援軍がなく、敵の猛攻に陣形を崩されていた彼等にとって、童の威容は良い起爆剤だった。無駄がなく、狂いのない真面目な集団戦法を基本戦術とする彼等が、個人毎の本領を頼みとした無秩序かつ猛然な反撃に出たのだ。


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