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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
ナイツと童
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出撃準備


 食卓を囲んだ軍議を終えた後、各人は己々の任務に当たる。

方元と槍丁は密かに軍勢の出撃準備を整え、亜土雷は彼本人が行う予定の兵練を担当、ナイトは募兵活動、キャンディは負傷兵の治癒、バスナは内政業務、ナイツと輝士隊は群州の巡回、亜土炎と槍秀は酔い醒まし後に方元の支援。童は朝食を食べ終わったらその場で寝てしまった。



 輝士隊の詰所


 巡回に先立ち、輝士隊の将達を詰所に集めたナイツは、彼等のみでの軍議を開いた。


「李洪、明日中に輝士隊の全てを集める事が可能か?」


「はい。守備任務に就いていた兵達はまだ解散していません。待機組も出撃可能な状態にあります。今日の夕刻には七割近くが集結させられるでしょう」


「ならできるだけ静かに集めてくれ」


 指示を受けた李洪はお安いご用とばかりに自信に満ちた顔色を見せて頷く。

李洪のみでなく、他の将もナイツが何を考えているかが理解できていた。


「覇攻軍の侵攻を逸早く防いじゃおうって話ですね?」


「そう。バスナの予期した事は本当に起こると思う」


 軍議内容を確認するメスナにナイツは自らの考えを語る。

その思考はとても十三歳の子供とは思えぬ程に鋭く、的確なものだった。


「それも近日中だ。先の戦で我が軍は傷付いたばかり……これを覇梁が狙わない筈はない。父上は方元達に第二主軍の用意をさせたが、それとて先月の南亜会戦によって兵の再編が済んでいないと聞く。敵の侵攻を受けてから急遽召集しても、実際に戦える者はよくて二万弱……覇攻軍と互角に戦える数を揃えるにはまだ時を要する」


「とは言っても、私等だって総数は一万程度ですよ」


「確かに戦をするには少々心許ない数だ。だが、一人一人が敵を圧倒する猛者にして勇者。如何に覇攻軍が強くとも皆が力を合わせれば、父上の本軍が出撃するまでの時間稼ぎはできる」


 輝士隊は歩兵八千、騎兵二千で構成された一万の精鋭部隊。

ナイトの本軍に従って主攻を担う時もあれば、南亜会戦の様な遊撃戦を展開する時もある。

そして今回予想される戦では、自分達の役目は敵の足止めにあると位置づけた。


「……だが六華将、彼奴等だけは要注意だ。仮に遭遇したら無視して奴等の配下だけを徹底的に狙え。若しくは事前に罠や伏兵を用意し、そこまで誘い込め。実際に戦って分かったが、強過ぎるのはあくまで六華将のみ。直下兵同士の戦いなら俺達が優勢だった。……矜持は捨てて確実に勝てる状況で戦うことを意識してくれ」


 ナイツの優れた点はここにもあった。

己の短所を確認するや素直にそれを正す。

これがどれほど簡単そうでいて、実際には難しい事か。

人生における先輩のメスナ達は充分に知っており、ナイツの指示を慎んで了承した。


「それで、覇攻軍が攻め込むとしたら保龍地域の東部でしょうか?」


 軍議は覇攻軍の侵攻場所についての話題に変わる。

韓任が言う保龍地域とは、群州の西隣に位置する山城州の南部一帯の山岳地を示す。

この地は覇攻軍との前線地帯であり、ファーリムが睨みを利かせて備える要所だった。


 ナイツは韓任の意見に頷いて返す。

その根拠には李洪を経由して、彼の父である李醒から得られた西方の勢力情報があった。


「間違いないと思う。李醒からの報告では楚丁州西部の覇攻軍と紀州の雑賀衆は未だに西のアレス軍に備えて動けられない状態にあるそうだ。となれば、動かせられるのは楚丁州東部の宝水城に駐屯するハワシン・マドロトスの軍。数はざっと七万」


「ファーリム将軍の守備軍はどれだけだっけ?」


 メスナが李洪に尋ねる。

自軍、敵軍の戦力配備を頭にいれている李洪は即座に答えた。


「五万八千だよ。然し、保龍地域一帯に分散しているから東部には二万しかいない」


 保龍の守備が西側に偏重しているのには二つの訳がある。

一つは西側に雑賀、覇攻軍と敵を持つ事。二つ目は保龍東部が義士城に比較的近い位置にある事。

西に敵が多く、東は味方本軍が近く援軍を得られやすいといった訳だ。


「力の弱い場所を攻めるのは戦の鉄則だ。六華将の一人ハワシン・マドロトスが率いる軍であれば東部は一気に攻め落とされる。そこを拠点にすれば義士城への本格的な侵攻も可能になるばかりか、西部と義士城を分段することにもなる」


 保龍の地の重要性とハワシン・マドロトスの強さを語るナイツに皆が同意した。


 ここでマドロトスの事を多少説明する。

マドロトスは「示現の太刀」の異名を持つ大剣豪。過去には諸国放浪中のナイト、ファーリムと切り合った経験を持つ。

六華将の中では珍しく良識を持ち合わせた人物であり、無用な殺生、無益な暴戦はしない。

それは師の教えによるものだと言われている。

戦い方は個人、集団ともに先手必勝一撃必殺の通り。一騎討ちでは一の太刀に全力を込め、戦争では苛烈な急襲で敵を滅する。更にはその初動を避けられても次なる太刀を用意する柔軟性も併せ持ち、単なる猪武者でない事が彼の強さを助長させていた。


「俺達の動きは父上やバスナにも話しておく」


「はい。楚丁州の時みたいに単独で動くより何とやらって事ですね」


「そして出陣する時間が定まったら……父上にだけは二時間ほど遅く伝える!」


「はい。大殿のお見送り…………ああ、そういう事ですか」


 メスナは言わずとも悟った。韓任と李洪も苦笑するだけで異論はない様子。


 ナイトの見送り激励には、正直に言ってありがた迷惑な節がある。

爆発的な士気の上昇はとても助かるのだが、高確率で兵士が狂戦士状態になり指揮系統が一時的に麻痺してしまうのだ。危急を要する状況でそんな事をされては戦どころか進軍すら儘ならない。

故にナイツは整然とした出陣を望み、ナイトにだけ嘘情報を流す事とした。


 メスナはまたしても父子の関係に気を揉んだが、今回に至ってはナイツの言う通りであると進言を控えた。


(でも何故だろう……大殿にはそれが効かないような気がするんだよね)


 妙な確信はあっても根拠がない。何となく出陣の状況を予測はできるが、何故そうなるかが分からない。メスナは一人不自然に首を傾げた。


「メスナ殿、どうかしましたか?」


 李洪が目敏く気付いて声を掛け、彼の発言につられたナイツと韓任もメスナに視線を向ける。


「なんで瞬間移動できたんだろって気になって……」


「はあ?」


 ナイツと李洪が同時に素っ頓狂な声を出した。


「いや、ごめんなさい。何でもない」


 自分でも何を言っているのか分からなくなったメスナは手首を振って皆の視線を払う。


 ナイツ達は釈然としないものの、メスナの様子を見るに明確な答えは返ってこないだろう判断。


「ふははっ、しっかりしてくれよ。……よし、軍議はこの辺でいいだろう。李洪は出陣準備、韓任は水域を、俺とメスナは城下を巡回だ」


 ナイツ達は軍議を終え、各々の任務に当たるべく詰所を出た。


「あれ? 若、あの子って確か……」


 外に出て数秒と経たずにメスナが花壇を指差した。

その先には花の世話をする童に数名の兵士が人だかりを作っていた。


「皆して何やってんの」


「あっ! 若様。実はこの子供が詰所の中に入ろうとしまして、素性を明かせない者を入れる事はできないと伝えた所、素直に諦めていきなり花の世話をしてくれだしたのです」


「この子はな……」


 韓任が兵達に童の事を説明。その間にナイツは童の前に歩み寄って話し掛ける。


「待っていてくれたのか?」


 直立で小さく頷く童。

右手に小さなじょうろ、左手に小さなスコップを持つその姿は、目付きの悪さを除けば年相応の幼子だった。


「え、どこ行くの」


 童はそれらの道具を地面に置き、少し離れた日陰に歩いていく。

そしてちょっとした段差に置いてある、やや大きめの布包みを持ってナイツの前に戻ってきた。


「おっ、母上からの弁当か。ありがとな」


 弁当の包みを差し出す童に礼を言うと、童は無表情のまま頷いた。


 包みが普段より大きく重い事から、童の弁当も入っていると察したナイツはその場で包みを広げる。


「はい、これはお前の分だ」


 自分を含む四人分を取った後、包みを閉じて弁当を童に渡す。


 童は両手で軽くなったそれを大事そうに抱えた。


「俺達は今から街の警備に行ってくる。お前は――」


 本城で遊んできな、と言おうとした時、童はナイツの黒色の軍服を掴んで動かなくなる。


「どうしたんだ?」


「……」


 ナイツの目を見上げたまま、微動だにしない童。


 ナイツはその意図を汲み取りかねるが、メスナが代わりに気付いて彼に提案する。


「一緒に居たいのだと思いますよ。連れてってはどうですか?」


「連れていくといっても……巡回は遊びではないし」


 正論で返しても、童はナイツの服を掴んで離さない。


「……分かったよ。でも、あまりちょこちょこ動き回らない事」


 提示された最低条件に童は頷き返す。若干だが、睨みの利きが弱まった気がした。


「じゃあ韓任、河と海岸沿いの方は頼んだ。最近海賊が姿を見せているとの報告もあるから、充分に気を付けて」


「お任せ下さい。ナイツ様もお気をつけて」


 詰所を後にしたナイツは韓任、李洪と別れ、メスナと童、三百名の輝士兵を伴って城下へ巡察に赴いた。


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