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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
ナイツと童
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父は光の速さで先回り


 時は少しだけ遡り、マドロトス本隊が出撃した頃。

ナイツは父だけに、出撃準備完了までもう一時間必要との嘘情報を流し、彼が「盛大な出陣儀式の準備をしてくる」と言って兵糧庫へ消えたのを機に、さっさと出兵してしまった。


「ナイツ殿の気持ちも分かるが……ナイト殿もつくづく不憫だな」


 城下の門まで見送りに来たバスナは、ナイツに苦笑を浮かべて見せる。


「父上が何を企んで兵糧庫へ向かったのかは知らない。だけどあのムカつくまでの笑顔は絶対に足止めを食らわせるつもりだ」


「くくっ……違いない」


 散々に父を罵る息子の姿を見て、バスナは小気味良さを覚えた。

ナイトとしては愛息子の出陣を純粋に応援しているつもりだが、その愛情が異常な行動で表されている事に問題がある。

そしてナイツには、父よりもバスナとの会話を楽しんでいる節がある程だった。


「……俺とナイト殿はまだ戦えんが、その代わりに副将の賀憲と三千の精鋭兵を同行させる。上手く用いて最上の戦果を上げてこい」


「有り難く」


「それと李醒だが、あいつは冷めている様に見えて隠れた情熱を持っている。戦の視野も俺より広く、広範囲で行われる熾烈な戦いを同時に操る程の用兵家だ。良い勉強になる故、よく見てよく相談する事だ」


「了解! ……じゃあ出陣するから、方元と槍丁に宜しくと言っておいて」


(方元と槍丁に……か)


 バスナは心の内でナイトへ同情する様に黙って頷いた。


「全軍、出陣!」


 輝士隊一万とバスナ兵三千はナイツの号令に従い、無駄の無い整然とした威容を放って義士城を発った。


……筈だった。


「おおーい息子よ、そして一万三千の我が仲間達よ! 保龍の地を頼んだぞ! これは俺からの差し入れだ。受け取れー!」


「ウオオオー‼」


「…………何故父上がここに居る……」


 義士城より一時間ほど南西に進んだ地にて、突如現れたナイトは高木の上で片足立ちをしながら、全身に装備している干し柿を兵達へ向かって投げ与え始めた。


 兵達は目を輝かせて干し柿を受け取り、素朴で優しい祖母の甘さに感激する。

中には文字通り目を輝かせる者もいた。

それと不思議な事に、秒間に百個近くの干し柿を投げ飛ばしている様に見えるのだが、ナイトの装備している量が一向に減らない。

魔法? 幻? とんでもない。アホを極めたアホだけが成せるアホな妙技だ。


「ふっはははは! 息子よ、父を出し抜こうなど十年早い。お前には干しトマトをやろう! リコピンたっぷりで美容とダイエットにはもってこいだぞ!」


 兵達に干し柿を配り終えたナイトは漸く白い戦袍姿に戻り、最後は腰に残っている赤いドライトマトをナイツに向けて投げ飛ばす。


「あ、り、が、た、く」


 投げられた五つのドライトマトを、リズミカル且つやる気無く受け取るナイツ。

語るまでもなく、彼の士気は大いに崩落していた。

もう美肌とか老化防止とか効率的な体重減量とか新陳代謝の活性化等といった素敵なドライトマト効果はこの際どうでもいい。


(……とにかく進軍させてくれ)


 この一言に尽きる。

ナイツの目前にはナイトの檄と気遣いによって良く言えば小休憩、悪く言えばナイト教の集会といった光景が広がっていた。

当然の事ながら進軍の足は完全に止まり、緊張感も消え去っている。


「俺、先に行くから」


「じゃあ私もお供しまーす!」


「私も同行します。すみませんが、李洪殿には後を任せます」


「私だけですか⁉ せめて韓任殿も残ってくださいよ!」


 李洪が縋り付くより先にナイツ、メスナ、韓任は駆け出した。


「……私一人でどうしろと……」


「李洪将軍、項垂れるには及びませぬ」


「あ……貴方は!」


 一人だけ常識の中に残されたと思われた李洪だが、天は彼を見捨てていなかった。

何と軍中屈指の常識人バスナの副将を務める賀憲が居たのだ!

この時の出来事を後日、李洪は正に地獄に仏を得た心境であったと語る。

二人は苦労の末に進軍を再開させ、士気の高さを活かした速行軍にて遅れを取り戻した。




 仲間達の熱気帯びし背を見送ったナイトは木から飛び降り、誰も居ない筈の木陰に向かって話し掛ける。


「ふっはは、黙って出陣された時は流石に驚いたが、間に合って良かった。すまんな奥、助かったぞ」


 腕を組んだ状態で木にもたれ掛かったキャンディが、いつの間にかそこに居た。


「そっ。満足したなら帰るわよ」


「おう、ありがとな!」


 キャンディは言動こそ素っ気ないが、大将であり父でもある夫のこの行動に一定の意味がある事を知る以上、否定もしなかった。


「戻ったら方元達を鼓舞する。……とは言え、まだ時間があるからな。どうだ奥、たまには二人で……」


「ちょっと、近いわよ! やめなさい! 童ちゃんだって見てるのよ」


「え、何処に?」


「へ、ここに……あれ?」


 ナイトに抱き寄せられたキャンディは、先程までの淡白さが嘘に感じられる慌てようを見せた。

彼女は咄嗟に機転を働かせ、一緒に連れてきた童の目を気にする素振りを見せたが、肝心の童の姿が何処にもなかった。


「ねえ貴方、もしかして童ちゃんは……」


「おそらくお兄ちゃんについていったな。うむ、元気があってよろしい!」


「追わなくていいの?」


「ふっはは! 俺が命の危険を感じた程の子だ、普通に戦う分には問題あるまい。もし何かしらの危機があったとしても、そこはお兄ちゃんが助けてくれるだろう。

……メスナから聞いたが、昨日の巡察での二人は本当の兄と妹のようだったそうだ」


「はふふっ、メスナちゃんがね」


「おぅ、メスナからしたら兄と妹だ! 俺からしたら兄と弟なのだがな! ふっははは!」


 腰に手を当てて高笑いするナイト。

幼子とは言っても、強さに於いてはナイトを殺められる可能性を持つ子である為、彼は心配していない様だった。


 気にするべき目がないと知るや夫婦は暫しの間、二人っきりを楽しんだという。

それは子供や仲間達の実力を信じるが故の気楽さか、単純に深い夫婦愛が成す別次元か、若しくは両方の要因故なのか。

とにかくナイトとキャンディは久しぶりに楽しんだ。

方元が丹精込めて作った干し柿の大多数を何者かに略奪されて落ち込んでいるのを露にも知らずに楽しんだ。方元の代わりにバスナが自らの政務と兼任して出陣準備に忙殺される中を優雅に楽しんだ。


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