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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
ナイツと童
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朝食軍議


平時に於ける剣合国軍の軍議は午前八時、朝食と共に始まる。

大きな長机を皆で囲み、箸を進めながら話も進めるのだ。ただし、一部の将に限る。


 今日の献立は彩り様々な旬野菜と産みたて卵のサラダ、日光をふんだんに浴びた鯵の開き、ほっかほかの白米、バターを包んで焼き上げたナーン、肉汁溢れだす熱厚ベーコン、醤油出汁香るふわトロ蛸焼き。

これら全ての料理が民からの献上品で出来ており、ナイトの仁徳の大きさを物語っていた。


「お~う! この蛸焼きは~旨ェ~!」


「今朝水揚されたばかりの蛸と御舟醤造より献上された醤油出汁を用いた一品との事。旨くない訳がありますまい」


 熱々の蛸焼きを頬張るナイトの賛美歌に対して、旨さの理由を語る方元。

今朝一番の美味大賞が決定した瞬間であり、日常化した光景だった。

続けざまに蛸焼きを二個、大口へ運んだナイトは熱さに怯むことなく平然と喋り始める。


「ふぁて、んべふぁらなでふぁるいんひゃら、でもひょのひぃひょうにめをふぉうひで……(さて、食べながらで悪いんだが、手元の資料に目を通して)」


「子供の前で行儀の悪いことをするな。喋るなら食べるな。食べるなら喋るな」


 バスナの小言を聞いたナイトは、キャンディとナイツに挟まれた席でナイトに劣らぬ食いっぷりを示す童の方を見た。


 童は蛸焼きを頬張りながらナイトを睨み、彼の真似をするように金魚の如く小さな口をパクパクさせていた。


「これ完全に貴方の動きを覚えちゃったわよ。きっと大きくなったら食べながら話すわね」


「そりゃ参ったな。個性が重なってしまう」


「……そうじゃないだろうが」


 子供に悪影響を及ぼすナイトの行動にキャンディとバスナは苦言を呈するが、当の本人は意にも介さず見当違いの言葉を放って微笑する。


「閑話休題、閑話休題。手元の資料を見てくんなまし」


 ナイト以外の将が箸を置き、用意されていた資料を手に取った。


「……イカキ・オウセイの軍がまた一つの勢力を滅ぼしたか」


 それは中枢大陸西方に位置する超大国の動向についての報告書であった。


「深夜に届いたものだ。錝将軍カルタールの指揮の下、ヤドール、珠寵シュチョウ、キュイ・リカンが多方面より免氏を急襲。具体的な手口は分からんが、一日で三つの城が陥落」


「免氏は滅亡……か」


 イカキ軍の大将イカキ・オウセイは将としては凡人かつ保身的な人物。勢力拡大や富国強兵に興味を示さず、専ら文化推進に注力している。

だが先代大将イカキ・カクヤイにより生み出された精強な陸・空軍と将軍達は未だ健在。

その圧倒的な軍事力と国力をもって周辺勢力を次々と併呑していた。


「西方は他にも蜀漢、李氏、羅族等の強豪がおります。それらの諸勢力がいがみ合っている間は、イカキ軍も中央への進出は不可能かと。……争っている間はですが」


 槍丁の意見は的を射ていた。

西方には剣合国軍以上に強大な軍事力を持った群雄が多数存在し、覇権争いは中央に引けをとらない。

彼等は隙を見せれば即座に大戦となりうる戦況にある為、闇雲に戦線を拡げる訳にはいかず、イカキ軍にとっても西以外を敵に囲まれた立地にある事が影響して周囲の勢力をどうにかしない限りは他地方へ進出できないのだ。


「その通り、軍は動けんだろうな。……軍は」


 ナイトは白米に茶をかけて大好物へと変えながら言い捨てる。

その思わせぶりな台詞に、まだ何かあると感じたバスナは報告書の最後のページまで一気に目を飛ばす。


 案の定、そこには剣合国軍にとって無視できぬ内容が記されていた。


「覇攻軍とイカキ軍が同盟を結んだ……だと」


「ああ、その通り」


 バスナに続いて多くの将が動揺の色を見せる中、ナイトは至って冷静に茶漬けを食べる。

彼は昨夜の時点で知っていた上に、一年も前に安楽武の予想として今回の結果を聞いていた為、今更という心の余裕があった。


「前々から覇攻軍とイカキ軍は協力関係にあっただろ? 昨年には六華将の一人、鴉黔アキンがカルタールとともに蜀漢軍を撃退している」


「鴉黔……幻の六華将と呼ばれる男ですね」


「そうだ。剣合国軍の長老・方元ですら見たことがないから幻だ。それにな息子よ、奴が男か女かも分からん。鴉黔という名が本名なのか、異名なのかも」


 昨年といえばナイツが初陣を飾った年。

彼が六華将と直接交戦したのは先の戦のウォンデ、黒染が初めてだった。


「噂ではその鴉黔がイカキ軍に残り続け、覇梁の代わりに外交を司っているそうだ。バスナ、お前はこの動きをどう見る?」


 ナイトは大局的な視野に富んだバスナに尋ねる。

おそらく彼は、バスナが軍師代行を務めていなくとも彼に意見を求めただろう。


 そしてバスナは腕を組み合わせ、右目で報告書を見下す様に睨み付けた。


「どう見るも、これは明らかに俺達を皆殺しにする事を前提とした同盟だ。遠交近攻を通り越した完全な挑発行為に他ならん」


「乗っかってやるべきだと思うか?」


「……無視しておけ。周辺勢力には嘗められるだろうが、抑々今の俺達に自ら従ってくる利口な奴はこの辺一帯には存在しない」


「来るなら来るで返り討ちにするまで……か」


 覇攻軍とイカキ軍の同盟は遠距離すぎて殆ど意味のないものだった。

将の派遣や情報の共有程度の事は可能であるが、この盟の真の目的は両軍に於ける周辺勢力への強硬姿勢の表明及び、先を考えた上での事前交流である。

つまりは、周りにうざったい敵を持つ者同士仲良くしましょう。それでそいつ等を討ち果たした後はこれまで以上に友好関係でいましょうねという事だ。


「きっと俺達が仕掛けるよりも早くに奴等は攻めてくる。超大国との同盟という心理的優勢が活きているうちにな」


「……方元、槍丁。余力のある諸隊に臨戦態勢を整えさせろ」


「ははっ」


 バスナの予想をもとにナイトは対策を施す。


 方元と槍丁の二将は座った状態で一礼し、軍議が済み次第直ちに動く心構えを作った。


(願わくば、俺の魔力が全快した後に攻めてほしいもんだが)


 ナイトはキャンディに治してもらった右手を横目で見る。

外傷は既に全回復状態にあるが、童に吸われた魔力が思いの外に多かった。

こればかりは時間の経過とともに回復するのを待つしかなく、その間にどれだけの蛸焼きを食べても無駄である。


「よっし頂き!」


(俺の蛸焼きぃー!)


 然し、蛸焼きが美味しいのも事実。

ナイトはバスナが腕を組んで恰好つけている今は箸防御が大幅に遅れると見て、皿ごとバスナの蛸焼きを強奪して次の瞬間には口の中にいれてしまった。


「おお~美味しいなぁ~」


「……おぃ、まだ一つも食ってなかったんだぞ」


 右目に殺気を含むバスナだがナイトは知らぬ存ぜぬを貫いて、じっくりと、とても幸せそうに、鼻歌を交え、蛸焼きを完食してしまう。


「俺の蛸焼きぃー!」


 絶叫するバスナ。余程蛸焼きが好きだったのか、ナイトが喉に通した瞬間に彼は立ち上がっていた。


「……」


 そんなナイトの行動を悪い見本とした童が、新たなバスナの敵となって彼のナーンをじっっっっと見つめる。


「おい、まさかとは思うが真似するなよ。いいか、よく聞け。あの男の行動は大半が真似てはいけないものだ。分かったか? ……分かってないな。俺の皿を引っ張るな。これは俺のナーンだ。絶対に譲らんぞ! ナーーーン!」


 童はバスナの言葉を無視してナーンの皿に手を伸ばす。

バスナもすかさず皿を掴んで応戦するが、次の瞬間には童によって皿の上のナーンだけが奪われた。


「……くっ! ……何なんだこの面倒な親子は!」


「ナーンだけにか?」


「黙らっしゃい蛸泥棒」


 机に当たり、語気強く言い放つバスナ。


 だが、彼を最初に慰めたのは意外にも童だった。

童はナーンを強奪したお返しに鯵の開きとサラダを送る。

一見して嫌いなものをバスナに押し付けただけとも思えるが、食べるだけのナイトよりましである。

更にはナイツとキャンディが半分ずつ蛸焼きを分け与えた為、最終的にバスナの朝食は増えた。


「おぅ、良かったなバスナ!」


「ナイト殿は何もくれんのだな」


「おぅ!」


 おぅ、じゃねえ。バスナは蛸焼きを幸せそうに食べながら静かに言い返した。


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